シ・シーナ?
遅れて申し訳ありません
最近のユアンは太陽が中天を過ぎる頃、目を覚ます。
理由は言うまでもなく魔王―マオとの会話のせいであろう。
だがそれを咎める者はいない。
セラやアレンは親馬鹿であるため、先の事件でセラが外出しないようにユアンを家の中に留めているから友達も出来ず、ユアンに来客はないと分かっている為、起す必要が無いのだ。
ユアンが怪我をした事件は仕事中のアレンの耳にすぐに届いた。
比較的大きな村とはいえ村は村である、情報はすぐに広がってしまう。
住人から情報を受けたアレンはすぐにその場に向かい、ユアンを抱き上げ協会へと駆け出した。
この村の協会の立ち位置は治癒院と同義である。
駆け込んできたアレンにこの協会で治療を受け持つ神官とセラは驚いたが、すぐさま手の中のユアンに気づき治療を施した。
幸い血が多いだけで傷は小さかったのだがセラの過保護が発動してしまった。
謝りにきた少年達にセラは笑顔でこう言ったという。
「次にこんなことがあれば私はあなた達を治療しませんからね」と。
当然、この村で二人しかいない治療魔法の使い手であるセラにこんなことを言われた少年達の心中はお察しであろう。
ある日の朝、ユアンは夢の中から呼び起こされた。
ここ最近では無かった事に少しばかりの驚きを持って起き上がる。
「ユアン!お友達が来たわよ!」
「友達?」
友達と言えばマオしかいない。
だが彼は自分の中にいるもう一つの人格というべき物である。
実体を持つ物ではないし、セラがそのことを知っているはずもなく、ユアンは誰かに騙されているのではと疑いだす。
身支度を整えるため少し時間を欲しいと言いながら先ほどの言葉を考える。
(マオがお外に出てきてくれたのかなぁ。そしたらいっぱい遊べるし、色々教えてもらえるのになぁ)
そんなことを考えながら部屋を出て、客間に向かう。
その客間の中からアレンとセラの笑い声と話し声が薄っすらと聞こえる。
その声に暗い音はなく、怪我をさせた少年達ではない事を察させた。
ガチャリと扉を開けるとそこには父と母以外に男性が一人、そして助けた少女が椅子に座っていた。
扉を開ける音は小さかったはずだが全員の視線がユアンに向けられた。
「お~、お前さんがユアンか!?ひょろっこい少年だな」
「えっと」
誰?というユアンの疑問を解いてくれたのは父であった。
「こいつはお父さんと一緒に村の警備や力仕事をしているガットだ。ユアンが助けた娘の父親だぞ」
「よろしくな、ユアン君」
「よろしくお願いします」
互いに挨拶を終わらせたことでアレンとガットは話を始めた。
初めは例の事件を話しており、ユアンも話に加わっていたのだが、次第にだんだんと仕事の話になったためユアンは口を挟めなくなっていった。
手持ち無沙汰な為、周囲に目線を向けると少女が目に留まる。
蒼い瞳を両目に持ち、白に近い灰色の髪をした少女。
彼女は初めから話に入らず、じっと黙って座っていた。
ユアンは大人たちの注意が自分たちからそれたのを確認した後、少女に向かって手招きをし客間から出て行くのだった。
◇
客間から出た後、少女が付いてくるか心配だったが、彼女も居心地が悪かったのか、その心配は不要であった。
中からは話し声が聞こえていることから気づかれてはいないのだろう、とユアンは予想をする。
実際は大人全員気づいていたのだが知らん振りを決め込んでいたのだったが。
そんなことは知らないまま少女と一緒に自分の部屋へと向かった。
こっそり移動するという緊張感が少しばかりの楽しさを感じさせる。
シンとしている廊下を進み自分の部屋に入ったところでようやく一息吐き、安堵感を覚えた。
「ふぅ、なんだかちょっと楽しかったなぁ」
「・・・」
そんな感想を口に出したものの少女からの返事がなかった。
互いに口を閉じ廊下と同じような静かな空間に二人。
(客間に一緒にいたほうがよかったかも・・・)
『どちらにしろ同じことだろう』
そんな考えを持ち始めたとき、『彼』の声が身体の中から聞こえだす。
「えっ!?」
大きな声に少女はびくりと身体を震わせ、ユアンに恨みがましい視線を向ける。
ごめんと一言謝り、自分の中の声に耳を傾けた。
(鏡の前じゃなくていいの?)
初めの疑問はそれであった。
今まで書庫の三面鏡の前で話していたのでその場でしか会話が出来ないとユアンは思い込んでいたがそうではなかったのかと疑問をぶつけた。
『いや、今までは出来なかった。鏡を媒体としてこちらに姿を現していたが、それ故にお前との間につながりが強くなったのであろうな』
そう語るマオの声にユアンは別のことで安堵を感じた。
(助かったよ、ちょっと気まずかったんだ)
『それではいかんだろう。俺以外にも友を作らねばユアンの世界は広がらぬぞ?』
(で、でも)
『何事も挨拶から。まずは名前を聞くことからはじめることだな』
何か楽しげにユアンに促すマオ。
その顔が見えたのなら確実に悪戯が成功したという意地悪な表情であっただろう。
チラリと少女のほうを見やり、覚悟を決めた。
「えっと、さっき君のお父さんも言っていた通り僕の名前はユアン。前に怪我をしたときのことはほとんど覚えてないんだけどよかったら君の名前を教えてくれないかな?」
事件のことは本当に覚えてなかったがマオに事の顛末を聞いていたためすり合わせは済んでいる。
だがここで気づくべきであった。
少女の名前をマオが教えていなかったことに。
「・・・シ、シーナ」
「シ・シーナちゃんって言うんだ、よろしくね」
「・・・」
時が止まったような気がした。
そして少女――シーナは肩を震わせギロリとユアンを睨み・・・。
「覚えてるじゃないですかぁ!!!!」
怒りが爆発した。
その後ユアンが平謝りをしたのは言うまでもない。
先週更新しようと思ったんです・・・。
思ったんですが、ね?
ちょっと体調が芳しくなかったのですよ。
仕事中に立っているのもしんどくなってね。
視界がぼやけて、耳がこもり始めてね。
帰って熱測ったら39・8度ですって
まぁインフルじゃなかったんですけどね
てなわけでごめんなさい。
いつも通り不定期、更新頻度低ですが頑張って書いていきますよー。
皆さんよろしくお願いします