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黒い夢と白い夢Ⅶ ――夢の終わり――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第5章 奴隷のクローンたち ――帝国守護艦隊建設場――
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第25話 大会議室での戦い

 【帝国守護艦隊建設場 管理要塞内 大会議室】


 私はフェイシアと距離を取りながら、ゆっくりとレイラ副拷問長に近づく。つい、感情的になって襲い掛かってしまった。ちょっとマズイかも知れない。

 そのとき、再び大会議室の扉が勢いよく開かれる。1人の兵士が転がり込むようにして入ってくる。息を荒げ、ずいぶん疲れている。


「ラ、ランディ看守長っ、クローンが…は、反乱をっ!」

「な、なにっ!?」


 ランディが顔色を変えながら勢いよく立ち上る。その勢いで、イスが音を立てて倒れる。それと同時に、外から銃撃音や大勢のクローンたちの声が耳に入る。やったっ……!

 私は素早く後ろを振り返り、手に持っていた剣でレイラの首を斬り付ける。彼女を斬り倒しながら、私は机の上に飛び乗り、そこを走って行くと、逃げようとするキース副警備長を刺し殺す。


「あの野郎っ、やっぱり裏切りやがったか!」


 ブラッディ副看守長がハンドガンを引き抜く。彼は元は盗賊の長。大した相手じゃない。私は彼の持つハンドガンから放たれる銃弾を飛び避けながら、迫っていく。彼の胸を一刺しにする。

 ブラッディを殺した私は、後ろを向く。残りはフェイシアとディズトロイ警備長、ランディだ。前の2人は名の知れ渡った賞金稼ぎ。盗賊のブラッディや国際政府准将のキースとはレベルが違う。


「ったく、俺の報酬はどうしてくれるんだ」

「あの女を殺してマグフェルト総統閣下に付き出せば幾らか貰えるだろ。仕事しろ」

「アタシの部下を殺っちゃうなんてねぇ…… ちょっと寂しくなるじゃないか」


 ……レイラ副拷問長のことか。っていうことは、あの女も賞金稼ぎか? まぁ、そんなことはどうでもいいケド……

 ランディ看守長、ディズトロイ警備長、フェイシア拷問長の3長が並ぶ。ランディは国際政府軍の中将。こちらも注意しないと……


「じゃ、俺から行くぜ」


 ディズトロイが先陣切って飛び出してくる。背中に装備した小型ジェット機を使い、私の方に向かって飛んでくる。その両手に高価そうなハンドガンが握られていた。

 私は魔法発生装置で物理シールドを張る。ディズトロイが空中を舞いながら、私に向かって激しく銃撃してくる。その弾は、正確に私の急所を狙っていた。私はその場から床を蹴って素早く移動する。


「裏切り者への制裁が必要だな。“バカラー”将軍」


 ランディが剣を抜き取り、私に向かって飛んでくる。私は彼の剣を剣で押し留める。金属音と火花が上がる。衝撃が私の腕にまで伝わる。


「あんた達を纏めて殺せば、報酬はアタシ1人のもんだね」


 フェイシアがやたら長いトゲ付きの黒い鞭を振り上げ、勢いよく振り降ろす。私とランディは素早くそこから離れる。鞭は何度も私たちのいた場所を叩く。机や床が砕ける。

 私が走っていると、再び頭を狙った銃撃がされる。銃弾が私の頭のすぐ近くを飛んでいく。窓ガラスが割れる。ディズトロイ……!


「クリスター政府に加わらなかった愚か者。いや、追い出されたのかな?」


 私の向かい側からフェイシアが鞭を構え、今度は横から私の身体を打とうと飛ばしてくる。私は剣で鞭を防ぐ。だが、それがアダになった。剣に鞭が絡みつき、そのまま奪われてしまう。フェイシアは奪った剣を、鞭で窓の外に投げてしまう。


「武器が1つなくなったな」

「…………」


 このまま走り続ければ、前にフェイシア。後ろからディズトロイ。更に右からはランディが走って来ている。持っている武器はハンドグローブに内蔵された魔法発生装置だけ。

 ……“勝てる”。


「例え、そこの2人を殺しても、アタシは水のパーフェクター。物理攻撃は一切効かない」

「パトラーを殺せば、俺の名は上がる」

「お前を殺し、マグフェルト閣下への手土産としようか……」


 この3人は、私がどこで、どんな戦いをして来たか知らない。私はこのラグナロク大戦で、あらゆる場所で、あらゆる戦いを経験してきた。かつて戦った猛者に比べれば、どうってことない。

 フェイシアがさっきと同じように鞭を振るう。今度は私の右脚に絡みつく。鋭い痛みが走る。トゲが脚に食い込んだのだろう。

 私はその場に倒れ込む。ディズトロイとランディが手柄を自らの物にしようと、私に勢いよく迫ってくる。


「……死ぬ覚悟は出来たか?」

「なにをっ!」

「それは自分に言って――」


 ディズトロイのセリフが終わらない内に、私は立ちあがる。右腕に黒い雲状のエネルギー――ラグナロク魔法が集まっていく。2人は構わずに、私に向かって来る。


「……経験の差だな」


 私はニヤリと笑い、ラグナロク魔法を纏った腕で、『空間』を殴りつけた。


「は?」


 ディズトロイが動きを止める。私の殴った空間が歪んでいく。彼らはそれを呆然と眺めていた。だが、次の瞬間には凄まじい爆音と共に、強力な爆発的な衝撃波が起こり、2人の身体はもちろん、その後ろにあった机や窓、石造りの壁すらも砕いていく。

 この大陸で名を轟かせたディズトロイでさえも、この攻撃は知らなかった。それが彼の命取りとなった。ランディは、もはや論外だ。

 建物全体を駆け巡る轟音と振動。闇の魔法は、耳が痛くなるほどの爆音と共に、全てを破壊していく。攻撃の反動で、衝撃波は私の身体にも襲い掛かり、痛みが骨の髄にまで走る。


「はぁっ、はぁっ……!」


 私はその場に座り込む。明かりは完全に落ち、暗くなった大会議室。目の前に広がる大きな穴。元々は机や窓、壁があった。今はそこに何もない。壁どころか、床や天井まで吹き飛ばされていた。――部屋の半分がなくなっていた。巨大な穴からは、冷たい風と共に雪が入って来るだけ。


「なッ……!? い、いやっ、アタシに物理攻撃など効かない!」


 フェイシアは呆然とそれを眺めていたが、鞭を引っ張り、私を無理やり引き寄せようとする。私の身体は宙を舞いながら、彼女に引き寄せられる。私はさっきほどではないが、再び右腕にラグナロク魔法を纏う。


「またさっきの技か? 私に――」


 私はフェイシアの頬を殴りつける。彼女の身体はすっ飛び、大会議室の大扉に叩き付けられる。私は右脚の鞭を、ラグナロク魔法を纏った手で振りほどく。私が触れた部分にあったトゲが潰れていた。


「な、なぜっ……!? 私は――」

「水のパーフェクター。一見すれば無敵のようにも思えるケド、――」

「…………!」


 私は困惑したフェイシアの側に立つ。座り込んだ彼女ははっと私を見上げる。


「本当に無敵の意味で無敵じゃない。ラグナロク魔法は“全て”を破壊する。――例え、身体が水であっても、この魔法の前じゃ無意味」


 私は口端を歪め、ニヤリと笑う。フェイシアの顔に焦りが浮かぶ。身体が僅かに震えている。私はそんな彼女の姿を冷ややかに見下ろしていた。

 もう、勝者と敗者は決まったも同然。結局、ディズトロイもフェイシアも小悪党でしかない。賞金の付いた無法者を相手に戦ってきただけ。


「よ、よせっ――!」


 私はフェイシアの胸倉を掴む。彼女の顔に、明らかな恐怖があった。かつては逆だった。私が彼女を恐れていた。もう、4年も前か……

 拷問好きの女賞金稼ぎを、私は宙に放り投げると、ラグナロク魔法を纏った手で拳を握る。フェイシアが落ちてくる。


「もう2度と会うことも、お前が誰かを拷問することもない。さようなら、だな」

「…………!」


 私はニヤリと笑い、落ちてくるフェイシアの脇腹を勢いよく殴る。さっきと同じように、歪みが起こり、続いて強烈な爆発が発っせられる。彼女の身体は、会議室の大扉を砕き壊し、廊下に飛び出すと、廊下の壁に叩き付けられる。血が床に飛び散る。


「…………」


 フェイシアは壁から床に倒れる。私はゆっくりと廊下へ歩いていく。もうここに用はない。私は施設の外を目指して歩く。……後ろで転がっている女賞金稼ぎが動き出すことは、もう二度となかった――

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