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依頼 その三






 森から帰ってきて一刻、丁度昼食時である。

 しかし、マオとモーデルの話し合いはここからだ。


「マオウさん、あなたをここに呼んだのは・・・」

「依頼だろう?それも他の冒険者には聞かれたくない類のもの、もしくは危険な依頼とかな」

「・・・正解です」


 モーデルはもう『銀色』について驚くことはしないと決めた。

 彼はそういう存在だと考えたほうが楽だと分かったからだ。


「では内容のほうも・・・?」


 もしかするとという考えが脳裏を過り、物は試しとモーデルは依頼内容について気が付いているのかを聞いてみた。


「さすがに予想するには情報が足りなさ過ぎる」

「ですよね・・・」


 モーデルは少しホッとした様子を見せる。

 さすがにこれで分かるのであれば神か仏かはたまた悪魔か。

 いずれにしろ人外であろう。


「では・・・」

「まぁ、森のことなら見てきたがな」

「・・・」


 マオは人外ではないが、化け物と呼ばれたことがある。

 モーデルはもう話す必要はないのではと思い始めていた。


「・・・その通りです。今回、あなたに依頼したいのは森の異変についてです」

「詳しく聞こう」


 モーデルによれば―

 つい先日、マオが見たように森の魔獣が一斉に姿を消した。

 死体もなく、逃げたような痕跡もないのだと。

 

「このような事態は何百年前にもあったらしいのです」


 そのときも今回と同じく、魔獣が姿を消したらしい。

 らしいというのは何百年前ということで正確な資料が紛失しているからだ。


「何百年単位で繰り返されている事しか分かり得ていません」

「ふむ」

「現時点でジギンの森に魔獣が生息していることから見て、何時か魔獣は元に戻るのでしょう」


 しかしだ。

 魔獣を狩って生活をしている冒険者にとっては死活問題である。

 魔獣がいなくなれば獲物の取り合いから始まり、素材の高騰。

 素材の高騰によって、修理不足のまま狩りに出かける冒険者が現れ、死亡率の増加。

 組合にとって冒険者の減少は何よりも避けたい事案だろう。

 

 他にも問題はある。

 魔獣の素材によって作られる物は多い。

 皮は鞄などの袋類、肉は食用、脂肪は燃料、骨は武器から防具、内臓の一部は薬品として用いられる。

 魔獣によって支えられている産業にも影響が出る。


「故に迅速かつ正確に!!原因の排除が可能であれば排除をお願いしたいのです」

「なるほどな」


 確かにこの内容を冒険者や市民に知られれば、混乱は避けられないだろう。

 そして、原因が分かっていない今、半端な冒険者を送るわけにもいかず、何かと話題のマオに白羽の矢が立ったというわけである。

 マオによって原因が究明されれば何かと対処できるかもしれない。


「受けて頂けますか?」


 モーデルは若干の汗を掻きながら依頼書を提示する。


『受けようよ。楽しそうだし』


 今まで沈黙を保っていたユアンも後押しする。

 

(まぁ、元々受けるつもりであったがな)

『やったー!!』


 だが、易々と受けてやるわけにはいかない。


「報酬の交渉といこうか」


 そう、ここからが冒険者にとっての本番だ。

 報酬交渉は冒険者にとって必須技能である。

 値段を吊り上げ過ぎれば、依頼は他の冒険者に回され、提示報酬が低すぎれば苦労に見合った報酬であるかどうか判断し辛い。


「分かっています。報酬については金貨二枚を準備できています」


 金貨二枚といえば冒険者の平均月収と同じである。

 一度の依頼でこれだけの金額であれば破格といって差し支えないだろう。

 しかし、普通であればだが。


「それだけか?」


 今回の依頼は『銀色』に直接の依頼だ。

 階段で一階から聞こえてきた声の中に―彼が来るまで一、二を争う冒険者―という言葉があった。

 それはつまり『銀色』がコロギの中で一番ということ。

 彼にしか出来ない依頼をわざわざ相手の提示報酬で受けてやる義理はないのだ。


「・・・分かっていましたよ、ええ。三枚でどうでしょう?」

「・・・」


 マオは先ほどの質問のとき同様、沈黙を保つ。


「・・・金貨三枚と銀貨五枚」

「・・・」

「はぁ~、分かりましたよ。金貨五枚でどうですか?」

「いいだろう」


 最初の提示金額から二倍以上の吊り上げ。

 ぼったくりもいいところである。


「ではこの依頼書に名前をお願いします」

「・・・少し待て」


 ―何かおかしい。

 マオはそう感じた。


「・・・何を考えている?」

「何と申されましても・・・」

『どうしたの?さっさと書いて森に行こうよ』


 本来なら言いがかりも甚だしい。

 モーデルは二倍以上の金額を提示したのだ。

 これ以上何か問題でもあるのだろうか。

 ユアンはそう思うのだが、マオは違ったらしい。


「簡単に金額を上げ過ぎではないか?」

「それは一刻も早く事態の収拾を願っているからですよ」

「それだとしてもだ。金額の上がり方がおかしい」


 沈黙していただけで金額が上がるなら冒険者に交渉技術などいらない。

 一言三言話しただけでこれだけ金額が上がるのか。

 そんなはずは無い。

 普通は両者のギリギリ譲歩できる部分を探すのが交渉というものだ。

 

「あなたしかいませんので」


 モーデルはそんな甘言を放つ。

 そんな見え透いた手に乗るわけないだろうと、マオは真意を探るべく熟考する。


 今回の依頼を初めから思い出してみようか。

 魔獣が姿を消したのが事の始まり。

 この事柄は何百年単位で繰り返されている。

 原因の究明と調査依頼だ。


(・・・調査?)


「・・・なるほどな」

「・・・何がでしょう」


 調査依頼は本来、探求者にくる依頼だ。

 なぜ冒険者の『銀色』に来たのか。

 それに―


「お前は一度も原因の調査とは言っていなかったな」


 そう彼は原因の排除が可能であれば排除をとしか言っていないのだ。


「調査依頼ではなく討伐依頼。いや・・・護衛依頼(・・・・)といえばよいか?」

「・・・はぁ~」


 モーデルはがっくりと項垂れる。


「もう少しだったんですけどね・・・」


 今回の依頼は調査依頼兼護衛依頼。

 つまり、何人か分からないが探求者も、今回の依頼に当たるということだ。

 よって報酬も頭数で割るということになる。


「依頼達成後もう一度交渉の場を設けてもよろしいですか?」

「その時はきちんと報酬を出せ」

「はい・・・」

『お?おぉ~?』


 報酬交渉もマオの勝利に終わる。

 内容の殆どをユアンは理解していなかったが。


「でだ、一緒に出る探求者とは?」

「もうすぐ来るはずですよ」


 その言葉と同時に扉がコンコンと鳴る。


「来たようですね」


 余りにも狙ったような間である。

 モーデルは扉に近づき、ノブを回し探求者を中に入れた。


「初めましてです~。貴方が銀色さんですかぁ?私はミロというです。よろしくです~」


 その探求者は何とも間延びした口調でちんまりとした女の子であった。

一話目~

いつも通り突っ走っていくよぉ(間延び)

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