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次に感じたのは赤ん坊の温かくて乳臭い重みではない。もっと無機質で冷たく重い物を両手に持っていた。鼻を突く、花火の匂いと焦げ臭さ。そして吐き気を催すような、この独特の臭いは一体何だ……。瞬きを繰り返すとようやく視界がクリアになった。思わず悲鳴をあげそうになったが、私はそうしなかった。人間の骸が辺り一面に散乱し、一帯が血の海だ。どこからともなく複数の煙が上がっている。ここは一体どこなんだろう。ぜえぜえともひいひいともつかない不格好な呼吸音がしている。私からだ。身体がとてつもなく重たい。さっきからずっと立ちあがろうとしているのに、気持ちに身体が着いてこない。もう少しだと私は思っていた。どういうことだろう。がちゃがちゃと重たい金属が擦れ合う音と、男たちの雄々しい叫び声が次第に近づいてくる。
――くっ……、追手が来たか! 流星様、一旦退いてください! わたくしどもが退路を開きます! その内にオルヒダ様がいる陣までお戻りください!
私の傍で横たわっていた狼がそう言い、立ちあがるのに続き他の獣たちも立ちあがった。皆全身を血で汚している。そしてそれが返り血でないことも私は知っていた。
――嫌だ。
持っていた剣を支えにして私も立ちあがる。剣に縋ってその場に立つことで、もはや精いっぱいだった。
――流星様! どうか貴女はオルヒダ様とエウリオ様とともにこの世の行く末を見届けてください!
私は一瞬だけ俯いた。ごめんね。夫と息子の顔を思い出す。ごめんね。もう一緒に暮らすことはできないけれど。
――その役目はふたりに任せよう。
だけど絶対にこの世界を護ってみせる。私が愛した世界を、私が愛したあなたたちが居る世界を絶対に護るから。そしてそれがきっと私がこの世界に来た理由なのだから。誰かが言ったとおり、私はこの世界を見届ける存在になろう。
身体中の光を解放する。するすると伸びるように手の先、髪の先、つま先から光が広がってゆく。光の帯はやがて交差し合い絡み合い、また更に遠くへ広がる。地面を這い、空へと手を伸ばす。
――流星様……?
怪訝そうに私の名前を呼ぶ声がする。攻め込んできた人間たちの驚き惑う叫びも聞こえる。私は光の帯となり、そしてさらに大きな光そのものとなった。
オルヒダ。エウリオ。大丈夫。もう戦いは終わったから。




