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黒い夢と白い夢Ⅶ ――夢の終わり――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第7章 夢の終わり ――総督艦――
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第32話 終焉――

 GFT-4に連れられて、私は総督艦上層へとやってきた。彼女とは途中で別れ、私は1人で長く誰もいない細長い廊下を進む。濃い灰色をした廊下。静まりかえった誰もいない廊下。――不気味だった。


「…………」


 鋼で造られた灰色の扉を開け、私は総督室へと入る。階段を数段上り、広い部屋のほぼ中心に出る。四方の壁には大きく広いガラスが張られていた。日の落ちた外の様子がよく分かる。

 この部屋は総督艦の真ん中から、高く上に突き出すように造られた部屋。ここが最も高い場所だ。この部屋を言い換えるなら展望台だろう。


「パトラー……」

「…………!」


 水を打ったかのように静まり返った部屋に響く男性の声。私は声のした方――後ろを振り返る。そこにいたのは、銀色の髪の毛にエメラルドグリーンの目をした男性――私のお父さんが立っていた。


「お父さん!」


 私はお父さんに駆け寄ろうとする。だが、それよりも前に、お父さんの方が先に声を上げた。


「なぜ、戻ってきた?」

「えっ?」


 私の表情が凍りつき、その場で足を止めてしまう。外から爆音が鳴り響き、総督艦の付近を飛んでいた軍艦が木端微塵になる。


「なぜ、仲間を捨て、国際政府に戻った? マグフェルトはお前を殺すつもりだぞ」

「でも、私が戻らなかったらお父さんは殺されていた!」

「わたしはどの道、遅かれ早かれ死ぬ運命だ。……わたしが議員を辞職し、臨時政府に加わらなかったのは、パトフォーを抑える為。あの男の計画を1秒でも遅らせ、臨時政府を守るためだ。それが元老院副議長であるわたしに出来る最後の抵抗だった」

「そ、そんなっ……!? 死ぬなんて――」

「パトフォーは臨時政府をもっと早く終わらせる気だった。連合政府との戦争を利用し、お前やクラスタを始末する気だった。それが叶わぬのなら、お前たちを解任し、自分の息のかかった議員を任命するハズだったのだ。わたしはそれを議会で阻止した。本当に大変な戦いだったよ……」


 お父さんは悲しそうな表情で話す。私やクラスタの見えないところで、元老院議会というパトフォーの闇で染まった戦場で、ずっと戦ってきたんだ。


「わたしや私の仲間、お前たちの長い長い戦いで、パトフォーはもう追い詰められている」

「でも、まだ計画の内みたいなことを……」

「……きっと、それは違う。何とかできる策が、あと1つか2つあるだけで、もうその後ろには何もない。彼は相当にまで焦っている」


 焦っている……? あのパトフォーが……? 首都で会ったときはそんな様子じゃなかった感じだけど……

 でも、確かに私たちは彼の計画を狂わせ続けてこれた。パトフォーのあらゆる思惑に打ち勝ってきた。あと少しのハズだ。


「お父さん、一緒にここから逃げよう。パトフォーは私が倒す!」

「ああ、そうだな。だけど、その前に一言だけ言わせてくれないか?」

「…………?」

「戦いを背負わせてすまなかった。わたし達がお前と同じ頃にはあった、“当たり前だったもの”を残せなくて、本当にすまなかった!」

「な、なに言って――」

「――闇は不可視。見えないところからじわじわと侵蝕する。パトフォーが議長になってからの時代は架空の楽園。上手いこと言ったものだ……」


 そう言って、お父さんはその場に倒れる。私は叫びながらお父さんに駆け寄る。泣きながら、震える手でお父さんを抱き起こす。……口端から真っ赤な血が流れていく。お父さんは、もう、息をしていなかった。毒殺――


「お、お父さん……?」


 そのとき、総督艦が大きく揺れる。何度も爆音が遠くで鳴り響く。揺れと爆音は、今までにないほどの大きさだった。それが連続して何度も起こる。でも、今の私にはそんなこと、どうでもよかった。お父さんが死んじゃった――


「――パトフォー閣下の計画は最終段階」

「…………!?」


 私の後ろから、お父さんじゃない、別の男性の声が発せられる。


「万全だった計画を、崩壊寸前に追い込んだお前たち親子には、心から拍手を送ろう」

「…………」


 私はお父さんからそっと手を離す。下唇を静かに噛み締める。


「だが、それも終わりを迎える。――白い夢の終わりと言おうか」


 私は何も言わずに立ち上がる。腰に装備した剣を抜り取ると、後ろをゆっくりと振り返る。紫色に光るラインが入った黒い装甲服を纏う男がそこにいた。――連合政府の総統ティワードだ。


「パトフォー閣下より、お前の殺害を命じられている。死んで貰うぞ、パトラー=オイジュス」

「…………」


 私は、何も発さず、ティワードに飛びかかった――











































 そこから、私がどう戦ったのかは、もう覚えていない。


 何度も握り締めた剣を振り回し、魔法を操り、持てる全ての力を、ティワードに浴びせたことだけが記憶に残っている。


 そこにあったのは、今までとは違う感情。


 誰かのための戦いじゃない。


 目の前の敵(ティワード)の命を奪いたい――


 それだけが戦いの動機だった。


 そして、気が付いたときには――



「…………」


 ティワードは、首と胴が離れ、四肢を失った状態で転がっていた。汚らわしい血が、灰色の床と私の服を真っ赤に染めていた――

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