第30話 ルイン海上の戦い
夢の終わり――
いつか、夢は終わる。
叶って終わるか、叶わずに終わるか。
それだけの違い。
叶わなかった夢は、
塵と消えてなくなる――
激しく雪が降りしきるコスーム大陸北東――ルイン海上の空。国際政府軍の飛空艦隊はルイン島を目指して進む。連合政府のグランド・リーダーを捕えるために、そして、私のお父さんを助け出すために……
プルディシア1隻、大型飛空艇10隻、中型飛空艇80隻。兵力120万人。それは国際政府のほぼ全軍だった。政府全軍で連合政府と戦おうとしている。
「もう、政府全軍といっても、120万人なのか……」
大型飛空艇の最高司令室で、私はポツリと言う。残りは首都グリードシティを守る50万人のクローン兵だけ。合計しても、170万人だ。
かつて世界の大部分を統治した国際政府にその面影はほとんどない。今、新しく取って変わったのは、クリスター政府だ。
「クォット将軍、――」
「どうした?」
クォット将軍に駆け寄る男性将官――ウェイダ少将だ。彼はかなり焦った様子でクォット将軍に何かを伝えようとする。
「先ほど入った情報ですが、ステイラル州とコールド州長官は州議会で国際政府から分離、クリスター政府に編入を表明しました」
「なにっ!? ステイラル州とコールド州が!?」
「は、はい。すでにクリスター政府の臨時議会で両州の編入が承認されたそうです」
私は最高司令室の窓から外を眺める。これで国際政府の支配領域は、ますます小さくなった。もう、世界20州の内、グリード州しかない。しかも、そのグリード州ですら3分の1程度しか支配領域がない。
「クォット将軍っ、連合軍の艦隊です!」
「現れたか」
白い霧のような雲に包まれた一帯。霧の向こうから連合軍の艦隊が次々と現れる。軍艦の艦隊だ! 先頭の大型飛空艇や中型飛空艇は砲撃を始める。あっという間に、両軍入り乱れての戦いに発展していく。私とクォット将軍が乗る飛空艇にも砲弾が何度か当たる。
しばらくすると、軍艦とは比べものにならないほどの超大型飛空艇が霧の向こうから現れる。――ティワードの乗る総督艦だ。あの中に、お父さんも……! 私は高ぶる気持ちを抑える。
「あれが総督艦か……」
いつの間にか、クォット将軍が横にいた。国際政府には、中将以上の軍人は私を含めて3人しかいない。彼はその内の1人だった。
彼には世話になった。私が泣きながらクォット将軍の元に転がり込んだとき、彼は私を慰め、パニック状態になっていた気持ちを静めてくれた。
「それにしても、パトフォーもずいぶんと思い切ったことを…… だが、彼の計画性は我々を遥かに超えるものだ。なにを考えていることやら……」
「お父さん……」
あの巨大な飛空艇の中にお父さんがいる。ひどいことされてないだろうか、まだ殺されてないだろうか……? 何度も揺れる大型飛空艇で、私はお父さんのことだけが気になっていた。
国際政府軍の飛空艇と連合軍の飛空艇で、激しい応戦が繰り返される。1隻、また1隻と破壊され、遥か下の海へと落ちていく。
徐々に私たちは総督艦へと近づいていく。だが、総督艦は連合軍の旗艦であり、連合政府総統のティワードも乗っているだけに、護衛の軍艦も多い。
「……クォット将軍、私、先に総督艦に向かいます」
「…………!?」
私はクォット将軍が制止するのを気にも留めずに、最高司令室から出ていく。大型飛空艇内を走っていき、戦闘機格納庫に入る。デルタ型をした1人乗りの小型戦闘機に搭乗すると、そのまま外へ飛び出していく。
外では激しい戦いが繰り広げられていた。何度も、私のすぐ近くを砲弾が飛んでいく。私を狙って砲撃されたものまであった。
だが、そんなことで引き下がるワケにはいかない。素早い小型飛空艇を操り、私は軍艦の艦隊をすり抜けていく。
この戦闘機は小型でスピードが速い。軍艦は大型艦を相手にすることを想定しており、私のような小型機には対応が中々出来ない。それが幸いした。
「あと少し……!」
私は手汗を握りながら、小型飛空艇の操縦レバーを握りしめる。もう少しで総督艦だ。お父さんの元まであと少しだ。
だが、そのとき、1発の砲弾が、戦闘機の後部をかする。機体が一瞬大きく揺れ、その後も安定しなくなる。徐々に高度が下がり始める。振り返れば、機体の後部から火を噴いていた。
「行くんだっ!」
私はスピードを増させる。最高速度で総督艦に向かっていく。モタモタしていると、砲弾にやられるか、この機体が爆散してしまう。
やがて、空気を切り裂くようにして飛び続けた小型飛空艇は、総督艦中腹の飛空艇格納庫へと突っ込む。私は速度を緩めながら、小型戦闘機から飛び出す。操縦主を失った小型飛空艇は、何十体もの人間型ロボット兵器――バトル=アルファを轢き壊しながら、壁に激突。木端微塵に爆散する。
私は宙を舞いながら、剣を手に持ち、鋼の床に着地する。それとほぼ同時に、3体のバトル=アルファを斬り壊す。更にアサルトライフルを武器に、走り寄ってくるバトル=アルファたちも次々と壊していく。
「邪魔をするんじゃないっ!」
私は残ったバトル=アルファを全て斬り壊すと、灰色の扉を開け、格納庫から廊下へと飛び出す。一刻も早くお父さんを助けたい。その想いが、今の私を突き動かしていた。




