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魔王と呼ばれた救世主  作者: ドノバン
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第7話 魔導兵器Ⅲ

帰り道、戦牙は昨日の晩から考えていた疑問を、ドーラにぶつけた。

「あのさ、聞きにくいんだけど」

「何?」

制服姿のドーラは、最初に出会った時の彼女の印象とは全く異なっている。夕日に輝く銀髪を含めて、容姿は相変わらず美しかった。スマホをいじっているのを見ると、その姿は周りにいる女子高生と全く同じだ。実際は、スマホではなく『携帯型魔導通信鏡(SMM)』と呼ぶらしい。そもそも魔術で通信が可能なわけだから、電話なんてものはいらなかったわけだ。これは一般庶民でも魔術による通信を可能にした魔道具である。

閑話休題―――。

「俺の家にナチュラルにいるけどさ、これはどういうことかな? どういう位置づけなんだ?」

「位置づけ? ただあなたと私が一緒に住んでる。それだけよ」

「周りはどう思ってる?」

前の世界では大きな木造屋敷に一人暮らし。

それが戦牙だった。何度か泥棒にも入りかけられたが、彼の戦闘力は遥かに襲ってきた側を凌駕していたから簡単に撃退できた。

しかし、今は二人で住んでいる。

周りの大人たちはどう思っているだろうか? これでも結構、ご近所づきあいは大切にしてきたほうなのだ。根も葉もない噂を立てられたら困る。

「大丈夫。私はあなたの婚約者になっているから。だから、誰も私たちが一緒に住んでいることについて疑問には思わないわ」

「そうか。なんか恥ずかしいな・・・・・・」

色恋沙汰には無縁だった戦牙。

突然目の前にこんな美人が現れて、しかも婚約者と言われた日には照れないわけがない。

「?」

しかし彼はこの世界で生きていく。

となれば、ドーラはこれからずっと一緒ということになりはしないか?

「そうよ。ずっと一緒。あなたを復活させるということは、その世界で私が世話をするということ。あなたを支えて、色々教えるのよ。私たちは復活を決めたときから、ともに伴侶になるの」

「お前が美人だったからいいものの、すげぇブスだったら詐欺みてぇなもんだな」

「随分な言いようね。世界中の女を敵に回すわよ?」

戦牙は肩をすくめ、ドーラは悪戯っぽく笑った。彼女は割かしクールで感情を表に出さないことが多いが、たまに見せる笑顔が素敵だった。

「ま、そういうことだから心配しなくていいわ。私も近所の人たちとはうまくやっているから」

「それは結構」

家にたどり着くと、玄関から一人の老婆が飛び出してきた。

歳の割にめちゃくちゃ元気な女性は、近所でも評判である。

菅原金すがわらきん。齢80を迎える地区のご意見番だ。

「ばあちゃん、家のことなら大丈夫だって。この前も掃除に来てくれただろう?」

「いいんよ! 年寄りは暇なんだから。それよりドーラちゃんだって学校だろう? 授業が終わってから晩御飯を作るのも大変じゃない」

「そりゃあありがたいけどよ。まぁ、ばあちゃんも上がっていったらどうだ? どうせ家帰っても一人だろう?」

金ばあさんは最初遠慮していたが、ドーラが誘うと笑顔で家に上がった。彼女も最近主人に先立たれ、今は近くに一人で住んでいる。確か、前の世界ではご主人は元太平洋戦争中の軍人だったはず。

「おや、魔導兵器なんて作っているのかい?」

「知ってんのか?」

「知っているも何も。私のお爺さんが開発に関わったんだから当然よ」

そういえば、技術士官だったか。

「へぇ。どうやったらうまく作れるか、何か聞いてないか? なかなか作業が進まなくてさ」

「まずは魔力特性を聞いたらどうだね?」

「そういえばそうだったな」

金ばあさん、意外に魔導兵器のことについて知っていそうだ。戦牙はドーラに問うた。

「あなたの魔力特性は技・力・闘気よ」

「聞いたことのない魔力特性だね」

金ばあさんが疑問に思うのも当然だ。しかしこんなこと知られていいのだろうか。戦牙が復活者と知られてまずいことなどはないのだろうか?

「おばあさん、彼は闘神の子供だから」

「あぁ、そうだったね。確かこの子は神の子だった」

戦牙は訳が分からない。当然二人の話についていけなかった。しかし金ばあさんの中では戦牙が魔術に疎い子供として通っているようで、呆れた顔をしながら説明してくれた。

「生まれてすぐに魔術に優れている子供のことを神の子と呼ぶんだよ。あんたはその中でも、戦いの神に愛された子供。神主さんがそう言っていたんだから、間違いないよ。しかもすぐにその力をコントロールしちまった。あんたは知らないかもしれないけど、ドーラちゃんがこの家に来るまでに貴族や皇族からものすごい数のお見合いが来たんだからね」

「覚えてねぇなぁ」

「そうだねぇ。だって1歳だったからね」

1歳の子供をお見合いさせるなんて意味が分からなかった。しかし貴族やら皇族やら言っている手前、恐らく過去の権力争いのようなことが関わっているのだろう。

「とにかくあなたの魔力特性はそれ」

「どんな力があるんだ?」

「近接戦闘ではどんな強力なモンスターにも負けないわ。同等の力を持っているものがいても、武術に心得があるあなたなら、恐らく負けない。でも、精神面に及ぼす力だけは防ぎきれないから気を付けて」

「その言いようだと、精神的な攻撃に長けた魔術師もいるってことか」

「うん」

戦牙はこの国の古来からの魔術師が、呪いやその類を得意としていることを思い出した。精神的な攻撃を得意としている魔術師がいることも当然だろう。

「となれば、俺はその魔力特性を考慮した魔導兵器を作ればいいというわけだ」

「そういうこと」

「そうなれば、後はイメージするだけか」

戦牙の魔導兵器は既にイメージとしては出来上がっていた。そして最初に作った機体とは、また別のものが出来上がった。それは一か月間の試験運用において、学生たちの間で最も良い試験結果を叩きだしたのである。


では、なぜそれで完成ではなかったのか。

なぜ、そこから2か月も先になってしまったのか。


「さぁ戦牙君! 僕も一枚噛ませてもらうよ!」

「・・・・・・覚えてやがったか・・・・・・」

そう、そこには最大の原因である九一の存在があったのである。

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