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流れ星の願いを  作者: 青井在子
6th 幸福になるために
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  ジョシュアとの別れから月日が流れ、青々と茂っていた草木たちは赤や黄色に色を変えた。湿気の減った風が、少しずつ冷たくなってきている。この世界にも秋がやってきたようだ。


ときどき境界警備隊から届く報告では、結界は少しずつ綻びを大きくしているものの、依然として世界を分断する役目は果たしているらしい。そのお蔭でここ暫くは本当に穏やかな生活を送っている。光を失った私は、未だに中庭で民の前に姿を見せる勇気が持てず、簡単な城の手伝いをしては、アルスやカランバノやプリマヴェラさんとお喋りをして日々を過ごしている。

そんな中で、とある事件が起こった。


プリマヴェラさんの婚約者であるヴェラーノさんが、突然城を尋ねてきたのだ。


「紹介致しますわ。このひとがわたくしの婚約者のヴェラーノで御座います」


ちょうど渡り廊下で立ち話をしていた私とカランバノの前に、いつもの倍の笑顔を浮かべたプリマヴェラさんが恋人と腕を絡ませ合いながら現れた。


「ヴェラーノと申します。流星様と……、失礼ですがお名前を教えて頂けますか?」

「竜王騎士団のカランバノだ。今は流星の警護の任に当たっている」

「ああ、貴方が噂のカランバノ様で御座いましたか」


ヴェラーノさんは手を叩く。パンっという音が廊下に木霊した。


「噂の……? どんな噂だ」


カランバノは怪訝そうだ。私はヴェラーノさんカップルとカランバノの間に漂う温度差に、嫌な予感がした。第六感がしきりにヴェラーノさんの言葉を止めろと警告してくる。


「感じがわ……「あー!」、流星様?」


このひと、何食わぬ顔でにこにこしているけど、王直属の騎士に向かってと言うかむしろカランバノに向かって何か凄く嫌味を言わんとしたよね。駄目だ。危険人物の香りがする。


「そう、私が流星です! プリマヴェラさんにはここに来たときからお世話になってます! 以後お見知りおきを!」


プリマヴェラさんと絡ませ合っていないほうの手を握り、ぶんぶんと上下に振った。なんとかして話題を変えたい。この場でカランバノの機嫌を損ねるようなことはしたくない。 何故ならそのほとんどの矛先が私に向うからだ。要するに面倒くさいのだ。


「ええ、存じ上げておりますよ。プリマヴェラはいつも貴女様の話をしております。素直で優しく大変可愛らしいお方だと。彼女の話は本当でしたね」

「……まあ」


前言撤回。このひといいひとかも知れない。少なくとも誰かさんの妹よりは。頬に手を当ててみた私の後頭部を、カランバノが小突いた。


「いてっ」


どうにも最近扱いが雑な気がする。


「報告が御座いますの。ヴェラーノは今日より城にて住み込みで働くことになり、二週間後には正式に結婚致します」


うふ、とプリマヴェラさんはそれはもう可愛らしく微笑んだ。それと同時に私の思考回路は止まる。


「そうか。おめでとう」


カランバノはこんなときだって冷静だ。むかつく。妙に腹が立つ。いくら婚約していることを知っていたからとはいえ、もっと驚くでしょ。


「そっか。おめでとうございます」


おかげでほぼ同じリアクションしかすることができなかった。


「ありがとうございます。それから……差し出がましいとは思いますが、流星様にお願いがありますの」

「えっ、私にできることならなんでもやりますよ! プリマヴェラさんのためなら!」


カップルはお互いに目を合わせて微笑んだ。元の世界だったらいらっとすることこの上無しだが、このふたりなら許せる。


「わたくしたちの結婚の見届け人になってほしいのです」

「み……?」

「第三者に認めてもらわなければ、結婚は成立しないのですわ」

「その役を私にやれと……?」

「ええ。本当はアルス様にお願いしようと思っていたのだけれど、是非流星様にお願いしたいですわ」

「私にできるのかな……」


ちらりと腕組みをしているカランバノに視線を送ると溜息を吐かれた。


「見届け人はその名の通り、婚姻の儀式のなかでふたりの結婚を認め、見届け、多幸を祈るものだ。お前にもできるだろう」

「多幸を祈る……。でも、もう私には流星の力が無くて」

「違いますわ。流星様」


プリマヴェラさんは婚約者に絡めていた腕を離し、私の両手を握った。


「流星の力など関係ありませんの。わたくしはただ……、流星様に、友人としてお願いしたいのです」

「友人……」

「出過ぎたこととは存じておりますわ。でも、わたくし……」

「プリマヴェラさん……」


プリマヴェラさんのことは姉のように大事に思っていた。でもまさか彼女も自分の仕事の粋を越えた存在として認めてくれていたなんて。胸が温かい。


「うん! 引き受けます! 私でよければよろこんで!」


気が付いたときにはそう口にしていた。


「わあ。ありがとうございます! 嬉しいですわ」


プリマヴェラさんは一気に花が咲くように顔を綻ばせ、両手をパンと音を立てて叩いた。ヴェラーノさんも嬉しそうににこにこ微笑んでいる。そんな両者を見て受けて良かったと思った。


で、だ。プリマヴェラさんカップルと別れたあと、見届け人について詳しくカランバノに聞いてみた。


「婚姻の儀の際に参列者の前でふたりを正式に夫婦だと認めてやればいい」

「つまり?」

「……つまりもなにもそれだけだ」

「健やかなるときも病めるときも~……みたいなやつ言えばいいってこと?」

「なんだそれは」


呆れた顔で溜息を吐くカランバノを尻目に私は腕を組む。想像する限りでは西洋風の結婚式の神父みたいな感じなのだろうか。この世界では元いた世界の多くの地域のように法や紙に結婚関係を縛られることが無いだろうから、第三者に夫婦だと認められれば、そのカップルは正式に結婚したことになるのだ。今更ながら自分の役割の重大さに気が付く。


「それって本当に私でもやれるの?」

「大抵はその種族の長が見届け人になるな。うちの里では母が務めることが多かったな」

「そんなのをやっていいのかな……」


頼まれたとは言え。つま先を見つめる私の頭を軽く、温かくて大きなものが触れた。


「お前は深く考えすぎだ。それに自分をやけに卑下する癖があるな」


見上げると薄い唇が意地悪そうな笑みを象っていた。そして薄青色の瞳と目が合うと、その手で頭をぐしゃぐしゃとかき乱された。


「ちょっと!」

「新郎新婦直々の頼みなんだから迷うことはないだろう。せいぜい胸を張って務めてやれ」

「そういうもの?」

「そんなもんさ」


狼男は薄く笑うと、私の頭から手を離して去って行った。


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