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流れ星の願いを  作者: 青井在子
Prologue
1/64

01

海は歌い風は踊り山は猛る

姿を手に入れた姿なきものたち

祈ろう 我らの地に癒しが齎されんことを

星 天より流れ落ち 我らの痛みを癒さん


田を耕し街を築き世を創る

恐れを抱くか弱きものたち

祈ろう 我等の地に赦しが与えられんことを

星 天より流れ落ち 我らの過ちを赦さん


天より星来たりて 我ら 今手を取り合わん



私は一人っ子で両親は共働きで祖父母は遠くに住んでいた。保育園でも小学校でも迎えが来るのを最後まで待っていた。

七歳の誕生日に両親にプレゼントは何がいいか聞かれた私は、迷わず犬と答えた。

結局両親が贈ってくれたのは猫だった。犬より猫のほうが比較的飼いやすいというのと、父が偶然立ち寄ったコンビニの脇で捨てられていた猫に出会ったからだ。

私はとっても嬉しかった。

両親に鍵を貰って、友だちと遊ぶ日以外は授業が終わったら学校に残らず家にまっすぐ帰るようになった。

ドアを開けると玄関で黒い猫が待っていてくれる。猫がこんなに人に懐くなんて知らなかったけれど、気まぐれな様子を見せつつ構ってくれた。

世話のほぼすべてを私がした。

家族の話題の中心にはいつも黒猫がいた。まるで妹ができたかのようだった。

両親が帰って来られないときは一緒にご飯を食べてお風呂に入ってテレビを見て眠った。

そんなわけで私は動物が、特に猫が人間より好きになった。年を重ねるにつれて人間関係に悩むことも多くなったが、動物と接すると穏やかな気持ちになる。


でもどうあがいても猫の寿命は人間のそれよりは短いわけで。

私の最愛の黒猫は、去年私が十九になって少ししたころに天国へ逝ってしまった。

最後の一瞬まで私は彼女のそばに寄り添っていた。私の腕の中で息を引き取るのをしっかりと目に焼き付けた。

悲しくてどうしようもなくて泣き暮れた。

ペット用の火葬場に連れていき、供養もしてもらった。骨は返ってこなかったから、首輪と写真だけの小さな仏壇を作った。

でもそれだけ辛くて悲しい思いをしても私の動物への愛に翳りは見えなかった。

むしろ増したとも言える。


愛猫が逝ってから一年が過ぎた。


「じゃあまた明日ねー、ばいばい」

「ばいばーい」


大学の帰りに友だちとカフェに寄ってお茶をして、近くの駅で別れた。

電車に揺られて三十分で最寄り駅に着く。

そこから自転車に乗って十五分で家に着く。


はずだった。

大きな通りを走っているときだった。車道に小さな黒い影が飛び出した。そこにスピードを出した大きなトラックが迫っている。

黒い影が動くのをやめた。飛び出すことはできても引き返すことはできないというのを聞いたことがあるような気がする。

黒い影は、小さな猫だった。


「待ってよ…っ」


猫だと認めるやいなや私は自転車を放って、車道に飛び出していた。トラックがブレーキをかけるけたたましい音がした。猫の首の後ろを引っつかんで、抱え込んだ。

そして音も景色も感覚も、すべてなくなった。


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