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魔王と呼ばれた救世主  作者: ドノバン
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第五話 魔導兵器

戦牙が目を覚ました時、彼の視界に最初に飛び込んできたのはあまりに見慣れた光景だった。

誰もいない、静かな一軒家。

暗く、義務的な眠りしか与えてくれないベニヤ板みたいな天井。まるで、明治から昭和にかけて、この家の時間だけが止まったようだった。

それもそのはずだ。

ここは爺さんの家なんだから。

爺さんと二人で住んでいた家。でも、爺さんは二年前に死んだ。

だから今は戦牙一人でしか住んでいない。

「ふぅ・・・・・・」

いつだって、ため息しか出ない。

この家には孤独しかないのだから。

寝返りを打って、再度眠りにつこうとする。

そして気が付いた。隣に人が寝ていることに。

一瞬警戒心がマックスになり、全身が泡立った。すぐに戦闘態勢を取り布団から出る。そのまま体中に力を籠め、破壊的な力を身にまとった。誰もが感じる殺気をまき散らし、自分の隣で寝ていた人間に向けて繰り出そうとする。

「目が覚めた?」

その声にはっとして、動きを止めた。

ドーラが起き上がり、眠たそうに眼をこすっていた。気になるのは彼女が一糸まとわぬ姿だということだ。訳が分からなかった。

「お前、俺の横で何をしている?」

「これ? 見ての通りよ。あなたに抱かれてたの」

柄にもなく、顔が赤くなるのを感じた。ドーラの顔も、心なしか赤く見える。彼女は戦牙から目をそらしていた。

「勘違いしないで。でも、私たちがあなたの近くにいるのはそういうこと。私たちの世界では当たり前のことよ。サキュバスもいるしね」

サキュバス。インキュバスと対をなし、人間を惑わせる淫魔の類。

その昔、まだ彼らに対抗する術を持たない人々は、魔物の術にかかった時に平静を保つため、あらかじめ買っておいた異性の奴隷に救いを求めたという。かといって、戦牙の場合は状況が少し違う。

「あなたは魔力の暴走を起こした。だから私がその暴走を止めるために、抱かれていただけ。かなりの余剰が出た魔力を、あなたの性欲で吐き出させたのよ」

「すまないが、そこら辺のことはよく分からない。だが、すまなかったな」

「なんで謝るの?」

「好きでもない男に抱かれるなんて、そんなに嫌なことも他にはないだろう?」

「・・・・・・考えたこともなかったわ」

実際、ドーラは考えたこともなかった。彼女はこれまで、恋らしきものをしたことがない。彼の周りには姉妹をはじめとした女しかいなかったのだ。

「あなたに処女もあげた。でも、別にだからといってそれ以上のことは何もないわ」

あくまでドーラの対応は淡泊だった。銀髪がランプに照らされて、淡く光っている。その姿は素直に美しいと思える光景だった。

「俺の魔力が暴走したといったな。どういうことだ?」

「あの学生どもが使ってた、魔力総量検出装置が原因よ」

「どういうことだ?」

「あれはね、魔力を測るための魔道具よ。でも、欠陥がある。それがあなたみたいに魔力総量が爆発的に大きい人間を暴走させるということ」

あの計測機を作っているのは「ガルシオン公社」という名の国営企業だった。正直、あまり評判は良くないらしい。

「あなたはこれから、恐らく魔導兵器を操縦することになる。でも、あそこの魔導兵器だけはやめたほうがいいわ。あなたをつまらない理由で失いたくないから」

「どういうことだよ?」

「その前に、魔導兵器について説明しないといけないわね」

魔導兵器―――。

それが戦牙が前世で戦闘機や戦車と呼んでいた類のものである。

この世界のそれは魔術によって動くから、資源等々をあまり必要としないということはある。しかし石油や石炭に代わるもので動いているわけだから、有限であることに変わりはない。

それはさて置いておくとして、この世界の魔導兵器というものはいかなるものか?

「こっちに来て」

「何だよ」

「いいから」

戦牙は布団の端に座り、ドーラとなるべく距離を取ろうとした。しかし、ドーラはぴったりと肌をつけて、戦牙に寄り添ってくるのだ。その手にはスマートフォンが握られていた。

「これが、魔導兵器よ」

ドーラの柔らかい肌や乳房が腕に当たって、正直魔導兵器どころの話ではなかった。だが、その兵器の姿が目に入ってきた瞬間、戦牙の意識は全てスマートフォンの画面に持って行かれる。

そこに映っているのは、まぎれもなく二足歩行の巨大ロボット。前世で戦牙が殺されたのと形はよく似ている。ビジュアル的には断然こちらが上だが。

それは騎士の姿をしているものや、武者の姿をしているものとさまざまである。それらが鉄に囲まれた巨大な体をぶつけ合い戦っている。

「この世界で第三次世界大戦が起きたことは既に話したわね? そのときに主力になったのが、この魔導兵器よ」

「こんなものがあるなら、奴らに勝ったも同然じゃないか!?」

「そうでもないわ。奴らの力を見くびっちゃダメ」

そんなものだろうかと、戦牙は思う。

しかし、自分の身を焼かれたときの苦痛と痛みを思い出せば、ドーラの言うことも頷ける。ここで油断しては、前世の二の舞になってしまう。それだけはごめんだ。

「ところで、さっきから奴らとしか呼んでいないが、お前たちは何と呼んでいるんだ?」

あの二足歩行の、気持ちが悪い、のっぺりした顔のクソ巨人。

「デビル。私たちはそう呼んでる」

「予想通りすぎて、笑えもしねぇや」

神に対抗するからデビルなのだろう。戦牙は実際にドーラの口から聞くまで確信を持っていなかったが、彼らは明らかに神に反逆した者たちなのだ。そんな奴らに勝とうというのだから、気合を入れまくらなくちゃならない。

「しかし、この魔導兵器ってのが、デビルと戦う力になるだろうな」

「やっぱりそう思う?」

「思うとも。ただ、これだけじゃダメだ」

「どうするの?」

「これ単体じゃ、いいカモだ。支援するための兵器がいる。そして支援するための兵がいる。頼りすぎては事を仕損じる」

戦争は単体で行うものではない。確かに中核となる戦力は存在する。例えば、第二次世界大戦中の航空兵力のように。おっと、この世界では魔道具がそうだった。

ただし、それは唯一ではあっても、無二ではない。

そういった強力な兵器の中にも、必ずそれを支援する力が必要である。

戦争は平面ではなく、立体で行われるのだから。

「ふふ、なんだか楽しそうね」

「そうかな?」

「そうね。あなたは楽しそう。今からそのことについて考える? それとも、今日は私ともう一回楽しむ?」

ドーラは自分の体を覆っていたシーツを剥いで、裸体を露わにさせた。適度に引き締まり、強調するところは強調している肉体。そんなものを見せつけられて、理性を保っている男などいるわけもない。特に年ごろの男なら、そういうものだ。

次の日、少し寝不足気味の戦牙が寝ぼけ眼で学校に登校したことは言うまでもない。

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