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魔王と呼ばれた救世主  作者: ドノバン
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第三話 魔術の授業

歴史の授業の次は、期待していた「魔術」の授業だった。

しかし期待とは裏腹に、戦牙は大きな不安を感じている。彼は魔術など、皆目見当がつかないのだ。

復活前の世界は、科学で成り立っていたのだから。

教室以外の場所、体育館で行われる授業にドーラと一緒に向かう。その途中で、彼は問いかけた。


「なぁ、魔術ってのはどうやって使うんだ? 全くイメージができないんだが?」

「大丈夫よ。ここにいる全員がそう思ってるから」

「どういうことだ?」

「あなた、前世で銃を撃ったことはあるかしら?」


無論、あるわけがない。


「撃ち方は分かる?」

「弾丸を込めて、引き金を引く」

「組み立てられる?」

「いや、それは無理だ」

「じゃあ、それと同じよ。魔術だって、誰かに発動するまでの組み立て方を教えてもらわなくちゃならない。それに、人によって魔力量の問題があるから、全く使えない人だっているわ。ここにいる人たちは、今から魔術を学ぶけど、その前に魔力量がどれくらいあるかを調べるのよ」

「何だ、だれでも使えるわけじゃないのか? 俺の場合はどうなんだよ?」

「さぁ、それはあなた次第。でも私はあなたの魔力量を最大限まで増やしたわ。だからあとは、あなたがどれだけみんなを救いたいと思うか、ね」


最終的に魔術が使えるかどうかは戦牙次第。

しかしこれに関しては、どの時代でもどの世界でも、結局のところ同じことだと言える。

誰が、誰のために、どうしたいのか。

それは最終的に自分自身で決めなければならない。

戦牙はその点、それを一番よく分かっていた。過去の経験から。


体育館には多くの学生が集まっていた。

ちなみに戦牙が通っている高校の名は、『春晶学園』という。

高校の名前は変わらない。しかし大きく変わっているのは、彼が通っているのが普通科ではなく、魔術科である点だ。

「お、戦牙!」

声をかけてきたのは尾田信長。こいつも橋場と同じく、戦牙の悪友である。

「今日の帰りも都呂々で飯食って帰ろうぜ? どうせお前、暇なんだろう?」

「どうせってのだけ余計だ。それよりお前、ちゃんと家に帰ってんのか? この前もお袋さんが俺の家まで訪ねてきたぞ」

「あぁ、気にすんな。母ちゃんの再婚相手とうまくいってないだけだから」

「知らねぇよ! 俺を巻き込むんじゃねぇ!」


信長がお袋さんの再婚相手とうまくいっていないのは、前の世界から変わらないらしい。

事情が複雑なのはわかるが、巻き込んでほしくないのが戦牙の本音偽らざるところでもある。黒髪で少し痩せすぎにも見える頬のこけ方。しかし、本人の眼光は鋭く見るものを威圧する何かを持っている。ちなみに細い割に喧嘩っ早く、腕っぷしも強いのが意外だ。


「正宗は来るのか?」

舘正宗だてまさむねはほとんど戦牙たちとつるむこともないが、それは彼自身が一匹狼的な面も持ち合わせているからである。

時たま、気が付いたら三人の枠の中に入ってきていることもある。

このときもそうだった。


「すまんが、俺は家に帰る」

「おわぁ!!? いたのかよ!!!」

「親父の商売の手伝いがあるんでな。悪い」

「いいよ、別に。時間が空いたときで」


正宗の家は小さな商店街の中にある。

その中で、これまた小さな鉄工所をやっているのだ。しかし親父さんは受注する値段の割にいい仕事をするとかで、かなり同業者では名前を知られた男である。正宗も仕事が忙しいときは、その手伝いに回ることが常だった。


「静まれ!! 一年坊主ども!!」


突然響く怒号。

整列する戦牙たちの目の前には、紅い制服を身に着けた青年と少女が並んでいた。その態度の高圧的なこと。彼らは腰の後ろで手を組み、戦牙たちを睥睨していた。


「これより魔力検査を始める。最初に話しておくが、ここで魔力量の多い者は栄えある宮廷魔術特進科に進むことが許可される。無論、授業や訓練は厳しさを極めるだろう。しかしその先には未来が開ける! その逆である者たちは、これまで通り魔力無き者として常人の人生を歩むことが妥当とされる。以上、健闘を祈る!」


威圧的な言葉を放ったのは大柄な青年だった。筋肉質な体をしているが、クマというよりは巨大でしなやかなトラやライオンを思わせる。しかし戦牙は読み取った。


高圧的な言い方をする割に、信長のように眼光の光が見えない。

信長は一種危険な光を持っているが、目の前の男に関してはそうではない。

悪い人間ではなさそうだ。


それよりも、彼が気になったのはその傍らにたたずむ小柄な女性。

制服は周りと同じく赤い。黒髪が長く、一見して清楚なたたずまいである。顔の表情も静かで、まさに静かで美しい、空の色まで映し出す湖畔のような人だった。

それが誰なのかはわからない。

しかし何かの中心人物であることは間違いない。


「それでは、魔力総量検査を始める!!」


「ところで、あいつらなんだ? 何か、王宮魔術がどうのこうの言っていたが?」

戦牙は王宮魔術と聞くのは初めてである。ドーラは答えた。

「王宮魔術師っていう職業があるの。魔術師のもっと上の職業よ。給料もいいし、権力だってもらえる。でも、魔力総量が多いうえに、色々な魔術が使えなくちゃいけないの。だから、魔術師を目指す学生の中でも、数百人に一人しかなれないって言われてる。ちなみに彼らは王宮魔術特進科の学生よ。あまり関わり合いにはなりたくないんだけど・・・・・・」


ドーラがなぜ関わり合いになりたくないかは、分からない。

それはともかくとして、周りの学生たちを見てみると確かに真剣そのものだ。自分のこれからの進路が決まり、しかも勝ち組や負け組まで決められるんだから、彼らの願望もわかろうというものだ。


そして、戦牙の番がやってきた。

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