第8話 レート=クライシスの戦い
臨時政府と国際政府。
白と黒の相反する統治機構。
黒は白を取り込もうとしている。
パトフォーの黒い夢が終わるとき、
ラグナロク大戦は終わりを迎える――
【レート州中部 クライシスシティ 西部市街地】
灰色をした石造りの建物が広範囲に並ぶ廃墟同然のクライシスシティ。クライシス河を挟んで西部市街地を支配するのは、国際政府の軍勢だった。
フィフス軍事総督、ヴェストン副総督、レイズ特殊軍長官の3人を筆頭に40万人の兵力を有する国際政府軍。
対する連合軍は、プロヴィテンス将軍、フリゲート中将、アクセラ中将の3人を筆頭に、80万の兵力を持つ。だが、75万はロボット兵器。5万人はクローン軍人だった。
私たち臨時政府軍は、国際政府軍の援軍として、30万人のクローン兵を率いて、このレート=クライシスへとやってきた。
「フィフス総督閣下、失礼致します」
私とクラスタは、とある建物の会議室へとやってきた。ここに国際政府軍の司令室があり、フィフス総督やヴェストン副総督がいる。
「ああ、パトラーさん。どうぞ、入ってきてくださいな……」
扉を開けると、たくさんの機械が置かれて狭くなった部屋には、国際政府軍の指揮官たちがいた。奥にいる初老の男性がフィフス総督だ。
「お久しぶりです、フィフス総督閣下。臨時政府総帥=国際政府特殊軍将軍のパトラー=オイジュスです」
そう言い、私は一礼する。元々は国際政府と臨時政府は一体だった。私も国際政府所属だった。その頃にはフィフス総督とも何度か会ったことがある。
「少し見ない間にご立派になられましたねぇ、パトラーさん」
「ありがとうございます、フィフス総督」
「なに、そんなに緊張しなくてもよろしいですぞ。――わたしは、いやヴェストンさんもレイズさんもあなた方――臨時政府のことは、高く評価しとります……」
「私たちを……?」
「ええ、そうです。軍事であるわたしが政治に口を出すのはタブーなんでしょうが、国際政府よりも臨時政府の方がずっと立派だと思っとりますのでな……」
「……私たちは市民の為に働いているだけです」
「ふふ、国際政府にはそれが難しいんでしょうて……」
そう言うと、フィフス総督はゆっくりと立ち上がる。刀を杖代わりに歩き出す。これでも彼は私よりも強い。昔はもっと強かったらしい。
「先に言っておきますわ」
「…………?」
「この戦いが終わったら、わたしらは臨時政府に従わせて貰いますんで」
「私たちと一緒に……? ええ、分かりました」
フィフス総督は国際政府の軍人。臨時政府は国際政府の下位国家。私も彼も国際政府所属だ。臨時政府に従うといっても、結局は国際政府に従うことに変わりはない。さっきの彼の言葉の意味は……?
「ふふ、意味が少し分かりませんでしたかな?」
「…………!」
見抜かれた……! さすがだ。私の口調や態度から見抜いたんだろう。
「――新しい嵐を呼ぶにはまだ早いですねぇ。まずは、目の前の嵐から片付けた方が宜しいでしょうな。――そろそろ嵐が来るころですわ」
そう言うと、フィフス総督は部屋から出ていく。私たちも彼の後に続く。半分崩れかかった建物内を歩いていき、屋上へと出る。そこから小型飛空艇に乗り込み、市街地を東に進む。
「――事前に申しておきましたが、臨時政府軍の戦闘態勢は整っておりますかな?」
「もちろんです。ホーガム将軍とスロイディア将軍、ソフィア将軍の3人が指揮を執っているハズです」
「そうですか、それなら安心ですな……」
……ホーガム将軍とスロイディア将軍は元々は国際政府の将軍。その実力はフィフス総督もよく知っているハズだ。ソフィア将軍は臨時政府のクローン軍人だ。
やがて、小型飛空艇はクライシスシティの中央にある大きな河――クライシス河のすぐ近くへとやってくる。そこで高く大きな建物の屋上へと降りる。
外に出ると、冷たい風が吹いていた。空は灰色の雲で覆われている。もうすぐお昼だというのに、太陽の光は全くなかった。
「さて、そろそろ来る頃でしょう」
「…………?」
私はクライシス河東岸の方に目をやる。黒い豆粒のようなものが西岸に迫りつつあった。西岸では国際政府軍が戦闘態勢を整えている。
「総督っ、連合軍が動き出しました!」
黒い豆粒のように見えるのは、連合軍の大型戦闘ヘリ――ガンシップだ! 100機以上のガンシップがこっちにやって来ている。
よく見れば、水上にも小型の運搬用の軍用船が何十隻とある。ボートのようなそれに、黒い機械の兵士が30体近く乗っている。
「さて、こちらも行きましょうか……」
フィフス総督がそう言うと、ヴェストン副総督とレイズ長官が去って行く。国際政府軍の指揮を執るためだろう。
「今日は決戦の日。わたしらも敵さんもそう思っておるんでしょうて……」
フィフス総督が刀を抜く。何度も国際政府と連合政府の戦いの場となってきたクライシスシティ。その戦況はどちらも一進一退だったが、いよいよ終わりを迎える。
「では、私たちも行ってきます」
「お気をつけて。お互い生きてまた会いましょう……」
「必ず!」
私はそう言うと、クラスタと一緒にその場を離れる。このとき、砲撃音が鳴り響き、国際政府軍と連合軍の戦いが始まった――!