第11話 臨時政府への合流
日が沈む頃、レート=クライシスの連合軍は敗北した。プロヴィテンス将軍やフリゲート中将、アクセラ中将はレジスタンスのメンバーによって殺されたらしい。
「パトラーさん、レジスタンスのリーダーがお見えです」
戦いの後、私たちは臨時政府軍の陣営へと戻っていた。コマンダー・ヴィクターが私の部屋へと入ってくる。その後ろから、白色の服に青色のマントを羽織ったクローンも入ってくる。彼女がレジスタンスのリーダー――コマンダー・シリカだ。
「初めまして、パトラー=オイジュス総帥。私が反連合政府のリーダー、シリカです」
右目に黒い眼帯を付けたレジスタンスのリーダーはそう自己紹介し、用意されたイスに座る。彼女たちレジスタンスは、連合政府から逃げ出したクローン兵や連合政府の支配を拒む市民らから構成された組織だ。連合政府の勢力が衰えると同時に台頭し、レート=クライシスの東にあるティト州を中心に活動してきたらしい。
シリカは元は連合政府のクローン軍人だった。連合政府に対し、反乱を企てたが失敗。デスペリア支部と呼ばれる監獄に投獄された。右目は投獄中に失ったらしい。その後、脱獄し、今の活動をしてきた。
「私が臨時政府暫定総帥のパトラー=オイジュスです。皆さんの協力のおかげで戦いは思ったよりも早く終わりました。ありがとうございました」
私はそう言い、頭を下げる。……本当はちょっと怖かった。というのも、私たちがレート=クライシスにおける連合軍の拠点に乗り込んだとき、プロヴィテンスらは殺されていた。問題はその殺し方だった。首と四肢が胴から切断され、その胴も八つ裂きにされていた。血の海。そんな言葉が頭に浮かんだ。
シリカがやったワケじゃない。レジスタンスのログというクローン女性がやったらしい。レジスタンスのメンバーには、ログのやり方に疑問を持つ人たちもいるらしい。
それを差し引いても、レジスタンスは市民から高い支持を受けていた。その勢力は連合政府も無視できないものとなっているらしい。
「――私たちは連合政府の支配から脱却するために戦ってきました。もし、よろしければ私たちを臨時政府のメンバーに加えて頂けないでしょうか?」
話がある程度進んだとき、シリカはそう話し始めた。
「私たちの仲間に……!?」
「ええ、あなた方なら信頼出来ます。それに、私の仲間や市民たちも臨時政府による統治を望む声が大きいので……」
断る理由はない。私はシリカに承諾の返事をする。……とは言っても、臨時政府は所詮、臨時の政府だ。いつかは国際政府に合流する。真の自由と平和を取り戻すには、国際政府の立て直しも必要だ。――マグフェルト=パトフォーを倒さなきゃいけない。
「パトラーさん……」
「……フィフス総督!」
シリカと話していると、フィフス総督とヴェストン副総督、レイズ長官が私の部屋に入ってくる。
「急にどうしたんですか……?」
「先ほどのお話、わたしも聞かせて頂きました。戦いの前にも少し話しましたが、願わくば、わたしら3人と傘下の軍部隊も臨時政府の仲間に加えてくださいませんかな……?」
「…………」
私にそんな権限はない。あるとすれば、国際政府のマグフェルト総統ぐらいだろう。でも、臨時政府と国際政府は全く別の組織じゃない。それに、これから連合政府と戦っていく上でも、一緒の方がいいかも知れない。
「分かりました、フィフス総督。これからも一緒に戦っていきましょう。よろしくお願い致します」
そう言い、私はフィフス総督らに深く頭を下げる。3人とその兵団が臨時政府に加われば、連合政府との戦いで強い味方になる。
「パトラー総帥、フィフス閣下。まずは連合政府首都を目指しましょう」
再びシリカが話し始める。
「ティト州の大部分は私たちの活動範囲圏です。プロヴィテンス将軍やフリゲート中将、アクセラ中将がいなくなり、アレイシア将軍やティワード総督ももう間もなくルイン島へ撤退する今、首都を目指すにはまたとないチャンスです。首都に着くまでは、ティト州内ではほとんど戦いになることはないでしょう」
シリカは長らくティト州で戦ってきた。恐らく彼女の言うことに間違いはないだろう。次の戦いは連合政府首都ティトシティだ。フィフス総督やヴェストン副総督も、彼女の言うことに同意のようだった。
「では、連合政府首都に向かいましょう。――ラグナロク大戦を終らせるために!」
「了解です!」
「行きましょう、パトラーさん。わたしらも微力を尽くさせて頂きます」
*
シリカやフィフス総督と別れた私は、風に当たろうと建物の屋上へと上がる。小さな星々が無数に光る夜の空。冷たい風が吹いていた。
「…………!」
奥に誰かいる。白い服を着たクローン女性だ。赤茶色の長い髪の毛が風になびいている。――コマンダー・ログだ。彼女はフェンスに手を置き、空を眺めていた。
「ログさん、ですか?」
「…………。……り、臨時政府のパトラー=オイジュスか?」
ログは私に背を向けたまま話す。その声はなぜか少し震えていた。
「ええ、そうです。あのっ、今日は一緒に戦ってくれてありがとうございました!」
「……気にしなくていい」
そう言うと、ログは私の顔を見ないまま、そこから飛び降りる。私は驚き、慌ててフェンスから身を乗り出して下を見る。彼女は上手く着地し、そのまま淡々とクライシスの市街地に消えていった――




