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黒い夢と白い夢Ⅶ ――夢の終わり――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第6章 黒色の首都 ――政府首都グリードシティ――
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第27話 政府首都グリードシティ

 かつて世界を統治した国際政府。


 今、その名残はもはや、ほとんど残されていない。


 唯一あるのは、1800年、首都であり続けたグリードシティの姿のみ。


 だが、首都も今や、その名に相応しい状態ではない――




















































 【国際政府首都グリードシティ】


 私は夕日の差し込む首都の街を歩いていた。1週間前に帝国守護艦隊建設場から首都に戻ったが、すぐには政府中枢に近寄らなかった。行けば、即座に問答無用で殺されかねない。


「…………」


 政府首都グリードシティは1800年もの間、国際政府の首都であり続けた大都市だ。高さ何千メートルにも及ぶ巨大な建物群が並ぶこの都市は、私の故郷でもあった。私のお父さんとお母さんもここが故郷だ。

 かつて、3億人もの市民がこの都市で暮らしていた。こんなに規模の大きい都市は他に例がない。ただ、今では――

 私は人目を気にしながら歩いていく。だが、狭い路地に差し掛かったときだった。急に誰かに無理やり抱きかかえられる。口に布を押し当てられる。何か、薬品のニオイが鼻を衝く。意識が急速に揺らいでいく。


「だ……だ、れっ?」


 そのまま、大通りから路地へと引き込まれていく。国際政府の役人だろうか? それとも、パトフォーが雇った暗殺者か……!?





「…………ッ!?」


 私はゆっくりと目を開ける。灰色の天井が視界に入る。明かりはあるが、切れかかっているのか、ずいぶん薄暗い上に照明の強弱が小刻みに変わる。どこだ、ここ……?


「起きたようだね」

「…………!」


 私は素早く身体を起こす。ソファに寝転がされていたみたいだ。身体を起こした私の視界に、カウンターで作業を続ける女性の姿が目に入る。……ここは小さなバーらしい。ただ、客はいない。


「お前は……?」

「あたしはデボン。ここの店主だ」


 デボンと名乗る、赤色の髪をした女は、グラスに何かを注ぐ。ワインだろうか? 彼女はそれを持って、私のところに歩いてくる。


「なぜ私をここに?」

「ちょっと興味があってね。なに、身代金とか殺そうってんじゃないよ」


 デボンは机に黄土色をした何かが注がれたグラスを置く。……酒のニオイがする。


「あんた、パトラー=オイジュスだろ?」

「ああ、そうだが?」


 街を歩いているとき、帝国守護艦隊建設場で手に入れたローブを被って歩いていた。顔を見られないようにするためだ。恐らく彼女は私の正体を見抜いたのだろう。


「新聞で見たよ。プルディシア2隻とクローン80万人をクリスター政府に送ったんだってね」

「……それで、何かあるのか?」

「いや、別に。ただ、それで国際政府が分裂しそうだからさ」

「分裂?」


 私がそう聞き返すと、デボンは新聞を持ってくる。それを机に広げる。ヴァース新聞。……あまり聞かない新聞社名だな。地方紙だろうか?

 その新聞には、『国際政府主導 クローン奴隷利用』と大きく見出しが掲載され、帝国守護艦隊建設場の実態が詳細につづられていた。さらに、それに対する抗議が各地で頻発しているとも。


「グリードタイムスのような全国紙はダメだね。何も書いちゃいない。ありゃマグフェルトの広告塔だ」

「……ステイラル州の議会とコールド州の議会が相次いで政府分離案を可決……!?」


 新聞には、そこまで書かれていた。国際政府から分離し、クリスター政府に編入する気のようだ。すでに、クリスター政府も編入の承認を議会で審議しているらしい。


「それが国際政府の分裂。2州が完全に政府から分離すればどうなるか……」


 デボンはお酒を飲みながら言う。

 国際政府の支配領域はグリード州東部、ステイラル州北部、コールド州全域。その内、ステイラル州とコールド州が抜け出れば、その支配領域は今の4分の1程度になる。


「もう、国際政府も終わりなのさ。クリスター政府は明日にも承認するつもりだ」


 世界の流れは、完全にクリスター政府だ。国際政府や連合政府から人々の心は完全に離れ、クリスター政府になびいている。


「この首都を見ても分かるだろ? 国際政府は、もはやただの残骸なんだ」

「…………」


 ずっと気になっていたことだ。私が首都に戻って、すぐに感じた。まず、人が少なすぎる。クリスター政府にいる頃から、首都からの人口流出が激しいとは聞いてはいたケド、まさかこれほどなんて……


「かつて3億人いた市民も、そのほとんどが首都を捨てて行った。今じゃ人口は5000万人以下にまでなった。それに、その5000万人も、大部分が後から入ってきた連中だ」

「……世界各地から集まったマグフェルト派の人間と盗賊や賞金稼ぎ、だよね?」

「そうさ。おかげで無法者ばかりだ」


 今、政府首都グリードシティには、全世界からマグフェルトを支持する人間と盗賊や賞金稼ぎが集まっているらしい。だから、私は顔を隠して歩いていた。

 世界の中心だったグリードシティ。今は暗黒の都市に変貌してしまった。――私の故郷は壊れてしまっていた。無意識の内に、拳に力がいく。


「でも、あんたはなんでここにいるんだ? パトフォーを刺しに来たのか?」

「…………」


 私は無言で頷く。そう、彼を殺し、国際政府を再生させる。この街も助け出す。ただ、政府の腐敗は私の予想以上だ。パトフォーを上手く殺しても、その後が大変そうだった。

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