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流れ星の願いを  作者: 青井在子
1st 迷い込んだ世界
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04

 不本意ながら仏頂面の騎士を手に入れた私は、それでも生活の中で彼が必要だと感じることはなかった。食事や着替え、入浴といった身の回りの世話はプリマヴェラさんがやってくれるし、庭に出て市民たちと触れ合うときもとくに危険を感じることはないのだ。その上もともとの仲の悪さから、お互いに進んで言葉を交わすことも少なく、私は完全に優秀だという騎士を持て余している。そしてほんの少しだけ彼に申し訳なさを感じる。ムカつくけどさ。私といても退屈だろうし、能力を活かせないって悲しいよね。まあ彼が必要になるほど危険な目に遭いたくないんだけど。


 私にアルスに勧められ、中庭でひとびとと話すようになった。彼らの悩みを聞いたり逆にこの世界のことを私が尋ねたりしていた。そうして三日が経つ。私はこの数日で感じていた疑問を、沈黙に耐えられなくなったのも相まって、私の傍にぴったりと寄り添うカランバノにぶつけてみた。


「ねえ、カランバノとアルスはどうして耳とかしっぽとかが無いの?」


私の元へ話をしにやってくる人々や、それからここへ来たばかりのときに出会ったケンタロウ(仮)やプリマヴェラさんは皆、動物らしい特徴、角であったり足であったりを備えているが、私が出会った中では唯一カランバノとアルスだけは、人間とまったく変わりの無い姿をしているのだ。カランバノは私の問いに、面倒くさそうに眉間に皺を寄せつつも答えてくれた。


精霊アーダの力――魔力の違いだ」

「魔力?」

「俺の本来の姿は狼。アルス様は竜。お前に仕えるプリマヴェラは羊だ。俺たちは生まれるとき、本来の姿でそれに似合った知性を持って生まれる。そして成長の段階で、精霊に愛された者はより発達した知性と言葉、そして魔力を与えられる。だが与えられる量はそれぞれ違う。多くを与えられる者もいれば、そうでない者もいる。本来の姿が動物やある俺たちにとって人型になるということは魔力を多く消費するんだ」

「人間の姿でいることは難しいってこと? じゃあなんでわざわざ嫌いな人間の姿になるの?」


 カランバノは私の言葉に込められた皮肉に気がついたのか、大仰に顔を顰めた。


「文明のためだ」

「文明……?」

「そうだ。古来より俺たち精霊族は人間に魔族と呼ばれ、事あるごとに目の敵にされてきた。戦争によって侵略されたこともある。人間の持つ兵器や戦略に、俺たちの先祖はまったく歯が立たなかったらしい。それを受けてあるとき当時の王がある案を出した。魔力を使って人間の姿になり、人間が持つような高度な文明を我々の手で手に入れよう、と」

「なるほどね。なんとなくわかった。動物や植物の姿のままじゃ、建築とかそういう器用なことってできないかもね」


皮肉にも憎き敵の人間に対抗するため、その技術を得るために人の姿を借りたのだという。


「ああ、そうだ。だが魔力の低いものは完全に人型になりきることはできない。本来の姿の特徴的な部分が、人型になっても残ってしまう」

「要するに三段階あるってこと? 動物とか植物の本来の姿と、人型に特徴を残した姿と完全な人の姿と」

「そういうことだ。魔力が高い者が、人型になったときに特徴を残せないわけではないが。例えば鳥族たちは人の姿に鳥の翼を生やして空を翔ることもある。手が使えて便利だと言ってな」

「なるほどねー」


納得したところで新たな疑問が沸いた。完全に人型になれるカランバノは、もちろん人型に自分の特徴を表せるというわけで。想像してみた。この仏頂面に犬……じゃなくて、狼耳ともふもふのしっぽ。だめだ、見てみたい。


「ねえ、カランバノ」

「却下だ」

「まだ何も言ってないけど!?」

「お前が今考えたことが透けて見えた」

「お願い! 一生のお願いだから!」

「何といわれても俺はやらん」

「けち!」


ふん、と短い息を吐かれてカランバノは足早に中庭を出て行こうとする。私もそれに着いていくことにした。

減るものじゃないし見せてくれたっていいのに。ついでに本来の姿も。本物の狼、撫でてみたいなあ。



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