見知らぬ懐かしい部屋
再び目覚めたとき、私は見知らぬ白い部屋にいた。いや、見知らない部屋だったけど、ある意味懐かしいというべきか。
明らかに化繊とわかるカーテンに私につながっている樹脂製のチューブ。その先にある薬剤を入れてある袋の文字は紛れもない日本語で、そのどれもが私が日本に帰ってきたと教えてくれる。
(そうか、私まだ生きてたんだ……)
てっきり死んだものだと思っていた。10トントラックに轢かれたのだ、無事だと思う方がおかしい。
で、とりあえず我が身の動作確認をしてみる。点滴をしていない方の手を動かそうとしたが、まるでダンベルでも持っているみたいに重いし、視界に入ってきた自分の腕は記憶していたものよりも細い。そうだよね~、8年も自分で動かしていないんだもん、筋肉はかなり退化してるわな。
それでも、なんとか顔の前まで持って行って細くなってしまった指を眺めていると、病室にいきなり誰か入ってきた。ノックもなしかよっ。ま、ずっと寝てたんだから、当然寝てると思うよね、フツー。
入ってきたのは私のお母さん。
「あ……」
(お母さんだ!)と大声で言ったつもりつもりだった。でも、その声は掠れて小さくて、とても言ってる私本人でも聞き取ることが難しい位だった。うーん、喉ももかなり劣化してるね。それでも、私と目があったお母さんはそれを信じられないもののようにまじまじと見つめて、
「みのり……良かった……」
と、私に近寄り、顔をなでる。私は、
「うん、ただいま」
とさっきより幾分でるようになった声でそう返す。それを聞いたお母さんは、
「ただいまってねぇ、あんた……」
と、当惑したような表情でそれに答えた。まぁね、私の体はずっとここにあったんだろうけれど、気分はングリーアス旅行帰りって感じだから。
それからお母さんは弾かれたように、私から手を離すとナースコールを押して、
「す、すぐにきてください。みのりの、みのりの目が覚めたんです!」
と叫んだ。
「えっ、目が……は、はい、すぐ行きます」
スピーカーの先で、驚いた様子の声と、がたんという音がする。8年も眠ってたんだもん、もう誰も目覚めないと思われていたんだろうな。私は周りの反応を妙に納得していた。
やがて看護師さんやらお医者さんがわらわらと集まってきて、私の検査が始まった。ってても、ただ寝てたのが起きただけなので、寝ていたとき以上の結果はなにも出なかったんだけどね。
しかし、あっちでは8年過ごしたはずなのに、事故からはまだ、たった8ヶ月だという。およそ12分の1にサイズダウン。
「夢の方が長く感じることは大々にしてあるものだよ」
とお医者さんにも言われたけど、夢のサイズが12倍ってなんか納得できない。確かに、仮眠程度で長く寝ていたなって思うことはあるけど、そもそも私はングリーアスでのことを夢だとは思っていないから。雷を捕まえにいく残念王族なんて、私の発想のどこにもなかったからね。思ってもいないものを夢に見られるとは思えないもん。
それでもこの8ヶ月の間に事故の時の怪我は治るものはすべて治っていた。
治らない怪我-私は脊椎に大きなダメージを受けて腰から下が動かせなくなっていたのだ。そのことを周りは嘆いたけれど、あんなに大きなものとぶつかっているのだ、生きているだけで奇跡だと思う。




