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黒い夢と白い夢Ⅶ ――夢の終わり――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 ティトシティの戦い ――連合政府首都ティトシティ――
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第14話 首都陥落

 【連合政府首都ティトシティ 中枢区画(ヴォルド宮付近)】


 私は建物の角から、ヴォルド宮を囲う壁を見ていた。あの壁の向こう側にヴォルド宮が見える。あの中にコマンダー・ライカというクローン将軍がいるらしい。

 私はクラスタ、コマンダー・ヴィクター、コマンダー・シリカ、コマンダー・ログの4人と共に(ログだけ、なぜか頭部を隠すように、強化プラスチック製のアーマーを被っている)、地下の下水道を通って首都ティトシティ内に入り込んだ。ライカを捕まえるためだ。


「では、シリカさん……」

「了解」


 コマンダー・シリカは手で向こうの建物の影に合図する。すると、数人のクローン兵が出てくる。1人はロケットランチャーを持っている。狙いはヴォルド宮を守る浮遊戦車だ。

 ロケット弾が放たれる。それは正確に浮遊戦車を破壊する。爆音に気が付いた連合政府のクローン兵やバトル=アルファたちが、慌てて武器を手にし、元レジスタンスのクローン兵たちに向かって行く。

 だが、その途端、辺りから次々と臨時政府のクローン兵たちが現れ、一気に激しい戦闘へに向かっていく。


「よし、行こう」


 私とクラスタ、ヴィクター、ログの4人はヴォルド宮の前門へと向かう。すでにヴォルド宮を守る部隊は混乱を起こしている。


「コ、コマンダー・ビスケット少将、パトラーです!」

「き、来たか。よし、捕まえ、ようかっ」

「ひぃぃ、もうダメだよっ! 勝てないよぉ!」

「あっ、コマンダー・キャンディ准将!」


 キャンディ准将は真っ先に逃げ出す。それに釣られて他のクローン兵たちも次々と逃げ出していく。残ったのはビスケット少将だけだ。


「あ、あたしだけで、も……」


 ビスケット少将は震える手でショットガンを手にする。私は剣を抜き、ビスケット少将に向かっていこうとする。


「ひぃっ! ご、ごめんなさいっ!」


 ビスケット少将はショットガンを投げ捨て逃げ出す。もう、彼女たちも分かっているのだろう。ライカでは到底、首都を守りきれないこと。そして、連合政府が敗北するということを。

 かつて、国際政府滅亡は時間の問題とまで言わせた連合政府。世界の大部分を支配し、その勢いは上る日のようだった。なのに、今はもう、その面影はない。連合政府滅亡は時間の問題とまで言われている。


「どいていろ、パトラー」


 ログが前に進み出る。その右腕には、黒い雲状のエネルギーが纏われていた。最上位の破壊力を持つラグナロク魔法だ。

 彼女は硬く閉じられたヴォルド宮前門に向かって飛ぶ。黒い右腕が前門を殴りつける。その途端、身体が吹き飛ばされるような衝撃波が起こる。大きな前門は、崩れ落ちる。


「さすがだな」


 シリカが戻ってくる。私たちは再び5人となってヴォルド宮へと歩き出す。すでに後ろでは戦いはほとんど終わっていた。

 ヴォルド前門をくぐると、広い中庭に出た。白い歩道の左右に緑色の芝生が広がっている。その中庭に、100人近くのクローン兵がいる。だが、戦意は完全に消失していた。


「コマンダー・トローチ准将…… 私たち、アレと戦うんですか……?」

「……ライカ将軍の命令だと、私たちは予備部隊みたいなものだ。前門の部隊がパトラーを捕まえる、ハズだ」

「で、でも……」


 私たちはクローン兵が並ぶ中を歩いていく。もう、誰も手を出してこなかった。指揮官のコマンダー・トローチ准将も、呆然と私たちの姿を見ているだけだった。

 前門部隊のあっという間の敗北。吹き飛んだ前門。この予備部隊100人でどうにかなる相手じゃないことを悟ったんだろう。それに、もう首都は守りきれないことも、分かっているんだろう。


 中庭を通り、私たちはヴォルド宮の正門へとたどり着く。この建物こそが、連合政府の中心。連合政府成立以来、君臨し続けた建物…… 私は扉を開ける。広く、奥行きのある薄暗い部屋が視界に入る。


「……ヴォルド宮の最高司令室だ」


 ログが言う。部屋の奥には大型のコンピューターとシールド・スクリーンがある。映し出されているのは、連合軍と臨時政府軍の戦いだ。すでに勝敗は付いていた。――戦いは終わりを迎えつつあった。

 その奥の椅子に座るのは黒いレザースーツに白いマントを羽織るクローン軍人。……ライカじゃない。コマンダー・クッキー少将だ。


「コマンダー・ライカはどこにいる?」

「……ライカ将軍はすでに逃げ出しました。私も誘われましたが、付いて行きませんでした。――もう大戦の勝敗は決したようなもの。それに、ライカ将軍を将軍に起用するような連合政府に戻る気はありません」

「そうか……」


 もう、連合政府本部のクローン少将でさえも連合政府を見限ったか……

 私はコマンダー・クッキーに、連合政府首都を守る軍部隊に戦闘を中止させるように言い、最高司令室から出る。ヴォルド宮の廊下を走る。廊下にいるクローン兵たちも手を出してこなかった。

 廊下からヴォルド宮の屋上へと出る。1機の小型戦闘機があった。それに乗り込む黒い服を着た1人のクローン軍人――コマンダー・ライカだ!


「待てっ!」


 だが、デルタ型の小型戦闘機は、私に気が付くことなく、青い空へと消えていった。あと少し早ければ……!


「気にするな、パトラー」

「ログさん……!」

「コマンダー・ライカは所詮は小物。コマンダー・クッキーの方がいくらかマトモだろう」


 それだけ言うと、コマンダー・ログは私に背を向けて戻っていく。……その後ろ姿が、なぜか懐かしかった――

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