第4話 アレイシアシティからの脱走
【アレイシア城 星の間】
夜になった。私はリークと共に、アレイシア城最上階――星の間へとやってきた。広く奥行きのある星の間。薄暗い部屋中の壁や天井、床に銀色のクリスタルの欠片がはめ込まれている。……なるほど、“星の間”なだけにある。
部屋の奥に椅子がある。そこに座るのは、アレイシアの王リーダー――キャプテン・アレイシアだ。その左右にコマンダー・サーラとコマンダー・レベッカがいる。私と同じ中将だ(また残念ながら、私よりも2人の方が実力は上だ)。
「キャプテン・アレイシア将軍、コマンダー・ライカ、ただいま参上致しました」
「……大切な話がある」
「…………?」
急に真剣な顔になるキャプテン・アレイシア。大切な話? ま、まさか、私の昇格の件かっ!? それは確かに大切な――
「私は臨時政府に降伏する」
……は?
私はキャプテン・アレイシアの言った言葉が一瞬、理解できなかった。呆然としてしまう。臨時政府に降伏?
「ご、ご冗談を」
「いや、本気だ。私とこのアレイシア軍は全て臨時政府に降伏する」
「…………!!?」
こ、この女、本気か!? 今や連合政府本部よりも遥かに強大な勢力になったアレイシアが、一戦もせずに臨時政府に降伏するのか!?
「連合政府を裏切るんですか?」
「ああ、そうだ。私はパトラーと共に連合政府を倒す」
「……ウ、ウソ?」
私は素早く後ずさる。キャプテン・アレイシアのヤツ、本気で連合政府を裏切るつもりだ! これは確かに大切な話だっ! っていうか、その手土産に私を臨時政府に……!?
「リ、リークっ! 逃げるぞ!」
「お、おう!」
「いや、逃がしはしない!」
キャプテン・アレイシアが立ち上がる。と同時に、私たちが入ってきた大きな扉が開かれる。入って来るのは6人のクローン・コマンダーだ。コミット少将、エル少将、スー少将、ネリア少将、リン少将、カポナー少将だ! 本当に残念なことに、彼女たちは私とほぼ同程度の実力者たちだ。
「しょ、少将6人はないでしょ……!」
「捕えろ!」
裏切り集団は中将2人含め8人。どう足掻いても勝てる見込みはない。私を捕まえ、臨時政府に降伏する気だ。私の昇格どころか、命が危うい状況だ。
入ってきた扉から逃げられる確率はゼロだ。ならば、――
「リーク、来い!」
私は星の間の大きな窓に向かって走る。窓に手をかざす。超能力で打撃を起こし、窓ガラスを割り壊す(結構、硬かったな。強化ガラスか?)。割れた窓ガラスから私は飛び降りる。リークも続く。
アレイシア城は巨大な城だ。地上まで1000メートル近くもある。私は空中で打撃を起こし、その衝撃で何度も飛び上がる。それを繰り返し、勢いを弱めて地面に着地する。しばらくして、リークも上手く着地する。
「さて、この後、どうするか……」
「まずはアレイシアシティから脱出した方がいいかもな」
リークが別の建物の壁に設置された大型スクリーンを指差す。そこには、緊急事態を示す赤色のマークと、私たちの姿が映っていた。
「な、なにっ!?」
辺りを見渡すと、すぐ近くに楕円状の小型機械が浮かんでいる。ガラスで覆われたその機械の中には、カメラレンズが見えていた。
「偵察機……!」
私は小型偵察機に手をかざし、それを斬り壊す。スクリーンの映像も消える。だが、すぐに別の映像が映し出される。そこにあったのは、さっきとは違う、別角度から映る私たちだ。これじゃキリがない。私とリークは偵察機を無視し、市街地へと走って行く。
アレイシアシティは無数の高層ビルが立ち並ぶ大都市だ。だが、そこにいるのは全てクローン軍人(元軍人も含む)。
「ねぇ、アレって……!」
「捕まえろ!」
私服を着たクローン兵が飛びかかってくる。何人もいる。だが、彼女たちが私たちに触れることはできなかった。空中でその身体は弾かれる。
「こ、これは……!?」
「シールド!?」
リークがニヤリと笑う。そう、彼はシールドを自由自在に操れる特殊能力者だ。普通の人間じゃない。
リークの張る物理シールドに守られながら、私たちは市街地を走り抜けていく。目指すのは第7飛行場だ。私たちの乗ってきた小型戦闘機がある。
「ふふっ、便利な能力だな。物理シールドで“道”を作れるじゃないか」
「やろうと思えばな」
しばらく市街地を走っていると、塀に囲まれた場所が見えてきた。辺りには建物もほとんどない。第7飛行場だ。
リークが物理シールドで道を作る。私たちはシールドの道を駆け上り、第7飛行場へと飛び込む。広い場所にデルタ状の小型戦闘機が並んでいる。
「う、うわっ、まさかアレが……」
リークがこっちに走ってくる“巨人”を指差す。ビッグ・フィルド=トルーパーと呼ばれる巨大クローンだ。遺伝子操作で創られたらしい。
「キャプテン・アレイシア将軍から話は聞いたぞ。行かせるものか!」
「グラビトン……!」
グラビトンは身長17メートルの女巨人。連合政府内では正式な地位を持ってはおらず、“ネクスト中将(=次の中将)”という、アレイシアのヤツが与えた私的地位を持っている。……つまり、現中将とほぼ同程度の実力を持っている(私も欲しいな、ネクスト将軍(=次の将軍)っ!)。
彼女は巨大な斧を振り上げ、私たちに向かって振り下ろす。リークが物理シールドを張る。大きなガラス音が鳴る。
「なっ……!?」
リークの物理シールドにヒビが入っていた。普通の銃弾や砲弾では到底、ブチ破れないシールドが破られそうになっていた。
「急げ、ライカ!」
「…………!」
私は急いで小型戦闘機に乗り込み、出発の準備をする。敵はグラビトンだけじゃない。ぐずぐずしていると、他のクローン兵まで追いついてくる。――私は焦っていた。だからこそ、気が付かなかった。
[――コマンダー・ライカを発見]
[よし、彼女だけを捕まえよ。部下はいらん]
[イエッサー。サーラ中将]
出発準備が終わると、私はリークの方を向く。何度も繰り返されるグラビトンの激しい攻撃。彼は何度もシールドを張り直し、彼女の猛攻を防いでいた。
「リーク!」
「おう、んじゃ逃げ――」
リークがそう言ったときだった。
[撃て!]
彼のいた場所に、別方向から砲弾が飛び、着弾した。爆音が鳴り、コンクリートの地面が砕けた――