転生トラック
テスト期間中なのだろう。平日の昼間に出歩いている少年たちがいた。そこへ猛スピードでつっこんできたトラックが、一人の少年をはねる。哀れ、吹き飛ばされた彼は——空中で消失した。ゲームのキャラクターだと言われても違和感がないくらい、なんの痕跡も残ってはいない。
彼とともにいた少年たちも道ゆく人も、彼を心配しあるいは運転手を糾弾するそぶりすら見せない。トラックは彼を跳ねた勢いのまま浮上すると、ぐんぐん高度をあげてゆく。そうして、わずか数秒で大気圏を抜け宇宙へと飛び出した。
「転生転移、一丁あがりぃ! よい来世を!」
トラックの運転手は、使命を果たしたとばかりにタバコをふかす。彼は、連日の無茶振りに耐え続け、やっと休日を勝ち取ったコンビニ店員にも似た表情で、満足げに頷いた。車体には虹色のド派手な文字で『転移転生運輸』と書かれている。
「さて。今日のノルマも達成したし、帰るか。もう少しで智天使に昇格できるけど、身体を壊しちゃ元も子もないもんな」
彼は鼻歌を歌いながらフロントリアウィンドウを開け、タバコを捨てた。それは一振りの剣に変化し、宇宙の彼方へと飛んでゆく。そしてトラックもまた、光に包まれ走り去っていった。