第33話 夢の終わり
【総督艦 中層 廊下】
「…………」
何度も激しい爆音が鳴り響く総督艦。私は剣の先から血を垂らしたまま、廊下を歩いていた。その間にも、この廊下にまで砲弾が届く。轟音と共に炎が上がる。
連合軍の艦隊が敗れた。そして、この総督艦が、政府軍の艦隊によって集中砲火を浴びているのだろう。もうすぐ、この巨大艦は沈む。
すでにティワードも死んだ。残る敵は少ない。私は敵を皆殺しにする。誰一人も許しはしない。パトフォーも、国際政府元老院議員も、連合政府関係者も、みんな殺してやる……!
「急げっ、逃げるぞ!」
私は声のした方向に向かって走る。敵だ。私の殺すべき人間がいる――
廊下を曲がり、開いた大きな扉をくぐる。中は司令室か何かだった。いくつものシールド・スクリーンが並んでいる。その全てがこの異常事態を警告していた。
「なっ、この女はパトラー=オイジュス!」
「なぜここにいるのだ!?」
立派な服を纏った者たちが何十人といる。ああ、そうか。この連中は連合政府下院議員たちだな。これまで連合政府を構成してきた組織が選出した議員たちだ。
「血まみれだな。もう一息で死ぬか?」
……この男は「テトラル」選出の議員だったか? まぁ、どこでもいい。私は急にその男に迫ると、その首を一撃でハネる。血が飛び、首が音を立てて落ちる。
「殺れ!」
「どけっ、ここは「ビリオン」選出議員であるこの俺が――」
黒いライフルを持った男が私に向かって発砲する。私は素早くそれを避け、その男とは別方向に走る。走りながら、サブマシンガンを引き抜くと、それで頭を狙い撃つ。「ビリオン」選出議員は、頭から血を噴いて倒れる。
「ひ、ひぃっ!」
私は立て続けに、走る先にいた議員を撃ち殺す。彼が倒れる前に、私はその側を走り抜ける。
「う、うわっ、「ギルティニア」選出議員まで殺されたぞ!」
「ハハハッ、お前はどこの議員だ!?」
私は笑いながら、怯えた表情を浮かべる男を射殺する。倒れるときに、IDカードが転がる。……今のは「ナノテクノミア」選出議員らしいな。
残りの議員たちが逃げ出す。私は剣を抜く。別にサブマシンガンで撃ち殺してもよかったんだがな。
「よせ、よせぇっ!」
「うわぁッ!」
剣をぶん回し、「マネー・インフィニティ」の議員と「バトル・ライン」の議員を斬り殺す。更に後ろから「ヒーラーズ・グループ」の女性議員を刺し殺す。
私は立体映像投影台を足場にし、逃げ惑う連合下院議員たちの目の前に降り立つ。彼らは慌てて向きを変えて逃げようとするが、それよりも前に、私に斬られる方が先だった。
「た、助けっ――」
「うぅぐっ!?」
私は冷たい表情で、喚きながら逃げる者たちを殺していく。彼らを助けようなど、微塵も思わなかった。殺したかった。
やがて、最後の1人になった。彼は壁を背に座り込み、震えながら私を見上げる。
「す、すいませんっ、助けてください……」
「…………」
「こ、国際政府に、降伏しますっ…… い、命だけは、――」
私は彼の頭を剣で上から突き刺す。それは頭蓋骨を砕き、深々と刺さる。泣きながら命乞いした彼の命は消えた。
私は剣を抜き取り、足元に倒れ込んだ死体を蹴ってどかすと、血まみれの部屋を後にしようとする。もう、ここに用はない。
そのとき、1つのシールド・スクリーンに聞き覚えのある声が入る。足を止めてそっちに視線を向けると、そこにはパトフォーがマグフェルトとして、命令を出していた。
[クェリア将軍、総督艦内には国家反逆者が多数生き残っておる。直ちに連合政府の象徴でもあるその飛空艇を破壊せよ]
[はい、分かりました。お任せください、総統閣下。――全艦に告ぐ。総督艦への一斉砲撃開始! 対象を完全に破壊しろ!]
これは盗聴器の一種かなんかだろうか。国際政府軍に下された命令が筒抜け担っている。いや、それかパトフォーがわざと流したものだろうか? 連合政府下院議員たちに“利用価値がなくなったこと”を告げる為に……
私はシールド・スクリーンに背を向け、その部屋から出ていく。すでに廊下は火の海だった。さっきよりも爆音と揺れが遥かに激しくなっている。何となく、落下していっているような気もする。
クェリアに下された命令は、私と下院議員を始末するためのものだろう。私もこの総督艦内で殺す気だ。
「…………」
私はそこから走って行く。ただ、もう何となく、自分が死ぬのが分かった。今更、ここを脱出することなんて出来ない。例え、政府軍の飛空艇に戻っても、殺される可能性が高い。特に私を嫌っているクェリアは確実に殺すだろう。
廊下を走っていると、すぐ横の壁が爆発する。私の身体も爆風によって吹き飛ばされる。向かいの壁に背を叩きつけ、その場に倒れ込む。上から落ちてきた瓦礫が私の身体にのしかかる。
「ぅぐ……!」
廊下は炎に飲み込まれつつあった。すぐにでも逃げ出さないと焼け死ぬ。なのに、重たい瓦礫がのしかかって、動くことが出来ない。
そうか、ここで終わりか。私はパトフォーを殺せずに、ここで死ぬ。そして、私の夢も消える――夢の終わりだ。
でも、まだクラスタたちがいる。みんななら、きっとパトフォーの黒い夢を打ち破り、彼を倒してくれるハズだ。
「お父さん、守れなくて、ごめん、ねっ……」
涙が頬を伝う。私の意識が次第に遠のいていく。激しい熱さだけが感じられた。……そんな中、誰かが走ってくる音が、聞こえたような気がした――




