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流れ星の願いを  作者: 青井在子
9th 流れ星の願い
63/64

63


――海は歌い風は踊り山は猛る――

歌うのは得意ではなかったけれど、私は頭の中で響いている歌声を真似するだけだ。


――姿を手に入れた姿なきものたち――

璃久の声が聞こえる。エウリオをあやしながら、唄う。


――祈ろう 我らの地に癒しが齎されんことを――

オルヒデの声が聞こえる。璃久に息子と世界を護ることを誓い、唄う。


――星 天より流れ落ち 我らの痛みを癒さん――

グラシアさんの声が聞こえる。弱さゆえに自らの元を去った子どもたちを許し、唄う。


 彼らの歌声に私の拙い声が重なり、それは幾重にも膨らんでいく。私の胸の中に渦巻く暖かな光はその全ての声に乗り、私の中からゆっくりと解放されていく。一本一本の毛先から、指先から、口から、胸から、閉じた瞼から、光を覆う全ての皮膚という皮膚から光が溢れていく。目を瞑っていてもはっきりとわかる。


 ふと隣で新たな声がした。


――海は歌い風は踊り山は猛る

姿を手に入れた姿なきものたち

祈ろう 我らの地に癒しが齎されんことを

星 天より流れ落ち 我らの痛みを癒さん――


穏やかで低く落ち着いた声。私を一瞬で安心させてしまうその声。目を開けて、右隣を見上げた。不思議と涙が溢れ、頬を伝う。


「カランバノ……」


目を瞑って旋律を口にしていたカランバノがそっと目を開け、そして微笑んだ。その瞬間私の不安は粉微塵に砕かれ、風に攫われた。何が起こっても怖くないとそう思った。そして手が差し出され、私は迷うことなくその手を取った。温かさが伝わってくる。カランバノのぬくもりは私の身体を通して、光となって世界に降り注ぐ。


――田を耕し街を築き世を創る

恐れを抱くか弱きものたち――


ジョシュアの声が聞こえる。喪った娘を哀悼し、唄う。


――祈ろう 我等の地に赦しが与えられんことを

星 天より流れ落ち 我らの過ちを赦さん――


ジュリアンの声が聞こえる。生まれ来る子どもと妻の無事を願い、唄う。


――田を耕し街を築き世を創る

恐れを抱くか弱きものたち

祈ろう 我等の地に赦しが与えられんことを

星 天より流れ落ち 我らの過ちを赦さん――


ひとびとの声が聞こえる。様々な願いや祈りが歌声に込められ、世界中から聞こえる。木霊している。距離などもはや関係無い。姿なんて見えなくとも確かに聞こえる。私の元に届いている。そしてそれは光へと姿を変え、世界に降り注ぐ。


――海は歌い風は踊り山は猛る

姿を手に入れた姿なきものたち

祈ろう 我らの地に癒しが齎されんことを

星 天より流れ落ち 我らの痛みを癒さん


田を耕し街を築き世を創る

恐れを抱くか弱きものたち

祈ろう 我等の地に赦しが与えられんことを

星 天より流れ落ち 我らの過ちを赦さん――


ゴタさんの声がする。新たなる人生を自ら歩むために、唄う。

プリマヴェラさんの声がする。最愛のひととの幸福を護るために、唄う。

ジャーマさんの声がする。自分の部下を励ますために、唄う。

イセベルの声がする。愛するひとの支えに身を捧げ、唄う。

イエロの声がする。結ばれるはずのふたりが引き裂かれることのないように、唄う。

アルスの声がする。私をただ信じて、唄う。

ペルラさんの声がする。ヴェラーノさんの声がする。狼たちが遠吠えする。木々が唄う。精霊たちが唄う。人間たちが唄う。誰もが唄う。それはひとつの例外もなく光へと変わり、傷ついた大地と呪われた人々の身体を優しく包み込む。誰もが誰かを癒し、誰もが誰かの罪を赦す。そうして複雑に絡まった糸は少しずつ解れていく。


 唐突に足から力が抜け、目を開けた。空いた手で胸に触れると、自分自身に宿る光が底を尽きかけていた。光は世界を包み込んでいる。だけどまだ足りない。もう一度息を吸い、口を開く。その瞬間、手を取られた。


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