第6話 アレイシアの企み
【連合政府首都ティトシティ ヴォルド宮】
アレイシアシティから遠く離れた連合政府首都ティトシティ。その中心地に、連合政府の中枢ともいえる建物――ヴォルド宮があった。
私はヴォルド宮に入り、薄暗い最高司令室で偽りの報告をしていた。――レベッカやサーラ、コミットらが反逆し、私はたった1人で戻ってきた、という偽りの報告を……
「そうか、キャプテン・アレイシア将軍……」
「アレイシア軍上層部はずっと前から臨時政府との合流を企んでいたようです。先に戻ったコマンダー・ライカも信用なりません」
コマンダー・ライカによって殺された数十人のクローン兵たちの犠牲を無駄にしない。必ず彼女たちの犠牲を連合政府崩壊にまで導く。その決意の下に私は戻った。
だが、――
「――口だけは上手いな、アレイシア」
「…………!?」
私ははっと顔を上げる。ティワードの黒い瞳が、しっかりと私を睨んでいた。見抜かれたか……!
「……どういう意味、でしょうか?」
「ほう、そのウソを貫き通す気か、愚かな“人もどき”よ」
「…………ッ!」
人もどき、という言葉が私の胸に突き刺さる。……ずっと前からそうだった。連合政府本部の人間は、私たちを人間と見ていない。だから、平気で残虐な拷問や実験台にかけ、使い捨てる。
今でこそ、ほとんどのクローン兵はアレイシア軍に所属し、地獄のような日々は終わりを告げた。昔は本当に使い捨てだった。コミットやサーラたちが簡単に連合政府離脱の話に乗ったのも、こういう背景があったからだ。
「ふふっ、愚かなアレイシア将軍」
「…………!」
後ろから誰かが歩いてくる。いや、見なくても分かる。連合政府に追従する愚かなクローン――コマンダー・ライカだ。中将の地位にありながら、中将の実力はない。貪欲に連合での地位を求め、それをいいように利用されているだけだ。
「アレイシアを処刑せよ」
「ティ、ティワード総統っ、私は本当に! ライカこそ総統閣下を貶めようとする反逆者です! 彼女はアレイシア軍と共謀し――」
私は後ろを向きながら言う。ライカ程度なら素手でも……!
「おっと、そうはいかないぞっ!」
彼女の後ろから、2体の鋼の騎士型ロボット――バトル=パラディンが歩いてくる。剣を使う親衛ロボットだ。
連合政府というのは、アレイシア軍はクローン兵だけだが、本部の軍隊は基本的にロボット兵器を使う。バトル=パラディンは上級のロボット兵器だ。
「ライカだけ気にしておいてよいのかね?」
私の後ろでティワードが言う。彼の方を見ると、その横には2人の男女がいた。1人は栗色の髪の毛をした女性。もう1人は全身を銀色の装甲服で覆った男性。ケイレイトとメタルメカだ。2人は、私と同じ将軍だ。
「総統閣下っ、私を本気で殺す気ですか!?」
「もちろん――」
ティワードはニヤリと笑う。この男、本気で私を……! 私は連合政府総統の方を向き、剣を手に取ると、それを遠くに投げ捨て、彼に跪く。
「閣下、私は連合政府に忠誠を誓い――」
「またウソかなっ?」
ライカが口を挟んでくる。構わずに私は話を続ける。
「今まで命がけで国際政府と戦ってきました。国際政府軍との戦いは閣下もご存じのハズ。降伏するタイミングは今までたくさんありました。今更になって私が国際政府に降伏するなど、あり得ません!」
「君が大好きなのは臨時政府だろうっ!」
余計なことを言うな。
「もし、閣下がどうしても私を信用できないのでしたら、それも仕方ありません。どうぞ、ここで私を殺してください。ただ、――ライカには用心してください」
「うわっ、何言ってんだ君はっ!」
「よい心がけだ。ケイレイト、アレイシアを殺せ!」
「はっ、はい、しかし、――」
ケイレイトが動揺の声を上げる。彼女とは仲が良かった。もし、メタルメカかコマンダー・ライカだったら、今頃私は死んでいるだろう(死ぬ気はないが)。
「殺れと言っているのだ」
「でも!」
「お待ちください、総統閣下」
別の声が上がる。暗闇から、別の男が出てくる。――“やっと来たか”。
「――コマンド、何用だ?」
「閣下、わたしの目にはアレイシアは偽りの報告をしているとは思えませぬ。ここは慎重に調査し、連合政府上院議会で正式に処分を下して如何でしょうかな?」
黒いスーツを着た初老の男――コマンドはニヤニヤしながら言う。実はここに来る前、私は彼と取り引きをした。私を庇えば、私の預金を全て渡すという取り引きだ。カネに貪欲な男は、すぐに私の話に乗った。
コマンドは連合政府に軍隊を提供した為、政府に対して強大な影響力を持つ男。コイツを味方につければ、連合政府の半分を動かせる。
「…………。……それもよかろう」
「ウソでしょっ?」
「ライカ、アレイシアを拘置所に連れて行け」
「……イ、イエッサー」
コマンダー・ライカはしぶしぶと返事をする。ティワードもライカも内心、悔しいだろうな。だが、コマンドの意見を強行に突っぱねることは出来ない。やれば、連合政府大分裂の危機さえも招く。
本当に、コマンドという男がいて助かった。