表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と呼ばれた救世主  作者: ドノバン
9/17

第9話 魔導兵器運用試験Ⅱ

急速に接近してくる、相手の機体。

それを目に収めた戦牙の行動は早かった。

「上等だ! 相手が向かってくるなら、こっちも同じことをするまで!」

旭翔の性能を信じていた戦牙の思考に撤退の二文字はない。剣を腰に構えて突撃してくる敵に対して、思い切り腰を低くし、刀のつばに手をかける。

コクピット内のパイロットは、間接兵器以外は魔導兵器と同じ武器を持ち、同じ格好をしている。彼らは自らの目で相手を見据え、イメージしながら戦うことで機体を思い通りに動かす。コクピット内の戦牙と同じ格好をした旭翔は、相手が間合いに入るまで力を籠め続け、進入した瞬間に全力を発散させた。


ゴゥッ!!!!!


居合の要領で抜き放たれた鋭い切っ先は、慌てて防御に走った敵の剣を砕き、外装の一部を破損させるには十分な威力を誇っていた。

「チッ! タイミングが早かったか」

踏み込みは十分。振りぬいた刀の速度も申し分ない。本来なら一撃で敵を粉砕してもいいだけの威力を秘めている。それが成らなかったのは、自分が魔導兵器の操縦に慣れていないからだとだけ言える。

それに、旭翔の身体能力は戦牙のそれに比例する。そのため、強大な力を有していることだけは間違いないのだ。

「丸腰の相手を叩くのは気が向かねぇが」

旭翔に搭載されている刀は二本。

その刀を両方とも抜き去り、二刀流で構える。しかしこの世界には刀はおろか、両手で得物を構えるという流派がないらしく、少なくとも相手は面食らったようだ。

「な!? 両手で剣を構えるなど、それでは魔術が放てないではないか!」

「そうでもねぇ!」

そう、旭翔には背部に設置されたツインキャノンがある。

これが一斉に火を噴けば、敵を粉砕することは容易い。言うや否や、戦牙はツインキャノンを一発ぶっ放した。

「なんだと!?」


ドゴォォォォォォォォン!!!


爆発音と爆炎、そして衝撃波。

それらがコロシアム全体を襲った。しかし学生たちに対しては魔術障壁が施されているから被害が及ぶことはない。

「やったかしら?」

ドーラは戦牙の勝利を確信していた。

彼女は知っている。戦牙に対峙している二年生が、実力はあれど戦牙のそれに敵わないことを。しかし、まだ敵は立っていた。やはり体に巻いていたのは防御力を高めるための魔道具だったらしく、ツインキャノンの攻撃を防いでいたのだ。

しかも、彼は魔道具をまだ隠し持っていた。

「馬鹿な! あれは、ワイバーンの呼び声ではないか!!」

筋肉軍曹が狼狽するのも仕方ないことで、ワイバーンの呼び声とは魔道具の使い手の理性を失わせ、そのものをワイバーンという竜の種族に変形させる力を持つ。実際のところは世界中から禁忌とされている魔道具である。

「でも、大きいわ。あれがどんな力を魔導兵器に与えるのかしら?」

発動と同時に、ワイバーンの呼び声は紫色に輝いた。その禍々しい光が魔導兵器全体を覆い、それが消えたころに、騎士の姿はなかった。やはり、そこには光と同じくらい禍々しい金属製のドラゴン、ワイバーンの姿があったのだ。

「すぐにコクピット内を確認させろ! 安否を確認させるのだ!」

ダフト軍曹の命令を受けて、部下の兵士たちが走り始める。

「それよりも、問題はあれをどうするかね。あんなでかいワイバーン、軍隊でも相手をしたことがないでしょう?」

「カテゴリー5クラスであるな」

この世界にはモンスターと呼ばれる種族が存在する。この種族は人間に反逆する魔族の手下、まさに人類の敵である。それらの強さはカテゴリーに分けられ、10~1まで存在する。1に近づくほど強大とされ、目の前のそれはカテゴリー5だと推測される。しかし、実際はもっと上かもしれない。

「戦牙、すぐに逃げて」

『うーん、逃げたいけど、ちょっと無理かな?』

「なんで!?」

『後ろ。後ろ見てくれ。取り残されてんだよ、女の子ひとり』

ドーラは自分の意識を戦牙の後方に集中させる。するとコロシアムに一人、気を失ったまま倒れている女子学生がいた。この女子学生を置いて戦牙が逃げれば、彼女は確実に死ぬことになるだろう。

「私が助けに行く。それまで耐えられる?」

『お安い御用だ。奴の体力を極限まで削っておく。近接戦闘でな』

「無茶だけはやめてね」

戦牙は駆けた。二刀流の良さ、それは防御面もさることながら、一つの刀で相手の攻撃を受けた直後に反対側に持った刀でもう一撃を繰り出せることである。戦牙はその特性をよく理解し、そして最大限に生かせる方法も知っていた。

「行くぞ! 奥義!」

刀に力を込めるたびに、紅く剣先が光る。

荒血怒狂式あらちぬきょうしき

繰り出された一撃は、硬いワイバーンの皮膚を軽々と切り裂いた。苦しみの声を上げるドラゴンに対して、高速の斬撃を繰り出し続ける。そのたびに、魔物の血が飛び散り、肉を切り裂いた。しかし、彼とてやられてばかりではない。

その巨大な手を振りかざし、目の前の武者を叩き潰そうと振り下ろす。

それを寸でのところで避け、ツインキャノンを放った戦牙。それがワイバーンの腕を粉砕し、戦闘力を奪った。

「さて、残り二本」

残り一本ではないのは、彼が尻尾も攻撃力の一つと考えているからである。しかしそれだけではなかった。

「気を付けて! ブレスが来る!」

ブレスはドラゴン系の魔物の中で、最も強力な攻撃だ。まともに食らえば、防御力の低い魔導兵器など、飴のように溶けてしまう。

だが、この状態でよければドーラたちが丸焦げだ。

「大丈夫! 火もまた涼し!」

実際、旭翔は燃え尽きなかった。

これにはダフトをはじめ、軍関係者も驚愕している。

そしてすぐに反撃に移った。

今度は槍による突撃を繰り出し、徐々にダメージを与える。

そしてワイバーンがさらにブレスを吐こうとしたその時である。

戦牙はこの時を待っていた。

「そうそう、そうこなくっちゃな!」

十字槍が横凪に振るわれる。

それがワイバーンの首を切り裂き、上りつつあるブレスを噴出させた。哀れ、魔物は自らの炎で体を焼かれる事態に陥る。そしてそれが動かなくなったのは、ほどなくしてのことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ