02
海は歌い風は踊り山は猛る
姿を手に入れた姿なきものたち
どこで聞いたのかは覚えていない。だけど私はその唄を知っている。優しい女声で歌われていたのを聞いていた。あれは子守唄だったのだろうか。
落ちている。そう感じた。急速な勢いで落ちておる。風を切る音がする。
そっと目を開けると、一面絵の具のような原色の青。それから白。絵に描いたような空だ。そして理科の教科書で見るような惑星が、三つ見えた。それも表面の凹凸がわかるほどの距離で。
まだ落ちている。
…おちてる?
急に意識がはっきりした。身体をくるっと回して下を向く。
木々が覆い茂る森が見えた。
そして私は落ちている。
てことはこのままいけば? 地面に激突コース?
「いやいやいやいやいや待って待って待って! なにこれ! なんで! いきなりなに!」
と叫んだはずの声は風に掻き消された。
やばいよなにこの状況。
なんでこんなことに? ていうか落ちたってこれどこから落ちてんの? この鮮やかすぎる空の色は一体なに? あの星みたいなのは?
とか余計なことを考えてる間に、私はさらに落ちていき森の背の高い木々の間に突入していた。木の上に落ちたらせめて命は助かるかなーと思ったのに、驚くことにやつらは除けやがった。
うん、木がひょいっと避けた。
私が落ちるであろう場所から一歩(?)ずつ後ずさった。
なにこれ…。
と思ったときだった。木々の間から城が見えた。ヨーロッパで世界遺産とかに登録されてそうな城だ。額に傷がある眼鏡魔法少年が活躍する映画に出てくる学校のようでもある。私はあのシリーズは三作目で挫折したのだけど。ってそんなことはどうでもよくて。
城のすぐ横を落ちていく。そのときだった。城のテラスに、人が居た。一瞬だったからその容姿ははっきりとはわからない。だけど黒く長い髪を持った女性か男性かがいた。
そして――見られていた。
目が合ったわけじゃない。そんなこと確認する暇もなかった。でも見られていた。
と思ったら地面はもうすぐそこだった。死の瞬間まで目を開けている勇気はなかった。目を閉じると、そのまま意識も攫われた。