七つの異観と大人たちの悩み
怪我の功名というべきか怒らせたことによって会話が生まれ、先ほどまでの気まずい雰囲気は何処にもなかった。
もともと友という存在が二人には居らず、どう会話を始めれば良いのか、どう繋げれば良いのか分からなかっただけで、二人は話し出すと意外と饒舌だった。
二人は気が合ったのか自分の事も話しながら相手のことも聞き、傍から見ても友のように見える。
次第に会話は先日のことに移り始める。
「この前はあ、ありがとう」
「う、うん」
本来、この家にシーナが来た目的はユアンに感謝の気持ちを伝えるためであった。
尻すぼみになったが言いたいことが言えた彼女は満足げな表情をしている。
だがユアンにしてみれば助けたのはマオであって自分は情けなく気絶しただけである。
感謝はマオが受け取るべき物であるが、深夜の対話でマオのことは出来るだけ伏せるようにと決めていたためユアンは感謝の言葉に曖昧な返事をすることで精一杯だった。
『話を逸らせ』
「ね、ねぇシーナちゃん。『七つの異観』って知ってる?」
結局ユアンはマオの言うとおりに話を逸らす事でこの場を乗り切ることにした。
『七つの異観』
それはこの大陸に存在する種族。
つまり魔人、森人、小人・巨人、海人、天人、竜人、そして平人。
全七種族が個々の国に持つ美しい景色の総称である。
何処にあるのか、どの時間帯に見れるのか、誰が見て語り継がれているのか、全く分からずこれらすべてを見たものは誰一人いない。
故に冒険者の間では憧れであり、伝説であった。
そして、この『七つの異観』こそがマオの目的であり、ユアンの身体を借りてまで望む物である。
「七つの異観?」
当然冒険者でもないシーナはこのことを知らず小首を傾げるばかりである。
そんな彼女の様子にユアンの目はキラリと光る。
「七つの異観って言うのはね!」
ユアンはマオから『七つの異観』の話を聞いてからというもの、それにどっぷりと嵌ってしまっていた。
その情熱は書庫でそれに関する本を見つけるや否やすぐさまそれを開き、マオに読み聞かせを要求するほどであり、最近では読めもしない字を眺めてニヤニヤしている。
結局その日は七つの異観に対してのユアン情熱が夕方、シーナが帰るまで続いたのだった。
◇
一方、その頃客間ではアレンやガット、セラがシーナの目についての会話をしていた。
「・・・行ったか」
「ええ、部屋に戻ったんじゃないかしら」
「ようやくこの話が出来る」
ガットが呟き、それにセラが反応する。
実際、彼らはシーナの目の話をするために集まったような物だ。
ユアンに対する感謝も嘘ではないがそれよりも気になることがあったために、そのことについてはおざなりとなってしまった。
「で?シーナの目に何が起こったんだ?一介の村人にはわかりゃしねぇ」
ガットは頭をガシガシと掻きながら疑問をぶつける。
自分の娘のことだ、不安になるのも仕方のないことだろう。
「セラ、言ってやれ。俺も魔法は使えるが戦闘に特化しすぎて分析は得意じゃないんだ」
「・・・ええ」
一呼吸置き、セラは自分の考察を伝えることにした。
「まず初めにごめんなさい」
「ん?」
「私にはあれは解けないわ」
セラ以外の二人は驚愕する。
何せセラはこの村、いや王都でも随一といわれるほどの魔法の名手である。
回復に特化しているものの、魔法についての知識も豊富で書庫の本のほとんどが彼女の物である。
故に解くことも可能なはずであった。
「掛けられた魔法に魔力が込められすぎているわ。魔方陣も複雑に何重にも掛けられていてとてもじゃないけど無理だわ」
「セラさんに無理だとすればどうすれば・・・」
愛娘に掛けられた魔法はどんなものかも分かりはしない。
副作用で目が蒼になっているだけで他に何か目的があるのではと疑ってしまう。
「シーナちゃんを観察して経過を見るしかないわ。もしかしたら本当に目が青くなるだけの魔法かもしれないから、ね?」
「ガット、セラの言うとおり待ってろ。もし何かあれば俺達の昔の伝手を使って助けてみせる」
「助かる」
魔王がかけた魔法の効果は周囲の魔力を魔方陣に取り込み目が青い状態を維持する魔法であり、かけられた本人が限界を超える魔力を行使しようとしたとき、魔法が解け維持に消費されるはずだった魔力がその人に還元されるという物であった。
総じてこの魔法の意味は目を蒼くするのみである。
このことを知らない大人たちはシーナの目の事に対して頭を悩ますばかりであった。
しばらく更新していなかったお詫びとして短期間での更新
やっぱりきつい
眠たいので修正はまた今度・・・
はよ、冒険はよ
書きたい