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会議、選ばれたのは・・・

綾鷹でした。






 

 それは毎年の恒例会議。

 教職員全員がその場に集まり、学園長の言葉を待っている。

 生徒は皆、午前の実技のみで帰らされ、その後学園に入る事を許可されていない。

 ここで話し合われた事はある期日まで生徒に公表してはならないと決められている。


「では会議を始めましょう」


 ぐるりと教室内を見やり、全員が揃っている事を確認したマーサ学院長はそう言い放った。

 当然、ダンケルやビュールも集まっている。

 初めはいつもと変わらぬ予算、授業日程、授業内容などの決め事から始まり、来年度の新入生見込みや卒業生の就職先についての確認、予想などを話し合う。

 会議は円滑に進み、何ら問題なく終わるかに思われた。

 しかし、ここにいる者全員が知っている。

 今日に限ってこのまま終わる事はない、と。


 そしてそれは学園長の一言で始まる。


「では最後に今年度、王都に出立してもらう『成績優秀者』を決めたいと思います」


 制度によって送らなければならない『成績優秀者』。

 コロギにいる者全員が、この町を豊かにしてくれる可能性のある優秀な者を手放したくないのは自明の理だ。

 しかし、王都に逆らえるほど大きな町でない事も理解している。

 故に、学園長以下全職員が頭を悩ませる結果となっているのだ。


 他にも会議が長引く理由がある。

 

「私はエドモンド君、ドール君、フェンス君を推薦いたします」


 そう発言したのは三年生を受け持つ男性教諭。


「いやいや、ゲイル君、フォーレさん、ティグリス君が相応しいでしょう」


 二年生を受け持つ女性教諭は男性教諭の言葉を否定し、自分が思う優秀者の名を挙げる。


「何を言っているのですか?ケルツ君、アディさん、ミナさんだと私は考えますが?」


 更に別の所からも声が上がる。


「それは貴方が受け持つ生徒の中で、でしょう?」

「何を馬鹿なことを!!」

「ケルツ君がエドモンド君に負けたことなど無いでしょうに!!」

「それは魔法が使えない場合の時だ!!」


 挑発が挑発を呼び、口論へと変わる。

 毎年、これがあるのだ。

 全教員、帰りが遅くなる理由を知っているのも当然といえる。


 そして、彼らが口にするのは自分が受け持つ生徒の名前ばかり。

 どの教師も自分の教え子が優秀だと信じて疑わない。

 優秀という言葉の中には、どんな状況であっても優れているという意味が含まれている。

 にも拘らず、ある場合では勝てる、ある状況では負けるなどの言葉が飛び交うのだ。

 そこに矛盾が生じているなどとは頭に血が上っている教師達は気が付いていない。


「少し静かにしなさい!!」


 さすがに堪えかねたマーサが怒声を発する。


「毎年の事でしょう!!なぜ学ばないのですか!?順序良く、効率的に決めなければいつまで経っても決まりません!!」

「「「・・・」」」


 マーサの言葉に多少冷静さを取り戻した職員は己を恥じ、もう一度自分の挙げた名前が正しいかを精査する。


「一人一人、自分が推薦する生徒の名前となぜその子を選んだのか理由を述べなさい。まずはそこからです。ではカーマン先生からどうぞ」


 マーサに指差された教師は順に名前と理由を述べ、着席する。

 教師一人一人多いが、先ほどの混ぜっ返したような会議よりは円滑に進んでいった。


「では・・・ファドレド先生」

「はい、私が推薦いたしますのは三年生ドール君、同じく三年生ルセリ、そして―」


 彼は一呼吸置き、三人目の名前を口にする。


「―五年生ガーナード君です」


 最後の生徒の名で会議室はどよめきに包まれた。

 通常、四年生と五年生は選ばれる事が無い。

 なぜなら殆どの四、五年生は就職先が決まっており、王都に行く事が出来ないからだ。

 しかし、ファドレドが挙げたガーナードという生徒は違う。

 彼は五年生でありながら、就職先が決まっていない。

 いや、決まっていないと言うのは御幣がある。

 彼は兵士や業者からの勧誘を断っているのだ。

 全ては王都にいく為に。


「しかし、彼は・・・」


 一人の職員が少し口ごもる。

 その理由はここにいる殆どの職員が知っている。

 彼が優秀ならば三年までの間に選ばれているはずだ。

 それなのに選ばれない。

 何故なら―


「彼は一度選ばれ、そして負けたじゃないですか」

「「「・・・」」」

 

 成績優秀者を選ぶ時、会議内で決まる事が最善である。

 しかし、選べない場合もあるのだ。

 例えば、優秀な者が絞れないほど多い場合や逆に選べるほど優秀な者がいない時など。

 そのような事態になった場合、どうするのか。

 答えは簡単だ。

 生徒同士戦わせればよい。

 元兵士育成学校らしく、決闘で。


 ガーナードという生徒は三年生の時、多くの優秀者候補の一人に挙がり、結果決闘に敗れた。

 それ以降、選ばれる事はなかった。

 当然そこには理由がある。


「王都の学園はこう思うに決まってるじゃないですか『今年は優秀者が居らず、過去に選ばれた者をもう一度寄越した』のだと。それに王都の学園には彼に勝利し、通う者が居るのですよ?二度の機会は無いと必死で頑張った生徒が」

 

 更に言えば、コロギの学園には四、五年生で負けた者で諦めて就職を選んだ生徒も居る。

 ガーナードだけ贔屓されていると感じる生徒も出てくるはずだ。


「何より王都に行った後の彼が心配です」


 勝って王都に行ったものが彼を見ればどう思うのか。

 『彼は私達に負けたくせにのうのうと王都にやってきた負け犬だ』などと吹聴するかもしれない。

 勿論、優秀な彼らがそんな事をするとは職員も考えていないが、王都の生徒については分からない。


「彼がそんなことに屈する弱い人間だと?」


 ファドレドは他の職員の心配を一蹴する。

 

「かも知れないと言っているだけだ。可能性は無くは無い」

「無いな」


 ファドレドは相当な自信を持っているようであった。

 彼はガーナードという生徒のことを良く知っている。

 彼は優しげで儚い様な印象の生徒だが、その裏、恐ろしく頑固で尚且つ受け流す術も持ち合わせている生徒だという事を。


「彼についてはそれまでにしましょう。後でゆっくり議論致すとしましょう。では・・・」


 その後も職員は思い思いの名を上げていく。

 終盤に差し掛かった時、マーサが指した職員に皆の意識が集中する。


「では・・・ダンケル先生、お願いします」

「ふむ・・・わしか」


 ダンケルはこの学園でマーサの次に発言権の強い職員だ。

 彼は先代学園長時代からこの学園に勤めており、誰よりも長い勤務歴を有している。

 マーサも彼の言葉に耳を傾けるが多く、皆が彼の挙げる生徒の名に興味を示すのは当然だろう。


「わしが選ぶのは―」


 ごくりと誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。

 彼の挙げる名前の中に自分が選んだ生徒が居るのであれば、それはもう決定したも同然なのだから当然だろう。


「――一年ユアン、一年ルーク・ディナトルエ、五年ガーナードじゃな」


 先ほどのガーナードの名が出た時よりも大きなどよめきが職員の間で広がりを見せる。


「一年だと・・・?」

「ダンケル先生は何を考えているんだ・・・」

「一年と五年・・・」


 職員は会議が始まった時と同じように口々に言葉を放つ。

 それほど驚愕だったのであろう。


―ダンッ!!!!


「皆さん、静かに」


 マーサも動揺していたようだが、さすが学園長といったところだろうか、すぐに持ち直し、職員を嗜める。


「理由をお伺いしても?」

「うむ」


 ダンケルは鷹揚に頷き、理由を言い始める。


「まず、ガーナードに関してはファドレド先生と同意見じゃ。あれが屈するようなタマじゃないからのぉ」


 ダンケルは長年、勤めている事もあり、生徒の事を良く見ている。

 座学以外教鞭を振るう事もなく、学内を見回ることが多いのも良く見れている理由であろう。


「まず、ユアンじゃが・・・あれについての説明は居るかのぉ?」

「出来れば」


 ダンケルの質問に答えたのはマーサであった。

 学園長として忙しい身である彼女は生徒の事を良く見れていない。

 それ故に答えを求めた。


「まず、魔法に関して。・・・優秀過ぎて教える事が無いのが一つ。魔法の威力、射程、発動速度に関してはこの学園で右に出るものは居ない。職員を含んで、のぉ」

「・・・ダンケル先生でも?」

「含んでと言ったじゃろう?」


 マーサは驚きの表情を顔に出さなかった自分をほめてやりたい気分であった。


(入学式での衝撃は今でも覚えているわ・・・)


 殆どが魔法を使えない中、ルークと渡り合うほどの実力を見せたユアンは、その後どれほど成長したのだろうか。

 成長を見ることが出来なかったマーサはそれを予想するのが難しい。


「座学に関しても優秀であろうな。分からぬ所はきちんと聞いて理解する柔軟な頭を持ちつつ、知識をより求める貪欲さもある」

「それに関したは同意いたします」


 賛同の声を上げたのはビュールであった。


「彼はどの授業の後も私達教師の所に来て、理解できなかった所を聞きに来ます」

「うむ」

「しかも、理解を深め、更に踏み込んだ内容・・・つまり上の学年の内容にまで興味を示している様子でした」


 ビュールもユアンを選ぶつもりであった為、すらすらと彼を褒める言葉が出てくる。

 単に優秀という意味もあったが、本当に考えていた事は―


(ユアン君を選んで学園長!!そうすればあの化け物がコロギから居なくなるのよ!!)


 あの夜から何度もマオはビュールの元を訪れていた。

 ビュールはいつ彼の逆鱗に触れるか、ビクビクと怯えながら毎日を過ごしていた為、入学式の頃より体重が落ち、貧血気味なってる。


(弟子の彼が王都に行けばあの化け物も付いて行くでしょう。そうすれば私はこの重圧から解放されるのよ!!)


 彼女の頭の中に上司への心配はなく、自分が解放される為に出来うる限り、ユアンを褒めちぎる。


「体力は少ないかも知れませんが、十分に王都でやってける実力は持っていることでしょう」

「わしの考えは全てビュール先生が言ってくれたようじゃ」


 いつの間にかビュールもダンケルの挙げた他の生徒も応援していると取られたようだ。

 彼女にとってはユアン以外どうでもよかった為、訂正はしなかったが。


「ユアン君の事は理解しました。しかし・・・」

「そ、そうです!!ルーク・ディナトルエ君は落ちてきた者ですよ?選べば先ほど他の方もいった様に王都に舐められます」


 ダンケルの挙げた生徒はどれも問題ばかりであった。

 その筆頭は何よりルーク・ディナトルエであろう。


「ふむ、確かに彼は落ちてきた者じゃ」

「そうでしょう!!ならば・・・」


 理解してくれたと思い、男性職員は胸を撫で下ろせたかに思えたが。


「しかし、彼が落ちてきた理由は風以外の魔法が使えんからじゃ。それを克服した今、彼をここに居らせる理由も無い」


 確かにダンケルの言うとおり、風が使えない以外王都での成績は不振者というほどではなく、どちらかといえば王都でも優秀な部類であった。

 他の魔法が少しであるが使えるようになった彼がここにいる理由もない。


「ディナトルエ家からも連絡は来て居るじゃろう?」

「内容の公表は出来ませんが、その通りです」


 ダンケルはマーサに視線を向け、確認を取る。


「まぁ、大体予想は付くから良い。で、他に質問はないかのぉ?」


 ダンケルは皆をぐるりと見回し、表情を確認する。

 反応がないことを感じると、頷き、次の者へ進めるようにマーサを促した。


「では次は・・・」


 一通り、皆の思う優秀者を上げて貰い、結果残ったのは合計で七名であった。


「一年ユアン、ルーク・ディナトルエ。二年アディ、レルベル。三年ドール、マイン。そして五年ガーナード以上七名で決闘をさせ、上位三名が王都に行く切符を手にする事となります。何か質問は?」


 パラパラと手が上がった。

 マーサは順に職員を当てる。


「試合形式はどういたしましょうか?」

「追々決めていきましょう」

「一人あぶれると思いますが?」

「一人はこちらで選ぶので問題ありません」

「それは学園長の推薦という事でしょうか?」

「そう取って貰っても構いません。・・・以上でしょうか?ではこれにて会議を終わります。各自漏洩については遵守する事、いいですね?では解散!!」

「「「はい!!」」」


 こうして長い一日が終わり、街が闇に包まれる頃、職員は寮や自宅に帰る。

 この事が生徒に伝えられるのはまだ少し先の事であった。









「ひゃっほーーーーーい!!ユアン君が選ばれた・・・あと少しで・・・ふふふっ、あはっははははは!!!!」

「何がそんなにおかしいんだ?」

「ひょっほい!!」

「何だ、ひょっほいって」

「いえ、何でもありません・・・何か用事でも?」

「何、見掛けたから少し話をと思ってな」

「そうですか・・・」

「職員は何を話し合っていたんだ?」

「すみませんそれだけは・・・」

「まぁ、構わん。ではな、気をつけて帰るのだぞ?」

「えぇ、ありがとうございます。・・・・・・行ったかな?うぅぅぅぅ、ひゃっほーーーーい!!!」



 若い女性の声が夜の街へと響いたのであった。

一話目


ちょっと長めの話を書いたので許して・・・

更新滞ってすみません

何をしていたか・・・ですか?


・・・し、新作を

考えていました・・・

今、7000文字ぐらい

投稿はしてないけどね!!




ごめリーヌ(てへ♪


・・・石は投げないでください


16時に次は更新します、多分


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