表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/89

勝てなくても・・・



(あれは不味いか・・・?)


 訓練場の天井に浮かぶ雷雲を見てマオは素直にそう感じた。

 勿論、それがマオを傷付けるものではない事は明白である。

 しかし、マオがそう思うのは自分の身ではなく、周りでその雷雲を見上げ、ポカンと口を開き、すごいと口に出すだけで障壁の一つも張らない生徒達を気に掛けての事だ。

 朦朧とした状態のガーナードが放った魔法。

 彼がその魔法を制御出来ない事は誰の目にも明らかであった。

 しかしながら教師は止めに入らない。

 否、規則が為に止めに入れないのだ。

 

 無論、マオが守る必要などどこにも無い。

 寧ろ魔王であった頃のマオであれば、危機感の抱かない者など切り捨てて当然といったところであっただろう。


(同級生を見殺しにすればあいつが煩いからな・・・)


 ユアンの存在がマオの行動に影響を与えているのは言うまでも無い事だ。

 目覚めが悪いなど幾つかの理由を挙げることが出来ても結局はその答えに行き着くマオはすっかりユアンの甘さに染まっていると言えるだろう。


 生徒全員を覆うような障壁を展開しようと魔法を唱えようとしたその時、マオは魔法の発動を感知した。

 それは平人が使う外魔法ではなく、慣れ親しんだ同胞の魔法であった。

 この場でそれが使えるのはマオ以外に一人しかいない。

 感じ取った時、マオは自分に向けての妨害かと身構えたのだが、勘違いだと気が付くと彼女に視線を向ける。

 彼女は素早くガーナードの傍に近き、彼に向かって魔法を放った。

 彼女が耳元で小さく何かしらを呟くとガーナードはがくりと膝を折り、倒れ込む。

 恐らく催眠系の魔法かとマオは当たりをつける。

 倒れこんだガーナードを支えるとビュールは大声で叫ぶ。


「ガーナード、気絶により試合続行不可能!!介入の許可を!!」


 学園長に向けられたその言葉は頷きと共に許可が下りた。


「ダンケル先生!」

「ほいさ」


 ビュールは近くにいたダンケルの名前を呼ぶ。

 ダンケルはそれだけで全てを察し、魔法を展開する。

 それは勿論、制御を失った雷雲から生徒を守るための壁であった。

 滑らかに流れるように展開されたそれを見てマオは感嘆の息を漏らす。

 長年培った外魔法の境地と言えるそれはマオの目から見ても素晴しいものであったのだ。


 轟音を立て落ちてくる様を見て漸く自分達の不甲斐無さを自覚したのだろう。

 生徒は顔を真っ青にしながら壁がなかった時の事を考えていた。


 音が止み、障壁が解けると空気がまるで焼け焦げたような臭いが訓練場に充満していた。

 ダンケルは風の魔法でそれを振り払うと長い髭を摩りながら生徒に語りかける。


「凄い魔法に惚けるのは仕方ないが、せめて自分の身は守らんと、のう?」


 ダンケルにそう言われてぐうの音も出ない生徒達は己の甘さを悔い、自分の糧とするべくダンケルの言葉に耳を傾けるのであった。

 一方、マオは流れるような美しい魔法に惹かれながらもダンケルの演説を無視し別のことに思考を割いていた。

 ガーナードに向けたビュールの言葉が気になっているのだ。

 常人では聞き取れない言葉であってもマオにとっては関係ない。

 いや、ユアンには関係ないと表現したほうが正しい。

 ユアンの身体は精霊に愛されている為、彼が願えば風の精霊は言葉を運んでくるのだ。

 それはマオにも恩恵があることであり、ビュールの囁きも難なく聞き取れたのであった。


(魔人の彼女が平人を気遣う?)


 敵対しているはずの種族に励ましの言葉を投げ掛けるであろうか。

 任務として己を殺し、教師を演じているのかとマオは感じたのだが、どうにも釈然としないのだ。

 ビュールの言葉は演技としてではなく彼女自身の意思が含まれていたように感じた。


(俺の死後、誰かが計画を引き継いだのか・・・?)


 生前、完遂出来ずにいたその計画がどうなったかは知らない。

 エンビィの事だ、破棄しているだろう、マオはそう考えている。

 なぜなら現に戦争は続いている。

 マオの計画が遂行されたのであれば、少なくとも戦争は終わっているはずなのだ。


「勝者ユアン!!」


―わああああああああああああああああ


 思考に耽るも情報が不足している為に考えが纏まらない。

 結果、そのまま勝利宣言がなされ、マオは歓声を素直に受け取ることが出来ないまま、喝采の渦に飲まれていった。



 ユアンの戦いをじっと眺め、そして決着が付くと感服の念を抱く者がいた。


「すげぇよ・・・」


 ルークだ。

 圧倒的な戦闘に目を奪われていた。

 最初から最後まで戦い方を決めていたかのようにガーナードの攻撃を完璧に対処してみせたその姿に魅せられたのだ。


「あいつ、体調が悪かったのにな」


 そう、ユアンは体調が悪かった。

 にも拘らずいつも通り、いやむしろいつも以上の戦闘をしていた。

 それこそルークがユアンを賞賛する最もな理由だ。


「勝てねぇ・・・」


 今まで模擬戦では何度も負けた。

 惨敗した時もあっただろう。

 だが、こんなにも打ちのめされた事はなかった。

 どれだけ負けようとも、どれだけ地を這おうとも食い下がってきたのに、だ。


「諦めるの?」


 周囲に歓声が響いている筈なのにその聞き慣れた声だけは明瞭な音としてルークの鼓膜を叩く。

 後ろを振り向くとそこには当然のようにクインが立っていた。

 普段の人懐っこい表情はなりを潜め、固い表情でルークだけに視線を向けて。

 ユアンの勝利を喜ぶ事もせずにただしっかりとルークを見つめているのだ。


「お前は向こう側だろ?どうしてここにいるんだ」


 互いに知り尽くした仲だ。

 彼女の固い表情など何度も見ている。

 ただ、クインがここにいる事にルークが疑問に思うのも無理は無い。

 決闘前は決闘場を挟む形で向かい合うはずなのだ。

 もうすぐ始まると言うのに同じ場所にいるというのがおかしい。


「少し話したくてね」

「・・・俺は別に」


 ここで負ければもう一度ガーナードと戦い最後の枠を争う事になる。

 彼は戦闘不能であるが、また別日で戦う可能性を考えるとこの戦いは勝っていたほうがいい。

 勿論、負けてもまだ一回機会はあると考えるか、今回を含め二回しかないと考えるかは本人次第だが。

 ルークは例え兄妹だとしても勝利を譲るつもりは無い。

 決闘前に馴れ合うなど以ての外だ。


「さっきの質問、答えてくれる?ユアンに勝つこと・・・諦めるの?」


 ルークの性格も考えている事もクインは熟知している。

 それなのに尋ねるという事はクインにとってその答えが余程気になるのだろう。

 同じ質問を繰り返すクインをじっと見つめ、ルークは口を開く。


「・・・あぁ、諦めるさ」


 間が空いた返答。

 その少しの時間にルークは幾つもの考えを巡らせ、結局同じ一つの答えにたどり着いた。

 ユアンに勝つ事を諦めるという答えに。


「あっそ」


 それに対するクインの返答は思いの外呆気なかった。

 観衆は未だ熱狂の渦にあるというのに二人の間には隔離されたように寒々しい風が吹いている。

 結局それ以上、興味を失ったのかクインは踵を返し、少し歩いた所で足を止めた。

 そしてルークに向かって小さく呟く。


「・・・そんなことじゃ王都に戻れないね」

「・・・」


 そしてまた歩き出すクインにルークは言葉を送ることは無かった。

 言葉は無くとも、これから戦う上で自分の答えを彼女に理解させる事が出来ると感じたから・・・。


「次の候補者、前へ」


 ルークは一歩足を進める。

 後退してしまったものを振り出しに戻す為に。

 自分の選択が正しいと証明する為に。


 観客の喝采は先程の試合から期待感もあってか、最高潮に達していた。


(待ってろ、王都。待ってろ、ユアン。俺は絶対に勝利を掴むぜ)


 今、兄妹の死闘が始まる。

遅うなりました。

小説書くの飽きたのか?

なんて声が聞こえてきそうですが、そんなわけありません。

飽きたのならわざわざ唯一の休みである日曜日を削ってまで小説の勉強をしにいきませんよ?

専門学校の体験入学にちょこっとお邪魔させて頂いて、聞きたい事聞きまくってます。

それを活かせるように頑張りたい。


後、初めてプロットというものを書きまして四苦八苦しているところであります(新作用)


十月に更新頻度を上げる為に今、作者も耐え忍んで仕事に励んでいるところにございます。

ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます・・・。


以下作者の実力不足により本編に組み込めなかったり、没案です

『前話 ガーナードが教室を後にし、残されたファドレド先生視点』


 ガーナードが教室を出た後、私は一人考え込んでいた。

 彼が何故そこまでアイナという生徒に執着するのか、と。

 確かに選抜戦で彼の思いは全校生徒、全職員の知るところだ。

 だが、自分の可能性を潰してまで死者を想う意味などあるのだろうか。


 ・・・考えても仕方の無い事か。


 彼が断った場合を考え、他の生徒を見繕う必要があるからな。

 それに彼にアイナ君が亡くなった事を教えた者がいる。

 それも探さなくてはいけない。


 今後の予定を確認した後、教室を後にしようと扉を開けるとそこにはアダムン先生がいた。

 学園で最も古い教員で彼の言葉には学園長ですら耳を傾けるほどの力を持つ。

 そんな彼が誰もいない教室に何の用なのだろうか。


「アダムン先生、何時からここに?」

「これ、ダンケルと呼ばんか」


 私は彼が余り得意ではない。

 こればかりはどうしようもない。

 自分でも何故だか分からないが苦手なのだ。

 彼はアダムンと名字で呼ばれるのが嫌いらしく毎回ダンケルと呼べといってくる。

 何でも自分は平民出身だからだそうだ。

 よく分からない。


「・・・ダンケル先生、お一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「んあ?なんじゃい」


 折角なのでガーナードが特定の生徒に執着する理由を聞いてみる事にした。

 年の功という訳ではないが、彼なら何か分かるかもしれない。

 唯の興味本位だった。


「・・・ふむ」


 私の話を聞いた彼は特徴的な髭を撫で、考え込む。

 そして、しばらくした後口を開いたかと思うと意味の理解できない言葉を言い放った。


「恋し、燃ゆる愛は身を焦がし、高鳴る衝動を止められん。とどまる事なき情欲は果てを知らぬ」

「はい?」

「お主、恋人か妻は?」

「妻がおりますが」

「いつか分かろうて。早い遅いはなく、少年で分かる時もあれば一生知らぬものも居る。お主が妻を愛し続ければ必ず分かるであろう」


 そう言って彼は教室を出て行った。

 私が彼の言葉の意味を知るのは数年後の事だった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ