真実は嘘の中に
◇と◆の違いは私の感覚の違いです
◇・・・場面転換
◆・・・暗転
試合後、ユアンが倒れたと同時にルークやクインも力尽き、その場に倒れた。
どちらも傷だらけで、立っているのもやっとだったのだろう。
本来、この後に表彰式なるものがあったはずなのだが、優秀者として勝ち上がった者全員が気絶しているという何とも締まらない結果となってしまった。
二人はそのまま、医務室に運ばれ治療される。
外傷も酷く、精神的な疲労も少なからず彼らの身体に負担を強いていた事が分かった。
兄妹で争うというのは二人にしか分からない重圧などがあったのだろう。
一回戦で負けてしまった候補者達のみ壇上で表彰を受け、ユアンやルークなどは後で個別で渡す運びとなり、これにて優秀者選抜戦は閉幕。
この後は解散し、終了のはずであった。
しかし、最後にもう一度、優秀者の名前を読み上げる時に生徒間で疑問符を浮かべる出来事があった。
「では私からもう一度、優秀者の名前を―」
マーサが壇上で発した名前が原因だった。
「一年ユアン、同学年ルーク、そして―」
ここまでは大きな拍手が会場を覆っていた。
あと一人の名前も確信して。
しかし―
「―三年ガーナード、以上です」
彼女の言葉に拍手の音が一気に消えた。
シンと静まり返る訓練場。
生徒全員が聞き間違いかと思い、手を止めたのである。
各生徒は周りを見渡し、自分が間違っていない事を感じ取る。
当然だろう。
ガーナードは全生徒共通認識で『負けた』のだから。
見ていて見事な戦いを魅せたのもクインであるし、試合が決するまで立っていたのもクインだ。
ガーナードが気絶している以上、クインと最後の枠を争うことは出来ない。
故に誰しもがクインの王都行きを信じていたのである。
「マーサ学園長、質問がございます。なぜクインさんではないのでしょう?」
一人の生徒が代表として手を挙げ、当然の質問を投げ掛ける。
この場に居る生徒の殆どがその言葉に対する解答を求めていたであろう。
マーサは理由を告げていなかった事を謝罪し、理由を述べた。
「今回は全教師の総合的な判断により、ガーナード君を優秀者として決する事と致しました」
「どういうことですか?」
ただ、その答えは生徒にとって曖昧且つ納得の出来るものではない。
総合的判断とは具体的にどのような判断なのか。
「判断基準を教えることは出来かねます。・・・ではこの後、授業は無いので解散と致します。お疲れ様でした。明日以降の予定は追って連絡いたしますので」
問いたい生徒をよそにマーサ以下教師は強引に解散を告げる。
実の所、マーサとしてはこれ以上突かれたくない部分なのだ。
客観的に見てもクインが選ばれるのは当然であるし、マーサもそう思っている。
しかし、これは約束された結果だった。
彼女が学園に来た時から決まっている事。
真実を告げれば、クインに負けた生徒が不満を持つ事は絶対である。
最悪、やり直しを要求されても断れない状況となってしまう。
もう一つ要因を挙げるならばマーサの思惑も絡んでいる。
彼女にとって一人の生徒よりも多くの生徒の未来を取ったという事実も含まれている。
勿論、そこには犠牲になった生徒も含まれているのだが、犠牲にしたことには変わりない。
故に彼女は真実を伏せたまま、生徒に帰宅を促すしか出来ないのだ。
結局、生徒は釈然としないまま寮へと戻っていくのであった。
夕暮れ時の空は生徒の足元に影を落とし、生徒の不信感を表しているかの様に見えたのである。
◇
優秀者選抜戦から三日が経った頃、事の渦中に居る四名の内、初めに目を覚ましたのはガーナードであった。
回復魔法を使ったと言えど、小さな傷全てを回復させる事はできない為、彼は包帯ぐるぐる巻きにされ、保健室で寝かされていたのである。
彼が目を覚ました事を聞きつけたファドレドはガーナードの元へと駆けつけ、試合に対する労いと祝いの言葉を投げ掛けた。
「優秀者選抜戦、ご苦労だった。よかったな、王都に行けるぞ」
「はい・・・・・・はい?」
ガーナードは初め、祝いの言葉の意味が理解できなかった。
きょとんとした表情から目を大きく見開き、信じられないといった顔をしたのである。
彼にとって選抜戦は大敗であり、気絶していただけという印象が強い。
事実、彼が立っていたのは四半刻も無いだろう。
最後の望みとしてルークとクインの戦闘でどちらかが気絶してくれればありがたいと思っていた。
そうすればその人物ともう一度戦い、勝利し、王都に行ける可能性があったからだ。
当然選ばれる事は無く、今後の進退について悩んでいたところにファドレドからの朗報である。
それは彼にとって正しく晴天の霹靂。
彼女の事を忘れ、故郷に帰ることも考えていたのだ。
きっと忘れられないだろうが・・・。
しかし、何故選ばれたのかという疑問が残る。
それを問うた時のファドレドの表情は苦笑。
彼もついさっき学園長に呼び出され真実を聞いたばかりであった。
何かあるとはファドレドも聞いていたが、真相までは聞き及んでいなかったのだ。
「あぁ・・・それはな―」
事の発端から結末までファドレドは学園長から聞き及んだ事を全て伝える。
ガーナードは聞く権利があると判断した為だ。
「・・・なるほどです」
その事を聞いたガーナードもまたファドレドと同じ表情を浮かべた。
苦笑で留めたのは彼が大人だったからだろうか。
結局、彼もまた権力者の親馬鹿に振り回されただけなのだ。
「他の生徒には話さないように。学園長からのお達しだ」
相も変わらず、この学園は生徒に真実を隠す節がある。
貴族制度やさまざまなしがらみがあると考えれば仕方の無い事なのだが、そんな様をガーナードは好ましく思わない。
しかし、言及しても詮無き事。
ガーナードは聞かれれば答えるという返答をしておく。
ファドレドは微苦笑をし、話を進めた。
「で、今回はどうする?」
話は今回の選抜の話しへと戻る。
本来、断る者など居ないはずの優秀者。
だが、ガーナードは断った前科あるためか、ファドレドは彼の意思を確認すべく、問いかける。
もう届かないと夢にまで見た王都への切符が目の前にある。
最後の望みも断たれたかに思われたモノがそこに。
ただ、ガーナードはこう思うのだ。
(こんなおこぼれみたいな形で良いのか?)
自分で掴みたかった、そう思うのも無理は無いだろう。
だが―
「俺にはお前の考えている事など分からん。何を迷っていて、何を欲しているのか。自分の思いなど他人には分からんのだ。自分で答えを出せ」
ファドレドは教師としてではなく、人生の一先輩としてガーナードを導こうとする。
ファドレドが彼にここまで入れ込むのには理由があった。
ずっと彼の姿を見てきたからと言うのもあるが、ファドレド自身、ガーナードと同様に最愛の人を亡くしたのだ。
しかし、それを彼に伝えることは無い。
彼はガーナードと同様に最愛の人の最後に傍に居てやれなかったが、覚悟は出来ていたのだ。
境遇は似ていたとしてもガーナードのようにその死に何か執着するようなことは無いのだから。
ただ、ガーナードが彼が決めた先で何を掴み取るか見てみたい、そう思っていた。
「ただ、まだ子供の貴様らがよく起こす間違いだけ教えておいてやる。まぁよくある事だ、・・・目的と手段を取り違えるな、それだけだ」
ガーナードはファドレドの言葉に自分の目的を整理すべく熟考する。
目的と手段を取り違えたことは無いと自負しているが、ファドレドの言葉はガーナードがもう一度自分の思いを見直すいい機会だった。
(王都に行く事が目的?・・・違う)
王都になどお金さえあればいつでもいけたのだ。
冒険者もどきとなって金策をし、商人に報酬を渡し馬車に乗せてもらうかすれば行くことは叶ったはずである。
(では、選抜戦に勝つ事か?・・・これも違う)
勝って王都に行く必要は無く、負けたとしても『制度』を使って王都に行ければそれでいいのだ。
情けない結果となってしまったが行けることに変わりはない。
(自分の願いは何だ?)
自分の願いは彼女の軌跡を辿り、彼女と同じ景色を見る事だと。
何故彼女は王都に行く事を願ったのか。
王立学園を卒業後、彼女はどこに向かおうとしたのか。
彼女の死に際はどのようなものだったのか。
アイナに惚れこんでしまった男―ガーナードの答えなどもう決まっているのだ。
ガーナードは伏せていた顔を上げ、微笑む。
「答えは出たか?」
「ありがとうございます、先生。僕は―」
この日、ガーナードは漸く―漸く――
――止まっていた時間を一歩進めたのであった。
◇
ガーナードが決意を新たにしてから一日が経った頃、授業が始まる前だろう。
外で生徒の声が聞こえる中、ルークとクインはほぼ同時に意識を浮上させた。
彼らが目を覚ました時、傍らには彼らの担任であるビュールが控えていた。
「目を覚ましたみたいね、お疲れ様」
ニッコリと二人に微笑み、安心感を与える。
「ここは・・・?」
「医務室よ。あなた達は試合後すぐに気絶したの。見る限り小さな傷と打撲痕ぐらいだけど何かおかしなところはあるかしら?」
「・・・いえ、大丈夫です」
「俺も大丈夫だと思う」
上体を起こし、自分の身体の異変を探る二人。
彼らの返答や様子から体調が安定していると感じたビュールは気絶後の事を二人に話した。
その結果、憤慨したのはクイン―
「ふざけんな!!・・・あいたたた」
―では無く、ルークであった。
叫んだ事で傷が響いたのだろう。
しかし、そんな事も気にせずに更にまくし立てる。
「おかしいだろ!?何でクインじゃないんだよ!どう見てもあの胡散臭い先輩よりクインのほうが優秀者に相応しいだろ!?」
ルークにしてみればほぼ他人のガーナードよりクインと共に王都に行きたい。
更に言えば自分に付き合せる形となってコロギに来たのだ。
自分のせいでという意味合いも含まれている。
クインがここに残り、自分だけが王都に行く事など彼に許容できるはずも無かった。
「俺、抗議してくる」
「・・・」
「ちょ、ちょっと!!待ちなさい!!・・・ってもう行ってしまったわ」
そう言ってルークは身体の痛みも無視し、学園長室に向かうべく、医務室を飛び出す。
クインは顔を伏せ、肩を震わしながらその後ろを付いていく。
さながら泣いている様に見えることであろう。
「ふぅ・・・やれやれ、困ったものね」
目を覚ますなり騒がしくなった医務室が急に静かになる。
ビュールは彼らが居なくなった医務室で一人呟くのであった。
◆
学園にはこれから授業の生徒が多く集まっていた。
ルークはその中をずんずんと進む。
殆ど学園の生徒と接点の無かったルークも今や学園では知らないものがいないほどの有名人だ。
ユアンやガーナード、クインは元々友人も多く、それほど変化は見られなかったがルークは違う。
成績不振者という肩書きはあれど一般生徒には知られておらず、優秀者を狙う一部の生徒からしか注目されていなかった。
廊下を歩けば振り向かれ、好奇や関心などの視線を集めるほどになっていた。
本当であれば声を掛けたい生徒も多いのだろうが、ルークの態度がそれをさせなかった。
彼の表情は正しく鬼の形相と言った所であっただろう。
その後ろを伏せたまま付いていくクインの姿が更にそれを助長させていた。
「ルーク、おは・・・・・・よう?」
そんな様子に数少ないルークの友人も挨拶を止めてしまう。
ルークはそれに気を掛ける事無く一直線にある場所に突き進む。
「なんだ、あいつ?」
友人の声は早々と過ぎ去ったルークに聞こえる筈も無かった。
◆
―・・・・・バン!!・・・・・・・・・バン!!!!
勢い良く開けられた扉の音と机に手を叩き付けた音が響く静かな空間は学園長室。
普段、余り人が近寄らないこの場所が今日は何とも騒がしかった。
優秀者選抜戦後の処理に追われていたマーサの前には険しい表情をしたルークが居た。
「どういうことだ!!」
貴族であるルークは普段であれば目上の相手に対する敬意を持っている。
しかし、今はそれに気が回らないほど怒りに満ち溢れているのだろう。
言葉の端に礼儀というものが備わっていない言葉をマーサに向ける。
「どういうこと、とは?」
今のルークでは話にならないと即座に判断したマーサはチラリと後ろのクインに視線を向ける。
「・・・っ・・・っ・・・」
そこには肩を震わし、泣いている様に見えるクイン。
マーサはその様子に何か感づいたのであろう、ため息が漏れる。
「で?」
半ば話の筋が読めたマーサの対応は素っ気無い。
だが、その態度はルークの怒りに火を注ぐものだ。
「で?・・・じゃないだろ!!何でクインが優秀者に選ばれてないんだよ!!おかしいだろ?あの先輩はただ気絶していただけじゃねぇかよ!!最後まで立っていたのはクインだ!!寝ていて優秀者を取れるなら無理してユアンが出る必要も無かったし、俺だってそうしていた!!見てみろ、クインも泣いてるじゃねぇか!!大体、学園長は先輩を贔屓―」
「そこまでです」
これ以上、言葉を続けると洒落では済まない所まで言ってしまいそうなルークをマーサは無理やり止める。
貴族同士の批判は派閥争いまで発展してしまう可能性があるのだ。
例え子供であっても貴族ならば発言には気をつけるべきであるとマーサはルークの言葉を遮った。
それにより多少の冷静さを取り戻したのだろう。
「すみません」
素直にルークは謝罪する。
「構いません。生徒を導くのが教師の役目ですから。それに―」
まだ伏せているクインに向かって―
「―お遊びで怪我をしてはいけませんからね」
「・・・はい?」
「・・・っぷ・・・っぷぷ・・・」
ルークの疑問を他所に聞こえてきたのは笑い声。
それも彼の後ろからだ。
「・・・もうだめぇ、ぷくくっ・・・あはははっはっは。ひ~・・・・・・ダメだ、お腹痛い・・・『クインも泣いてるだろ!!』だって、・・・ふふふ」
「へ?」
「はぁ~・・・」
この学園長室に居る三人の反応は三者三様だ。
クインは笑い、マーサは呆れ、ルークは目が点になっている。
一番酷い顔をしているのはルークだ。
泣いていると思っていたクインがいきなり笑い出したのだ。
気が触れたのかと思っても仕方の無い事だろう。
怒りも吹っ飛び、妙な表情を晒している。
マーサはクインの笑い声に頭を抱え、これからの事に想いを馳せた。
「・・・騒がしくなる」
「ひぃ~、ひぃ~・・・・・・・・だめぇ~笑いが止まらない、むぷぷ・・・ぷぷ・・・」
確かに泣いていると言われればそうだろう。
何せ笑い過ぎて目に涙を浮かべているのだから。
―ブチッ
笑い声の中にそんな音が聞こえたような気がした。
「ク”イ”ン”ー、おいゴラ」
怨念が込められた声にしか聞こえないそれはクインの鼓膜を叩く。
「あ、やば」
すぐさま感じ取ったクインは一目散に逃げようとしたが―
「逃がすか!!」
―先読みされていたのであろう、がしっと襟首を掴まれ逃げられない。
こんな所でも兄妹を感じさせるのはさすがと褒めればいいのだろうか。
こめかみに血管を浮き出したまま、にっこりと笑うルークのなんと禍々しい事か。
「そこに座れぇ!!」
「ひぃ~!」
クインを地面に座らせたルークは日頃の戯れの鬱憤を晴らすように懇々と説教するのであった。
「茶番を見させられている私の立場って・・・」
マーサというこの部屋の主が居るにも拘らず、兄弟喧嘩をする二人を見ている彼女はこの二人の将来に一抹の不安を抱えるのである。
◆
「つまり?」
「えぇ、彼女―クインさんは|この学園の生徒ではない《・・・・・・・・・・・》という事よ」
説教を程ほどに切り上げたルークはマーサに事の顛末の説明を受けた。
「元々彼女は成績不振者で王都から来たわけではないのよ」
「実際、向こうの学籍が残ってるしね~」
「はぁ・・・」
王都から落ちて来たのではなければ何故ここに?
ルークが疑問を口にする前にクインが説明を再開する。
「最初から言ってるし、『あの人の命令とルークが心配だから』ってね」
「・・・」
実際、クインは自分が落ちたなど一言も言っていないのだ。
ただ、ルークの『一緒に落ちてくる必要は無かっただろう?』の問いを否定しなかっただけ。
つまるところ、ルークの勘違いであり、学生全員も騙されたという事だ。
「じゃ、じゃあ何で選抜戦に出てきたんだよ。学生で無いのに選抜戦に出て良いのか?他の生徒が不満を持つだろうが」
「言ったじゃない。あの人の命令だって」
「それについては私から」
マーサはクインの説明を引き継ぎ、言葉を重ねる。
「まぁ、ざっくりと言ってしまえば貴族間での取引と言った所でしょう。クインさんを選抜戦に出す代わりに貴方のお父様の管轄、つまり兵士または騎士に我が校の推薦枠を増やす取引でした」
「クインを出す意味って・・・」
「貴方への試練だったのかもしれないですね。そこは話し合って聞いてください。私には推測しか出来ませんから」
マーサは説明は終わりとばかりに書類整理に戻る。
彼女の机にはまだ作成しなければならない資料が山ほどあるのだ。
「最後に良いですか?」
「どうぞ」
ルークは真剣な表情でマーサを見つめる。
視線を戻さず、書類を見ながら返事をするマーサ。
「結局、クインは王都に行けるんですよね・・・?」
ルークにとってそれが一番聞きたい事なのだ。
今の表情は彼の心情を最も体現しているであろう。
「行けるも何も・・・元々王都の学生なので戻ると言った方が正しいでしょう」
「安心しなさいよ、あんた一人にしておくと何があるか分からないじゃない。王都でもしっかりからかってあげる」
「・・・うるせぇ」
学園長に挨拶をし、部屋を出たルークは身体の力が抜け、その場にへたり込む。
彼の顔は何とも言いがたい安堵に満ちていた。
「よかった・・・よかった・・・」
「ふふっ」
クインはルークの背中を擦りながら微笑む。
その姿は本当に仲睦まじい兄妹そのものであった。
◇
「学園長」
ルークやクインが去った後、本日二組目の訪問者を迎えた学園長室。
床に着くほどの長さの髭を持つダンケルの姿がそこにあった。
「何かしら?」
「おぬしの目的は何じゃ?」
「・・・」
一瞬、書類を書く手が止まったものの、すぐさま再開する。
しかし、その一瞬を見逃すほど最老の教師は呆けていない。
「皆にはクインを優秀者として皆に公表し、ガーナードには後で個別に伝えれば混乱は避けられたはずじゃが?何ゆえ、ガーナードを優秀者として据えたのじゃろうか?」
「・・・」
今度は確実に手が止まり、ふとダンケルの目を見やる。
ダンケルの言う通りであった。
今までの学園の風潮からすれば、生徒に真実を隠す事など良くある事。
今回な場合もダンケルの言う通りにしていれば無用な不信感をあおることは無かったはずだ。
「ガーナード君も優秀な生徒よ。ユアン君が規格外だっただけで才能は優秀者の域に達しているわ」
「そんな事わかっとる」
ガーナードの相手がマオでなくユアンであれば苦戦を強いられていたのは明白だ。
ユアンだけでない、ルークにおいても同じであろう。
ただ、ユアン以外マオという存在を知らなかったが故の結果である。
「・・・」
「ふぅ・・・ダンケル先生には敵わないわね」
マーサは隠す事を諦めたのか、後ろにある窓から外を見やり、ポツリと呟く。
「皆に機会を与えたかったのよ・・・」
「機会?」
「そう」
マーサの狙いはガーナードを優秀者にする事ではない。
五年生で優秀者を出す事。
「今の制度を壊したかったのよ。殆ど選ばれるのが三年、一年生に機会は無い現状。一度出たものが出られない風潮。おかしいと思わない?」
「わしが教員になる前からの事じゃからのぅ」
「生徒の未来を閉ざすなんて教師として出来やしないわ!!」
その点、本当に今年は運がよかった。
優秀な一年に、二度目の五年生。
これを選抜戦に出せれば、他の生徒も自分にも機会があるのではと思ってくれるはず。
マーサはこれを願っていたのだ。
「クインさんに負けた子には申し訳ないけれど、もう一度折れずに今回の事をしっかりと考えて欲しいわ。私はそう願ってる」
マーサは窓の外に広がる雄大な青空を見る。
それは多くの選択肢を持つ生徒の夢を表しているかのようで―何とも美しいと感じるのであった。
◇
「これで良いわね」
それはとある魔法。
蝶の形を取りながら、姿は影のように真っ黒。
それはコロギの町を飛び立ち、空を舞う。
ひらひらと飛び立ったそれはすぐさま鳥に食べられようとする。
しかし、鳥がその口に含んだ瞬間、その鳥は真っ黒に姿を変えた。
速さを増したその魔法は西に一直線に飛んでいく。
『王都に化け物が向かう。注意されたし』
その文字を体内に宿しながら・・・。
最近、中学校の時の友人とよく飲みに行く機会がありましてね
そこでいつも出る話題が
「歳取ったなぁ」
なんですよねぇ・・・
ウィスキーを傾けながら年齢の事を話す何ともわびしい事か・・・
特に若い子たちとの違いをよく感じる次第にござりまする
若い子―筋肉痛が一日でくる
私達―一日目大丈夫だけど二日目に来る
若い子―チューハイ
私達―焼酎、ウィスキー(ストレート)
・・・ため息が出ますね!!
そんな訳でちょっと以下SS(本文が長いので後で読むこと推奨)
『お酒―今は無き過去』
「今日は皆で酒を飲もうかと思ってな」
「魔王様、業務が・・・」
「エンビィよ、堅苦しい事は明日にするとしよう。皆を呼んで参れ」
「・・・御意」
半刻も経たずに皆が集まる。
王を待たせるわけにはいかないからだ。
「魔王様」
「今日は無礼講だ、好きに飲め。・・・何を遠慮している、ディー、ボルグ。私の酒が飲めんか?」
「しかし・・・」
「ふむ・・・」
「カトレア、カナリア。酌をしろ」
「「はぁい」」
乗り気なのは女性陣二人であった。
しかし、王に飲めといわれ断る馬鹿は居ない。
酒が進むに連れ、皆の態度が軟化していく。
ディーやボルグは昔を思い出すようにタメ口に近くなり、ツイル姉妹は妙な色香を出し始めた。
変化が見れない様に見えるエンビィもしっかりと酔っており、それは酷かった。
「だいたいれすねぇ、ひっく」
「エンビィ・・・それは私ではない。椅子だ」
「だはははは、こまけぇことはなしだ、なぁ魔王!!」
「そうだな」
「魔王よ、わしと勝負しろ!!!血が滾る試合をしようぞ」
「お前と私が戦えば城が消えるが?」
「や~ん♡、ま・お・う・さ・ま♡」
「夜伽の相手はわ・た・し♡」
「あ~、台詞取られた!!あんたみたいな貧乳じゃ相手にされないもん」
「未熟な果実もおいしいよねぇ♡」
「二人まとめて掛かって来い」
「「きゃ~♡」」
どんちゃん騒ぎは朝まで続いたという。
ツイル姉妹と魔王がどうなったかは酒のせいで分からずじまいであった。
魔王城でのお話でした。
ではでは~




