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魔王と呼ばれた救世主  作者: ドノバン
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第8話 魔導兵器運用試験

「それで、完成したのがあれなわけ?」

ドーラが指差した先には、当初戦牙がイメージして作り上げた魔導兵器、旭翔が改良された姿があった。背中から天に向かって聳え立っている。

旭翔は元々近接戦闘に特化したタイプであったが、この二門の大砲によって間接攻撃の手段も得た。しかしこの二門の大砲によって、問題も生じていたのである。それが旭翔の主兵装である槍の動きを阻害することだった。

「あれがつけられたときは、槍の動きを阻害するから嫌だったんだけどな。折り畳み式にしてくれたから、その点は解消だ」

九一が旭翔開発に手を出してきた時点で二人の意見は割れた。魔導兵器には二つの種類が存在する。それは間接戦闘を得意とする機体と、直接攻撃を得意とする機体である。当然のことながら、旭翔は後者だ。多くの場合、魔導兵器はその機体に特化した形で強化がなされる。しかし、九一はそれを嫌った。

『僕は一つの戦闘隊形にしか特化していない機体を良しとはしない。兵器とは極力、オールマイティーでなければならない』

戦牙とて彼の言いたいことは分かる。

しかし、それは理想に過ぎない。

戦牙の場合は遠距離に魔術を繰り出す術を持っていない。それなのに、どうやって間接攻撃を行う手段を得ろというのだろうか。

しかし、彼の考えは違った。

『そのものの魔術特性に頼ろうとするから悩むのだ。そうではなくて、魔力を何かに溜めておいて、それを魔術を撃つたびに消費すればいい』

なるほど―――。

戦牙は妙に納得したのを覚えている。

確かに自らの力に頼らずとも、前の世界でいう弾丸のように一発一発を必要な時に撃てばいいのだ。そして必要な分だけ装填してやればいい。

しかし、それは魔術そのものの特性を排除することにもなりえる。

「術者の魔力が続く限り戦闘を継続するという特性がなくなる」

ドーラは言った。

その通り。

魔術とは自らが内に秘める力によって、無限の攻撃持続力を可能にする。つまり、砲弾や弾丸のように補給がいらない。無論、これは攻撃の意味においてであり、食料など兵站と重なる部分は前の世界と同じく必要となるのであるが。

「そういうこった。ただ、これが本格的に生産されるようになれば、一般人でも魔導兵器で戦闘に参加できるようになる」

「魔導兵器の数を揃えられるわけね?」

「数だけでは意味がない。質も向上させなければ、奴らには勝てないだろう」

戦牙は魔導兵器に、前の世界で自分たちを殺した巨人と戦うだけの力があると信じていた。しかし今の魔導兵器では戦争には不向きである。戦争は古今において、数に勝ったほうが有利な条件を得る。ときに、知識人の中には数だけでは戦争に勝てないと言うものがいる。

確かに、一個の戦闘においてはそうだろう。

しかし、長い目で見てほしい。最終的に戦争に勝つのは人間も含めた資源に勝る者である。

それは根本的に、戦術と戦略の違いなのだ。戦略に勝った者が、最終的には勝利を得る。つまるところ、奴らに勝利する過程において、強力な兵器を量産する力とそれに伴った数は絶対条件でもある。

「さて、それでは試験に向かうとしようか。教官殿は心待ちにしているみたいだぞ」

「あの筋肉軍曹に気に入られるなんて、あなたも相当よ」

「褒め言葉には聞こえないな」

試験は高校の中に設けられたコロシアムの中で行われる。前の世界ではもちろん、こんなものは存在しなかった。

コロシアムにつながる扉を潜ると、一気に歓声に包まれた。

「よく来たな! 戦牙!! 吾輩はこの日を心待ちにしておったぞ!!」

濃紺のベレー帽をかぶった、軍服姿の男。口をへの字に曲げ、顔まで筋肉に覆われているのではないかと勘違いするような鋼鉄の肉体。その昔漫画で見た軍曹をそのまま形にしたかのような、典型的な軍人。この男自身が実は魔術の創作物ではないかと戦牙はいつも思う。

「ダフト軍曹。心配しなくても、こいつはここにいますよ」

「見ればわかる。しかし、こいつにはとてつもない力を感じるな」

旭翔のプロトタイプがお目見えして以来、戦牙に目をかけてきたのがこのダフト軍曹なる人物である。彼の助言がなければ、ツインキャノンは完成しなかったかもしれない。

「軍曹が助言してくれた折り畳み構造。ここだけの話めちゃくちゃ役に立ちました」

「そうだろうな! 我ながらいい考えだと思う。しかし、あの九一という奴、魔力は全くないくせに魔導兵器の原理については精通している」

「あいつは特別です」

九一も恐らく、完成を送る学生たちの中に紛れているに違いない。彼が自らも加担した機体の晴れ舞台を反故にするわけもないと思う。

「さて、今日の相手はあいつですね」

「あいつ呼ばわりはなかろう。二年生の特進科で5本の指に入る実力者だぞ」

「油断しないで、戦牙」

「分かってる。でも、いい腕試しだ」

旭翔に対峙する機体は、銀色に光る騎士風の容姿をしていた。兜の奥から赤い目を光らせ、体には薄汚い茶色のマントを羽織っている。ボロボロに見えても、それが魔道具だったりするから油断はできない。

「とりあえず、戦ってみなくちゃわからないな。少なくとも今回はこいつの試験なんだ。楽しんでくるさ」

戦牙は余裕綽々だった。彼はあくまで気楽な機体テストをするつもりでいた。

ただ、相手はそうではなかったらしい。

魔導兵器を動かすコクピット内、相手の操縦士は外部と通信を行っていた。もちろん、それは戦牙に聞こえない。

そして、その会話の内容が会場中に宣言される。

『旭翔とやらに搭乗する、小嶽戦牙に告ぐ! 今回の戦闘で私が勝てば、貴様の婚約者のドーラを我が手中に収めるとする! これは強制である!!』

「あぁ? 何勝手なこと言ってやがる?」

最初に攻撃を仕掛けたのは、騎士風の魔導兵器であった。

「む!? 卑怯な!!」

ダフト軍曹の言葉など、届くはずもない。

戦いの火ぶたは、ゴングが鳴る前に切って落とされた。

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