ミニョーリ人形
「ミニョーリを使うって一体どういうことなのさ。
見世物にするとかだったら承知しないよ」
それを聞いてやにわに怒り出すジル・サンダー。でも、クレスタに
「ミニョーリ本人を使うわけじゃない。第一、俺たちに彼女は見えないんだから、そもそも見世物になるわけないじゃん」
「う……」
と言われて、黙ってしまう。だよね~、鏡にも映らない私が、どうして見世物になるっての。
「俺たちもさ、ミニョーリが本当にいるって分かるまでは結構どん引きだったんだ。だったらそれを利用しない手はない。ただ、そのままだと芝居だと思われるから、見えるミニョーリを作る」
「見えるミニョーリ?」
他のメンバーが首を傾げる中、
「人形、等身大のからくりを作るのさ。そして、それを俺たちの女神様に祀り上げる。
一気に仕事はできるが性格のやばい集団のできあがりだ」
どや顔でそう宣言するクレスタ。
なーる! オタクが更なるオタクの極みを目指すって……いや、そんなもんで世間の嫁候補たちが引くかなぁと思ったんだけど、みんなはこの提案に、
「それ良いね!」
とノリノリだ。大体、提案を復唱したジル・サンダーの声のトーンからして期待度満々が分かる状態だったし。
早速手先器用な小間物職人の息子ビーンが動く仕掛けを制作、人形はジル・サンダーの言うとおりにビーンの幼なじみの人形師が作ったのだが……
「何これ……」
それは、黒いつぶらな瞳に色白の肌、カラフル軍団にも負けないようにフリッフリの洋服も着こなせる、穴があったら入りたくなるほどの可愛さだったのだ。まんがでも多少の美化はあるだろうけどね。これはやり過ぎだよ。もし方法があったとしても実体化はもうできないな(泣)。見てるとだんだん腹が立ってきたので、
「ジル・サンダー! あんたホントに正確に私の容姿を伝えたの」
って、思い切り突っ込みを入れる。
「正確にって、そっくりじゃない。ねぇみんな」
それに対してジル・サンダーはみんなに同意を求めるけど、みんなには見えてないんだから、分かるわけがないでしょ(ため息)
でも、ただのマドンナにするのはもったいない。この際だから、ミシンや諸々の技術はこのミニョーリ人形が教えてくれたってことにしようと(だって実際にそうだし)いうことになり、
「人形がしゃべっているように見せられないかなぁ……」
と言う、ジル・サンダー。人形がしゃべる? レコーダーなんてこの世界にはないしなぁ。……あ、腹話術!
「あのさ、訓練は必要なんだけど、唇をまったく動かさないでしゃべる方法はあるよ」
と言うと、
「唇を動かさずにしゃべるだって!」
と叫ぶジル・サンダー、それを聞いて、
「そんな方法があるのか」
「すごいな、ミニョーリは何でも知ってる」
と色めき立つメンバーたち。
「だから、訓練は必要だけど、私の世界には隣にいる人形がしゃべっているかのように演じる芸があるよ。ただ……」
「ただ?」
「この中で誰が声をやるっていうの」
そう、こんなに可愛く作ってしまったら、全員男のメンバーの誰がやってもオネェにしか聞こえないし! ま、それはそれでどん引きポイントが上がるっちゃそうなのだが、なんだかねぇ……
そしたら、医者の息子マウリッツが、
「命も危ないほどの大怪我をしたサーカス団の子がいるんだが、仲間にしてはどうだろう。たぶん、怪我が治ってもショーには出られないとふさいでいたから、受けてくれると思うが」
と、元サーカス団の女の子シェリー・チェラスカを紹介してくれた。
仕事上の事故だったから、サーカス団を追い出されはしなかったものの、肩身の狭い思いをしていたシェリーは、二つ返事でその話を受けてくれて、腹話術の特訓を開始、可愛すぎるミニョーリ人形に鈴を振るような声を当ててくれることになった。
いや、こうなると私とはまったく別物だし……




