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幕間 成果

幕間


 朝日が窓から差し込む前、外には靄が掛かり、ひんやりとした空気の中、俺は何時もの時間に目を覚ます。

 何年も続けている事で自然と体がこの時間帯に起きるようになっていた。

 自主錬が出来るのは朝と学園が終わってからしかない。

 出来る時間は全て訓練に回す。

 じゃないとクインにもユアンにも置いてかれるだろう。


 そのユアンは布団に包まり、幸せそうに寝ている。


「夜遅くまで手紙書いてたしな」


 誰宛かと聞けば両親と友達だと言う。

 ちらりと見えた宛名には『シーナ』という女性の名前があった。

 両親に対して宛名を名前で書くだろうか。

 それを聞けば友達の名前だとユアンははにかんで笑う。

 

 俺はそれにピンと来た。

 友達以上恋人未満という関係だろう、と。

 根掘り葉掘り聞いてみたいが野暮な事はしない。

 なぜ分かるのかというと俺もそういう経験があるからだ。

 というか今でもそうだ・・・。


 ともかく、ユアンを起こさぬように服を着替え、愛用の槍を肩に担ぐ。


「行って来る」


 返事が無い事は分かっていたとしても、言ってしまう。

 その事に苦笑を漏らし、寮の外に出る。


 教師さえいない道を軽く走りながら考える。

 最近、ユアンは冒険者組合に通っているらしい。

 夢に向かって頑張っているあいつを見ると、応援したい感情と負けたくないという感情が一緒になる。

 それによって訓練にも気合が入るので、悪い事では無いけれど。


 そんな事を考えていると何時も訓練している学園の中庭に着く。

 勿論誰もいない。

 それが人に当たらなくて好都合だからここを選ぶ。


「広いしな・・・」


 若干の寂しさを感じつつも準備運動後、繰り返し繰り返し体に覚え込ませた槍の型をする。

 腰を深く落とし左足を前に体を横に向ける。

 本当は受け手が居た方がいいが、贅沢は言いまい。

 中段に構えた槍をゆっくりと下段に落とし、前に進む。

 架空の相手と切っ先が触れ合う瞬間、槍を相手の横腹に向け右手を押し出し、突く。


 ・・・同じ槍使いが相手と想定するこの型は実践向きじゃない。

 だが、これをすれば落ち着くのは慣れなんだろう。


「ふぅ~・・・はっ!!ふっ!!・・・しっ!!」


 型は五ノ太刀まであり、それをすべて終わらせたことでようやく体が暖まり、本当の意味での訓練が始まる。

 

 先ほどの型のような流れる優美さは無い。

 演舞用ではなく、実践用の訓練らしく、汚い手を使うし、意地の悪い場所を狙う。

 地面の砂を手に相手の目を目掛けて投げる動作。

 男性ならば金的に喉仏、男女関係無しに顎、こめかみ、人中と急所は全て記憶し、常に突ける機会を窺う。

 槍を使うだけでなく、蹴りや武器を投げる事も視野に入れ、頭の中に浮かべた敵と相対する。

 最近はユアンが敵として思い浮かぶ事が多い。

 というよりも丁度いい相手がユアンしかいないというのが本音だが。


 だが、ユアンに関しても少し気になる所がある。

 急に動きが良くなり、遊ばれているような感覚に陥るときがあった。

 ユアンに聞けば、偶々だと言い張るから言及は出来ていないけれど。


 今日はクインが相手のようだ。

 何度、あいつに膝を付かせられたことか。

 数え切れないほどだ。

 

 だが、俺も成長しているはずだ。

 今日こそ、勝つ!!



「・・・くっ、はぁ~」


 汗を拭う事もせず、ごろりと横になる。


 ―負けた・・・。

 そりゃそうか、魔法主体のあいつに勝つには懐に潜り込まなければいけない。

 だが、そんなあからさまな弱点を放置するほどクインは弱くないのだ。

 それに弱点を理解しているのは俺だけじゃない。

 兄妹なのだから互いに知り尽くしてるといっても過言ではないだろう。

 『風』しか使えない俺とは違い、何でも出来るあいつは苦手な『土』でさえ、平均以上の力を持っている。

 獲物を使うという利点を上手く利用すれば勝率も上がるのだろうが・・・。


「・・・やっぱり魔法か~」


 『風』しか使えないという欠点がある限り、苦戦するのは必至だろう。


「よし、やるか!!」


 最近増えた訓練内容。

 ユアンの親友から他の属性の魔法が使えるようになる可能性を示唆された訓練。

 精霊は感情を持っているという体で教えられた事だ。

 初めは懐疑的であったが、少しでも可能性があるのであれば手を伸ばしたい。

 殆ど、諦めていた事なのだから。


「・・・風の精霊よ、君が俺を愛してくれているのは感謝している。何時も傍に居て助けてくれている事も知っている。ありがとう」


 感謝を伝えるのは当然の事だ。

 この訓練を始めてから魔法の威力が上がった気がするし、訓練後火照った体とふわりと風が冷やしてくれているのも感じる事ができている。

 

「でも、俺は強くならなければいけない。クソ親父を殴るためとかじゃなくて、・・・兄を越えるために・・・。頼む、見返したい奴らがいっぱい居るんだ!!」


 風の返事はない。

 今日もダメだったか・・・。


「・・・『火球』」


 目を瞑り、最後にこれだけはしておく。

 簡単な火の魔法。

 誰しもが始めに発動するであろう単純な魔法陣。

 指先に魔力が集まるように願いながら・・・。


「はっ・・・?」


 諦めて目を開け、指先に目線を移したとき、そこには―


「はは・・・やった・・・やったぞ・・・やったんだ・・・!!」


 ―本当に小さな火がぽっと明かりを灯していた。



 長年、思い悩んでいたこの体質。

 硬く閉ざされていた扉が重い音を立てて開くように。

 それは小さな灯火で大きな希望の光だった。


「ルークーーーーー!!早く戻ってこないとあんたのご飯食べちゃうわよーーーー!!」


 いつの間にかそんな時間になっていたようだ。


 構わない。

 今はこうしてこの光を見ていたい。

 風が優しくなびくこの空間に身を置いていたい。

 涙がほろりと落ちた。

 それを精霊はすくって飛ばしてくれる。


「ありがとう・・・」


 俺はこの日の事を決して忘れない。

 指先に灯る光の暖かさを逃さぬように、そっと胸の奥に仕舞う。


「ルーク・・・?それって・・・!?」

 

 クインがやっと指先に気が付いたようだ。


「あぁ・・・」

「・・・よかったね。本当によかった・・・ぐす・・・」


 こいつもまた、俺のことを心配してくれた人の一人だ。

 誰しもが嘲笑うこの体質を笑うことなく、相談に乗ってくれたあの夜のことは今でも鮮明に覚えている。

 

 ユアン、お前と出会えたことに感謝するよ。

 多分、まだ気恥ずかしくて伝えられないけれど。

 いつかまた、歳を取って酒でも飲んでいる時にさらっと言えるようになってれば良いなと思う。


「おっしゃああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 風吹く早朝、ルークの雄叫びが学園に響いた。



前話時間なくて急いで書いた結果、短いわ、シーナちゃんの可愛さ半減だわ

散々な結果でござった

絶対書き直す、決定事項です


はい

ルーク、やったね、よかったね!!


でもこの訓練、傍から見れば不審者だけどね!!


以下その後ちょびっと


「見てみろよ!!『火球』」


ぽっと明かりが灯る。


「おぉ~」

「まだまだ『火球』」


また、ぽっと点く。

それを繰り返していたのだが・・・。


「『火球』・・・あれ?」

「・・・怒ったんじゃない?」

「ちょっ!?ごめん!!風の精霊さん、ちょっと調子に乗りました!!すみませんでした!!」


 ルークは土下座をし、許しを請う。

 ただ、誰も居ない空間に土下座をしている為、滑稽な様子である。


「今日後一回だけお願いします!!一回だけ!!」


 その後、許して貰えたのか、指先に光が戻ったのは学園が終わった後である。

 その光をルークはいつまでもにやにやと見つめていたのだった。


ではでは~

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