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傷跡 その三





 『君すごいね』


 気づいたら私は貴方に話しかけていた。

 この言葉は本当にポロリと口から無意識に出ていたの。

 だって貴方の動きや魔法があまりにも洗練されていて、美しかったから。

 本当は話しかけるつもりなんて無かったのに。


 私が欲しくて欲しくて堪らないモノを貴方は持っていた。

 才能っていう光を。

 だから、少しでも(才能)に手を届かせる為に、少しの勇気を振り絞って私は貴方に話しかけたの。

 貴方は気だるそうにしていたけれど、私を放っておけなかったみたい。

 ふくれっ面だったけど無視はしなかった。

 それがなんだか可愛く見えて、私は貴方を『ガー君』って呼ぶことにしたの。

 貴方は嫌そうだったけど、ね?


 少しずつ仲良くなるにつれて貴方の事をよく知る事が出来た。

 元々の目的は貴方の情報収集だったから都合が良かったわ。

 そして、貴方には夢や目標とするものが無いと知ったの。

 私がそれを知った時、どんな感情を抱いたと思う?


 ―愉悦。


 嫌な女でしょう?

 完璧に近い貴方が持っていないものを完璧から程遠い私は持っている。

 それが嬉しくて愉快で・・・。

 

 私は貴方が思っているほど、可愛らしい女の子じゃないの・・・。

 嘘と偽りを嫉妬や嫉みで固めた仮面を被った女。

 それが私なの。

 だから―


「君がいる王都なら―楽しいと思った。ただそれだけさ」


 ―やめてよ・・・。

 そんなに優しい顔で私を見ないで・・・。

 貴方を騙した私に貴方を好きになる資格も、好かれる資格も無いの・・・。


「アイナがもし僕を騙した事に罪悪感を持っているのならそれは好都合。僕の目標が決まるから。―君のその感情を拭うそれだけの為に何年掛かっても王都に行くよ。優秀者として君に会いに行く、これが僕のこれからの目標だ」

「・・・一度落ちれば不可能よ」


 嘘と偽りの仮面にひびが入る前に彼を突き放さなくては・・・。

 こんな女の為に茨の道を歩む必要なんか無い。

 忘れて。

 ・・・忘れて・・・・・・欲しく・・・ないよ・・・。


「君が好きだよ」 


 ―私も好きだったよ。

 ・・・なんていえるわけも無く。


「・・・私はそうでもなかった」


 彼の降参という言葉で優秀者選抜戦は終わりを告げた。

 そして、私の恋も・・・。

 彼とはもう会う事はないと思うけど、次に会う時は素直な私で居られればいいな。

 


 周囲は静寂に包まれていた。

 同級生たちも、先輩たちも、教師たちも。

 誰もが疑う事のなかったであろう勝利が目の前で崩れ落ちた事に驚き、固まっている。

 教師陣は特にその様子が顕著であった。

 負けることが無いと思っていたのだろうか。

 今見た事態が事実なのかと自分の目を疑い、目を擦るが事実は事実として彼らに叩き付けられる。

 そんな中、粛然たるこの場に波を立てたのはこの事態を引き起こした当の本人―そう、僕だった。


「ねぇ、そんな恐い顔してないでさ、何時もみたいに笑ってなよ?」

「・・・」


 僕は周りに意識を向ける事無く、彼女に話しかける。

 だけど、彼女は何時もみたいな笑顔を浮かべる事無く、無表情で、あの輝かしい未来を見ていたであろう瞳は僕を映さずに凄然で、冷徹で、どこか物悲しい。

 馬乗りになっている彼女の吐息が近くにあっても、そこには甘さの含んだ雰囲気は微塵も無く、鋭い短剣は僕の首筋の近くで冷たさを放っていた。

 

「・・・降参は?」


 返事をするわけでもなく、彼女はただただ事務的で無機質な言葉を告げてくる。


「―アイナ・・・」


 彼女の名前が僕の口から零れ落ちた。

 だけど、それに反応を示す事は一切無い。

 それがすごく歪で、彼女が無理をしているのだろうと予想出来る。


「降参は?」


 先程のような間は無く、首筋に当たる短剣が僕の薄皮を切り、鮮血が銀を伝い、地面へと落ちた。

 脅しのつもりだろうか。

 そうだとすれば意味が無い。

 元々僕は初めから棄権を申し出るつもり(・・・・・・・・・・)だったのだから。


「するよ。だけどする前にいくつか質問をさせて欲しい」

「・・・」

「無言は肯定と受け取るけど?」


 それでも彼女は無言だったから聞く権利ぐらいはくれるそうだ。

 まぁ、質問と言うよりは事実確認なんだけどね?


「一つ目、君は優秀者候補に選ばれるほど優秀なのに僕の指導を受けていたと?」

「・・・えぇ」


 ・・・これは恥ずかしい。

 頭が良い人間に偉ぶってものを教えていたなんて・・・。

 全部、一年や二年の授業内容に近かったから絶対に分かっていただろうし。


「君が馬鹿な振りをするから恥を掻いたのだけど?」

「・・・」


 彼女はすっと目を逸らした。

 いや、戦闘中に目を逸らすなんて愚作だよ・・・?

 まだ降参って言ってないんだから。

 まぁ、反撃するつもりは無いけれど。


「僕が君の事を知ろうとしなかったのがいけないのだけどね」


 教室が違うと授業割り当ても違う。

 だから、彼女の実力に気づかなかった。

 よく観察していれば気づけたのかもしれない。

 今回は僕の注意不足と彼女の演技が素晴らしかったという事だろう。


「僕の情報を得るためだけに近付いた?」

「えぇ」


 ・・・。

 ・・・何が彼女の一目惚れだ。

 勘違いも甚だしい。

 これが自分の部屋だったらのた打ち回る事請け合いである。

 幸い、彼女にも他の人間にも知られていない心の中で思っていたことだったから何とか我慢できるけど、これは何時までも引き摺る過去の汚点として残るだろう。

 先程の恥より何倍も恥ずかしい。


「すぅ・・・」


 少し深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 ・・・・・・。

 無理だ!!

 話を続けよう・・・、そうすれば少しの間だけでも忘れられる・・・と思う・・・たぶん。


「で、その情報を他の候補者に回した、と?」

「・・・」


 彼女はこくりと頷く。

 今回の選抜戦は総当たり戦だった。

 僕を含めて四人の候補者だけだったからそうなったんだと思う。

 一勝でもすれば王都に行ける筈だったのだが。

 残念な事に僕は負けた。

 完敗だった。

 どおりで得意な魔法は避けられるし、弾かれるし、相殺させられるし、と散々だったわけだ。

 彼女が情報を回していたのだから弱点も何もかも知られていたのだろう。


「貴方は唯一の男子生徒だった。他の候補者は交流があったし、他人とも関わる人達ばかりだったからすぐに情報は集まった。けれど貴方は他の人間とは関わり合いを持たない特異な人だった」

「だから近付いたと」

「えぇ。貴方は棄権すると考えていたから戦う事無く王都に行けると思った。他の候補者は少なからず王都に何かを求めている人達だったから貴方の情報を流したの」


 だけど彼女の予想に反して僕は棄権をしなかった。

 名前を呼ばれた後、棄権する者は申し出よと学園長に言われたのにも拘らず、だ。


「どうして、棄権しなかったの?」


 そんなの決まってる。

 だって―


「君が居たから棄権しなかったんだよ」


 言葉にするとようやく自分の感情に気が付くことができた。

 彼女が僕に一目惚れしたんじゃない・・・、僕が彼女に惹かれていたんだ・・・、と。


「君がいる王都なら―楽しいと思った。ただそれだけさ」


 彼女と通う学園はどんな景色を見れるのだろうか。

 彼女と回る王都はどれだけ大きな世界だろうか。

 彼女が優秀者候補として壇上に上がってきたのを見た時、そんな事ばかり考えてしまっていたんだ。


「アイナがもし僕を騙した事に罪悪感を持っているのならそれは好都合。僕の目標が決まるから。―君のその感情を拭うそれだけの為に何年掛かっても王都に行くよ。優秀者として君に会いに行く、これが僕のこれからの目標だ」

「・・・一度落ちれば不可能よ」


 知っているさ。

 でも僕は諦めないよ。

 静かなこの空間で言うと響いて皆に聞かれるだろうけど、恥ずかしくない。

 後で悶えるだろうけどね。


「君が好きだったよ」


 この感情に早く気が付いていれば未来は変わっただろうか?

 たぶん、きっとそう。


「・・・私はそうでもなかった」


 振られたとは思わない。

 だって、嘘は気づかれたら嘘になる。

 気づかれなければそれが相手にとって真実。

 だけど最後の最後で彼女の言葉が僕に嘘と気づかれた。

 本音を聞きだす為に君の元に行くと断言するよ。

 だから今は―


「降参します」


 ―先に行って待ってて。


 僕の降参の言葉と共に優秀者選抜戦は終わった。

 優秀者候補全四名。

 僕以外が王都行きの切符を手に入れた瞬間だった。



 優秀者選抜戦から十日程経った。

 アイナやその他の優秀者は選抜戦後すぐに王都へと旅立った。

 僕は欠かさず訓練を続けている。

 王都に行く為に、アイナに会う為に。


「・・・ガーナード君、少しいいかしら?」


 殆ど話した事のないビュール先生が僕に用事とは何だろうか。

 それも早朝で休校日に。

 確か、アイナと出会ったのもこんな日だったっけ。


「この話は生徒に口外厳禁なのだけれど、貴方には話しておかなければいけない気がしたの・・・」

「えぇ、何でしょうか・・・?」


 何時に無く真剣なビュール先生に嫌な予感が脳裏を過る。

 僕の身体がその先を聞きたくないと拒んでいるように感じた。


「・・・王都行きの生徒三名、御者一名が魔獣に襲われたわ」


 ぞくりと背筋に悪寒が走った。

 アイナは?アイナはどうなった?

 他の人間の事など頭に無く、彼女の事だけが頭の中を占めた。

 この先を聞きたい感情と聞きたくない感情が鬩ぎ合い、息苦しさを感じる。


「内、生徒二名は骨を折る重傷・・・残る一名と御者一名は無残な遺体となって発見されたわ。生き残った生徒から推察すると亡くなったのは・・・・・・、アイナさん・・・らしいの・・・」


 










 ―アイナが死んだ?

ママレード&シュガーソング

ピーナッツ&ビターステップ

甘くて苦くて・・・


・・・あ、どうもどうも晴月松です


・・・自分の自分に対する甘さに胸焼けと反吐が出そうな今日この頃です。

明日でいいや、明日でいいやと伸ばした結果が今日のこの更新という、ね?

もう救い様がねぇですね・・・

ま、自分自身の問題なので克服するしかないのですけれども


本編の話をしましょうか!!(唐突な切り替え)

いやぁ、何故だか甘酸っぱい恋物語からドーンと落ちた悲恋になりましたねぇ

書いてて心が痛いの何の

ひどい作者も居たもんです


何気にこの作品初の死亡者ですよ

作者としてもキャラクター一人一人に思い入れってものがあるんで余り死んでほしくないんですけども・・・

物語として仕方ない部分がありまして・・・

アイナちゃん。・゜・(/Д`)・゜・。うわぁぁぁぁん


・・・取り乱しました。


なんだかガーナード先輩が主人公っぽくなってますけど違いますからね?

次ぐらいにユアン君出ますからね?


忘れられないように頑張ります(ユアン君も作者も)


ではでは~


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