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魔王と呼ばれた救世主  作者: ドノバン
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第14話 討伐ギルド所属

討伐ギルドってのは、いったいどんなもんなのか。

簡単に言ってみれば、人目につかない大森林や林、そして広大な砂漠の中に拠点を数多く持ち、巨大モンスターに人々の居住地が襲撃されないよう見守っているのが彼らの役目だ。

要するに実際のところは偵察員。

彼らは偵察を行うことによって、巨大モンスターの襲来から多くの人々を守ることを責務としている。人類は人間同士の戦争は大いに行うものの、これら巨大モンスターに対しての備えは疎かだった。それは他国からいつ攻められるかという恐怖心と、さらにいえば人間に対しては圧倒的にモンスターの数のほうが少なかったためだといえる。


だからこそ、自然発生的に討伐ギルドは組織された。


彼らはその勇壮な名前に反して、偵察を主とする。

モンスターの襲来を察知し、それを周辺の人々に通知、事前に避難するように呼びかけるのが主な任務だ。

だが、彼らのほとんどは魔術に長けた人間ばかり。だから彼らは最終的にモンスターの迎撃を行う。

誰もいなくなった、街や村で―――。


「で、俺たちに何の用なんだよ?」

戦牙はつっけんどんに聞いた。それに対して元は苦笑いで答える。

「君たちに、ぜひ協力を仰ぎたいと思ってね」

「協力だって?」

煙る部屋。

天井では古びたプロペラが、ゆっくりと、だが規則正しく回っている。先ほどは煙草を自制していたにもかかわらず、結局のところ数分後には煙草を吸い始めていた。

ストレスのたまる仕事なのかもしれない。


「そう協力さ。あのドラゴンを倒したのは、君たちだろう?」

「あぁ、そうだ。その功績で、おれたちに目を付けたってことか?」

「まぁ、そんなところさ」

元に代わって、歳三が話を継ぐ。

この男はとにかく、終始渋り顔だった。

「このところ、俺たちにもかなり仕事が回ってきててな。それってのも、今日みたいなドラゴンがそこらじゅうに押し寄せてきてる。同じ格好をしているが、多分、違う個体だろうな」


時折、同じ地域で複数のドラゴンが目撃されることはある。

ただし、それらは短期間に見られる現象であって、長い間持続することはない。それらは番であることがほとんどで、番となったドラゴンは性交を終え子孫を残す準備を終えれば再び別れる。

そうなれば、後は子育てのために気が立っているメスに気を配っておけばいい。

しかし今回の場面は別格だ。

「本来なら奴らは交尾してさっさとその場を離れる。俺たちは人里から近い場所にメスが営巣すれば、それを追い出すために攻撃をする。だが、今回はそんなことだけじゃすまない。すでに3つの営巣が確認されている」


モーゴウル1匹でも人間が相手をするには手に余る。討伐ギルドが、何とか相手をしてたおせるくらいなものだ。しかしそれが3匹となると手に余る。

いくら魔術の名手であろうと、モーゴウルとはそれだけ強力なモンスターなのだ。


「軍隊にも出動を要請している。しかし、今回は総力戦だ。死人も大勢出るだろう」

それでも軍隊や討伐ギルドは国民の安全を守るために存在する。

「今は1人でも多くの戦力がほしい。俺たちは軍隊だけじゃなく、冒険者ギルドにも協力を要請した。本来なら、あいつらとはあまり仲もよくないんだが、そうも言ってられん」

冒険者ギルドはいわゆる、冒険者として身を立てる者たちを支援する組織である。モンスターやら迷宮やらが存在するこの世界では、前世では鼻で笑われたような夢の職業でも、堂々と存在する。

彼らは大量に採掘できる銅や錫、そして鉄などとは違う、古代の魔道具や原料となるオリハルコンを手に入れるために、危険な迷宮に入って一攫千金を目指す。

一度だけ本物の冒険者を戦牙は見たことがあるが、彼らは剣や刀を身に着け、鎧を身に着け、身一つで迷宮に乗り込む。中のモンスターは多く、種類によっては未だ生態やその存在が確定していないタイプも存在しているらしい。


「しかし冒険者ではドラゴンに太刀打ちできないでしょう?」

「周りに眷属が大勢いる」

「眷属ってなんだ?」

戦牙は初めて耳にする言葉に、ドーラに質問を投げかけた。

「眷属っていうのは大型のモンスターに付き従う、下級モンスターよ。大型モンスターが仕留めた獲物のおこぼれを狙うわけ」

ライオンのおこぼれを狙う、ハイエナのようなものだ。しかし眷属はハイエナよりも性質が悪い。

「眷属の中にはゾンビもいるし、シャドーウルフも確認されている。どちらも厄介なことこの上ない」

ゾンビは言わずと知れた、歩く死者である。ドラゴンやモンスターに食われた人間の死骸から復活するため、ほとんどが骨や皮だけでできた体をしている。ところがモンスターは人間の顔までは食わない。

「苦悶の表情で歩く人間をもう一度殺すんだ。あまり気持ちのいい仕事ではない」

罪悪感はどんなに強力な戦士であっても、そう簡単には拭えない。経験豊富な冒険者はその点、ゾンビとの戦いにはうってつけだ。シャドーウルフ自体は巨大なオオカミだといっても差し支えないから、これ自体はまだ経験が浅い冒険者でも対処できる。

「モーゴウルは営巣したら、そのままこの地に住み着くのか?」

「いや、奴らは常に移動している。縄張りを持つのも、産卵して子供を育てる間だけだ」

それならと、信長が明るい顔で答える。

「奴らが子育てが終わるまで、待てばいいじゃねぇか。それなら被害も最小限だ」

これに対して反論したのがサーシャだった。

相変わらず頭にくる言い方で。

「あんた馬鹿なの? 奴らも生物なら、子育ての時が一番食料を必要とするのよ? 三匹も野放しにしていたら、一瞬でこの辺りから生命が消えるわ」

そして三匹のモーゴウルに囲まれたこの街は、完全に孤立するだろう。救援が来るまで待つという手があるが、その間は3匹同時に相手をしなければならない。

周辺の食料が失われた以上、かならず人間が狙われる。

信長はサーシャの言い方にイラッとしたが、それに反論できるほどの情報は持っていなかった。


再度、歳三に代わって元が事の本質を語り始めた。

「要するに、討伐ギルドはこの三匹を退治する。あるいは追っぱらう。そのためには眷属の排除が必要だ。僕たちは近接戦闘には向いていないし、大規模な魔術を放つには時間がかかるからね。冒険者には魔術が組みあがるまでの時間稼ぎをしてもらう。そして、そのためには各個撃破が条件だ」

戦力を集中し、モーゴウルを一体ずつ撃破する。

軍隊も含めた全戦力だ。

「戦力ってのはどれだけいるのさ?」

「冒険者100名、討伐ギルドから200名、そして日本陸軍普通科連隊300名だ」

「600名って数が多いのか、少ないのか分からないな」

秀吉が肩をすくめた。

「600名は少なくないが、多くはない。特に3匹に対してはね」

1匹に対しては十分な数である。

だが、3匹に対しては最悪・・・・・・。

だからこそ、各個撃破で迅速に対処していかねばならない。

「しかしそれも他のモーゴウルに気づかれたら終わりだ。危険を察知した奴らは、こちらを襲いに来るだろう。そしらたこっちは全滅、打つ手がなくなる」

「そこで、お前さんたちに頼みがあるってわけだ」

ここまで話されたら大体の想像はつく。戦牙も他の3人も、大きくため息をついた。

先ほど相手したあれと、また戦えってことだ。


「それで、何で受け入れたの?」

秀吉たちと別れた帰り道、ドーラから問いかけられた。

結局のところ、戦牙たちは元や歳三の要請を受け入れた。

「そもそも、拒否権なんかなさそうだったろ?」

「そうね。討伐ギルドの要員と冒険者、多くの死人が出ても目覚めが悪いでしょうしね」

「しかし軍隊にも魔導兵器はあるんだろう? 何で奴らは魔導兵器を出さないんだろうな?」

そこはドーラも疑問であった。そもそも、魔導兵器は戦争のために開発された兵器。しかし世界に先んじてそれを保有した日本は、軍隊を大型モンスターにもぶつけることで成果を上げていた。

「状況が分からないのでは、どうにも判断のしようがないわ」

「そうだな。それになぜ、性急に討伐ギルドの奴らがモーゴウルを倒そうとしているのかが分からない。俺なら、まだ卵がかえっていない状況であれば、もう少しだけ戦力を整えることに力を入れる」

「それで、あなたならどこまで人を集められるの?」

「さぁね? つても何もないからなぁ」

「何よ、それ」

ドーラが笑った。あまりに無責任すぎる戦牙の発言だったが、そこには一つだけ隠された目標があった。彼は拒否権がないと言ったが、そんなことはない。

もしも戦牙たちが拒否すれば、元たちは必死になって国に増援を願うだろう。

ただ、それだけのことだ。


だが、今回討伐ギルドの申し出を拒否せず、形だけでも所属する形をとったのは理由がある。

ここで少しでも活躍すれば、今後軍隊や討伐ギルド、そして冒険者ギルドの中にも伝手ができる。それが今後の彼らの方針を決めることになるだろう。

誰かの協力を得なければ大事を成し遂げることはできない。

『デビル』たちに勝利するために。

そしてこの世界を守るために。


家につくと、門の前に車が止まっていた。

黒塗りのセダンで、あまりいい印象を与えるものではない。どちらかといえば『ヤ』がつきそうな方々が乗っていそうな車である。

一瞬ビビるが、ドーラが腕を組んできて耳元で囁いた。

「大丈夫よ。あなたの魔術は人間なんて簡単に肉塊に変えちゃうから。それと中級魔術くらいまでなら体を貫通することも、破壊することもできないわ」

「そんなもんかな?」

「そうよ。だから救世主なんでしょ」

そうこうしているうちに、車からスーツを着た背の高い男たちが下りてくる。運転席と助手席から降りてきたそいつらは、サングラスをかけており筋骨隆々。日本人の顔立ちではない。

「ちなみに、この世界にも車はあるわ。でも、ほとんど走っているのを見たことがないでしょう? 実は戦車なんかもあるの」

「なんでみんな使わない?」

「魔術のほうが手っ取り早いから」

「あぁ、なるほど。となると、こいつらって相当金持ち?」

「そうね。娯楽には惜しみなく使えるくらいのお金はあるってことね」

その金持ちが何の用なのか。

全く身に覚えがないことだけは間違いない。

「お前はさっき、モーゴウルを倒した魔導兵器を操縦していた者か?」

「あぁ、そうだけど」

「証拠を見せろ」

いきなり証拠を見せろと言われてイラッとしたが、渋々小型化した旭翔を見せる。それを確認した男は、助手席から降りてきた黒人風の男に合図を送る。


メン・イン・ブラックみたいだ。


助手席の男は後部座席のドアを開ける。

そこから降りてきたのは、美しい黒髪の少女。白いワンピースを黒髪とは対照的に身に着けており、彼女の清楚さと純真なイメージを際立たせている。彼女は微笑みを浮かべながら、ゆっくりと戦牙たちに頭を下げた。

「先だっては命をお助けいただきまして、ありがとうございました。私は神宮沙紀と申します」

「神宮!?」

名を聞いて驚いた。

戦牙も神宮家の名は知っている。天皇家に仕える右大臣の家柄で、国内でも絶大な発言力を持つ。無論、それは天皇家の行事や後継者選定の時に限られ、実質的な政治には発言権はない。しかし、現当主は実業家としても成功し、非常に優れた傑物だった。

彼女はその娘なのだろう。神宮さんは日本全国にたくさんいるだろうが、これだけの金持ちなのだ。多分、間違いない。

「本来ならこんなところに居てよいお方ではないのだがな、どうしても礼が言いたいということだったのでお連れした」

「そりゃあ、どうも」

いちいち鼻につく護衛の物言いだ。こちらも挨拶くらいはしておいたほうがいいだろうと、戦牙も頭を下げた。

「小嶽戦牙です。近くの高校に通っている高校生です」

「小嶽ドーラです。戦牙の許嫁です」

「ご丁寧に、ありがとうございます。しかしびっくりしました。高校生だったのですね」

確かに高校生があんな化け物と戦う余裕はないだろう。一体どこに、魔導兵器を駆ってモーゴウルを撃破する高校生がいるのだろうか。恐らく、明日には学校中に知れているに違いない。


「もう十分でしょう、お嬢様。明日にはこの街を発ちますよ。少しお休みになってください」

「明日!?」

これに難色を示したのは、戦牙である。なぜなら、彼は今この街の外で何が起きているか事情をよく知っているのだから。

「明日は無理ですよ!? 今日みたいなのに本当に食われちまいますって!」

「モーゴウルはもう倒しただろう? それとも仕損じたか?」

「いやいや、まだ他に3匹いるらしいですよ?」

「そんなバカな話があるか!?」

疑う護衛だったが、そこに現れたのは元だった。

「本当ですよ。神宮様。明日は絶対にここを出ないでください」

討伐ギルド職員の登場で、護衛も戦牙の話を信頼せざるを得なくなる。渋々と言った感じで、出発の延期を承諾せざるを得ない。今後の方針についても説明を受けた彼は、作戦の実地日を聞いた。

「それで、作戦はいつ発動される?」

「そうそう、それを戦牙君にも伝えに来たんだ。割と早い段階で発動する。一週間後だ。それまでに準備を頼むよ」

作戦の発動日は決まった。

後はそれに向けての準備をするだけだ。

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