チームサンダーボルトの憂鬱
さすが国内から選りすぐった#技術者__オタク__#たちだ。私(もちろんそれはジル・サンダーの口を借りてだけど)が原理だけを説明しただけで、彼らは試行錯誤しながら蒸気機関車をホントに作ってしまった。線路の方も国のトップがスポンサーだし、荷物優先のコンテナ仕様と言うこともあって、ミラクロアの蒸気機関車デビューは驚くほど早く実現した。
また、国を挙げての政策(?だよな、もはや)だから、安全面も国が全面バックアップ。なんと国軍が双方の駅に張り付いて荷物の上げ下ろしをガードしてくれることになったのだ。
今のとこ、鉄の塊が疾走していくのに突撃していくほど骨のある(?)山賊もいなさそうなんで、駅さえガードすれば積み荷強奪の確率はかなり防げるとのこと。にしても、一般人が騎士団使って大丈夫なのと聞いたら、ジル・サンダー曰く、
「最近は情勢が安定しているからね、騎士たちも逆に仕事ができて良かったんじゃない」
ってさ。確かにね、戦争がないからといって騎士団が訓練をおろそかにするわけにはいかないし、仮想敵国とか作ってやるよりも案外合理的かもしれない。ま、戦い方は全然違うんだろうけど。遊んでるよりいいよね。
こうしてほとんど何も問題なくミラクロアに汽車が走ることになった訳だけど……本当の問題は鳴り物入りで王都-ラディアン間の路線が開通した後に起こった。
なんとチームサンダーボルト(工房の名前を誰も考えてくれないんだもん。仮のつもりで私が言ったのにそのまま屋号にしてしまった)のメンバーの元に結婚の申し込みが殺到したのだ。トップにいるジル・サンダーはもちろんのこと、全員に白羽の矢を立てる親たちがわんさといたのだ。
確かに、チームサンダーボルトの面々は挙って実家を継ぐ必要がなく、もちろん頭も良くてしかもイケメン、当然全員独身。そしてその上ミシン&鉄道事業で相当儲かっていると思われているから、それも仕方ないと言えばそうなのだが……彼らの名誉(?)のためにいっておくと、ミシンは貴族向けには儲かったんだけど、庶民に普及させるために安くで貸したので、言うほど儲かっていないのが現状だ。また、鉄道事業は国主体なので、利益を重視できなくてやはりあまり儲かっていない。でも傍目から見ればそうは見えないからなぁ……
これからメンバーが大貴族なり豪商なりに婿入りして資金を獲得し、違う事業も展開するって手もないわけではないが、そうなると婿入り先の思惑が絡まってきてややこしいことにもなりそう。第一、今みたいに集まって遅くまであーでもないこーでもないとディスカッションとかできないじゃん。このブラックな社風がミラクロアの未来を支えているんだぜ(……たぶん)
「ねぇ、ミニョーリ。どうしたら良い?」
と憔悴しきった顔でジル・サンダーが私に尋ねる。ジルサンダーはプロジェクトチームが正式発足したすぐ後に、私の存在をカミングアウトしている。私からはジル・サンダーに直接話しかけることはできるが、チームメンバーの意見は書くなり復唱するなりしないと私には伝わらない。それより何より、ジル・サンダーは考えが煮詰まってくると、他のメンバーがいるのを忘れて私に質問してくるのだから、バレない方がおかしい。
それでも、当然最初は信じてもらえなかった。そこで小麦粉でメッセージを書けたことを思い出してやってみると、今度は『オバケだ』と怖がられるし。ま、本当に幽霊には違いないんだけどね。結局、この数ヶ月で私が何とか覚えたングリーアスの文字で、『ミラクロア、ダイスキ』
と書いて、ジル・サンダーが
「ミニョーリはこのミラクロアを良くしたいと本当に思っているんだよ。オバケと一緒にしないで」
と熱心に説得してくれて、やっと(非公式だけど)#プロジェクトチーム__オタク集団__#入りできたという訳。
蒸気機関車の完成が早かったのも、実際に乗ったことがある私(ホントに私が乗っていたのは電車なんだけど、それは言わぬが花)がいるんだから絶対にできないはずはないという思いで頑張ったってこともあると思う。
にしても、次の路線も既に決定している。そんな雑事に関わっている暇はないのだ。どうしたものかなと思っていると、
『あーっ! もしかしたらミニョーリ使えるかも!」
とクレスタが素っ頓狂な声を上げた。
私が使える? 一体何なのそれは。




