47
例えるならトランプタワー。高校時代に友だちとどこまで高いものが作れるかと挑戦したことがある。だけど一部が壊れてしまえば、それは隣のカードを倒し、衝撃で潰れていってしまう。もしくはドミノ倒しのよう。最初の一枚が倒れてしまえばあとは数珠繋がりに倒れて行く。止まらない。
それまでの総てを一変させてしまうような巨大な事件は、もっと大きな音を立てて始まっていくものだと思っていた。実際はこんなにも静かに忍び寄り、気が付いたときには目の前に迫っていた。
璃久の最後の声を聞いてからは何もかもが早かった。その流れについていけない私はただ引き摺られていくだけだ。
予感がしてから三日と経たないうちに、境界警備隊から伝令係のアマツバメの大使がやってきた。彼によれば、人間界と精霊界とを分けていた璃久の結界は完全に消えてしまったらしい。境界警備隊は万が一に備えて結界があった場所に沿うように隊を展開していく。有事には水際で食い止められるようにということだ。アルスの部屋でアルス、私、カランバノとイエロが揃って彼の話を聞いた。彼はこの後一度ジャーマさんの元へ戻り、同じアマツバメの何人かと合流して人間の世界へ行くという。カランバノもイエロも私も驚いたが、ただひとりアルスだけはそうかと呟いただけだった。燕の姿でいれば人間界へ行っても怪しまれないだろうと、戦いに行くわけではなく偵察しに行くだけだとアマツバメの隊士は繰り返した。最後まで彼は明瞭な口ぶりでそう話し、テラスから飛び立っていった。小さくなっていく姿を見て、こんな体験はしたくないと思った。誰かを見送らなければいけないなんて、嫌だ。
一面窓から視線を戻し、アルスは溜息を零す。
「これから益々雪は深まる。人間たちとてそんな季節に進軍するのは避けたいだろう」
「つまり冬の間は何も起こらないということですね」
「そうだろうね。だがしかし安穏としている場合ではない。雪解け以降に何か起こるとすれば、そのための支度をしておくべきだろう」
「支度って……!」
何の支度をするつもりなのだと尋ねてしまいそうになる。分かっているのに。ただそれを否定してほしかった。
「どうかそんな顔をしないでおくれ。備えあれば憂いなしと言うだろう。そういうことだよ」
「そういうことって言われても……」
「流星」
次に私を呼んだのは、カランバノだった。その瞳は凍てつく氷河のように青白く冷たい。それ以上何も言わせまいとする声音だ。カランバノ、イエロ、アルスの顔を順に見て気が付いた。戸惑っているのは私だけだ。皆、どこか覚悟を決めた表情をしている。或いはいつかはこうなることがわかっていたかのように。
足もとで小さな音がした。私が立っていたのは薄氷の上だったのだ。その下には奈落が待ち受けている。ずっと耳を塞ぎ聞かないようにしていたその音がはっきりと聞こえる。




