ユアン、冒険者に その四
前回のあらすじ
魔王様冒険者になったのがバレた。
早朝に依頼は張り出されることを聞いたユアンとマオは、今日中に依頼を受けることが出来ないことを悟った。
「依頼を受けれない冒険者は皆、魔獣狩りに行っていますが、ユアン様もどうでしょうか?」
「魔獣狩りかぁ」
「随時、魔獣の素材は受付中ですよ」
それは確かに魅力的な提案だ。
ユアン自体、未だ魔獣を見たことが無い。
自分の実力を試す意味でも狩りに出るのもいいかもしれないと考える。
しかし、先ほどの冒険者の話をふと思い出した。
確か、組合は『銀色』を探していたはずだと。
マオが『銀色』だと分かった今、彼の為ではないがどういう理由で探しているのか気になったのだ。
「ねぇ、職員さん」
「何でしょう?」
「さっき他の冒険者さんたちが話していたんだけど。何で組合は『銀色』を探しているの?」
「あぁ、それはですね―」
組合が『銀色』探している理由は単純で、出来れば偽名ではなく本名を教えて欲しいというのが一つ。
そして―
「受けて欲しい依頼が一つあるんですよ」
「受けて欲しい依頼?」
「見つからなければ他の冒険者に回すのですが・・・」
詳細は教えてくれなかったが、『銀色』としてここに来れば依頼がもらえるらしい。
ユアンの期待した感情をマオは感じ取った。
初めての依頼。
それに惹かれるのも無理はないのだろう。
『・・・後で戻ってくるか』
(うん!!)
先に冒険者になったことがバレてヒヤヒヤものだったが、結果的に依頼を受注出来る事になったので、ユアンの恨み言も減るだろうとマオは安堵する。
「でも、何で他の町に行ったと思わないの?」
マオがそんなことを考えている間も職員とユアンの話は続く。
勿論、後ろにも並ぶ人が居ないわけではないのだが、新人というのはそういうものだと先輩冒険者は知っている。
故にちょっかいを掛けてくる者は居ない。
例外は居るが・・・。
マオは先日『銀色』として組合を訪れたとき、侮られるかもしれないと思い、姿を変えたのだが、実はそんなことが起こるのは稀だ。
新人は先輩冒険者からすれば、宝石の原石だ。
育て、守り、助ける。
これをすれば、自分の危機にも同じ事をしてくれる。
こうして冒険者は回っているのだ。
その機会を潰すようなことをするものは少ない。
閑話休題。
それに、男性職員と話しているということも大きいのだろう。
女性職員ならば早くどけといわれていたかもしれない。
「衛兵に聞いても牛鬼討伐以来、外に出ていないらしいんですよ。それと入ったときの情報もないのがちょっと気がかりなのでそれも探している理由の一つですね」
つまり、『銀色』を探しているのは組合と衛兵ということだ。
確かに街に入るときはユアンが表に出ていたため、マオが姿を見せていない。
不法な手続きで街に入ったかもしれないと疑われているということだ。
こんなことになるとはさすがのマオも気が付かなかったのだろう。
若干初めての町ということに浮かれていたのかも知れないとマオは気を引き締めることにする。
(でもそんなに気を張ってばかりいると楽しくないよ?ゆっくり行こうよ)
『ま、そうだな』
結局、何がきたとしてもマオは対処できるので問題ないという結論に至る。
『最悪、魔法で記憶を消すか』
(それはどうかと思う・・・)
そんな話をした後、職員に礼をいいその場を後にする。
ユアンが職員から離れると先輩冒険者が話しかけてきた。
「よぉ、坊主」
どちらかというと彼のほうが坊主である。
髪の毛が無い意味で・・・。
「うん、僕?」
「おう、俺らと一緒に良ければ一緒に魔獣狩りなんてどうだ?」
その後ろには数人の冒険者がこちらを見ていた。
彼らも打算はあれど善意で言っているのだろう、マオは彼らに悪意がないことを感じ取る。
先輩は新人を導くべきという冒険者間の暗黙の了解というべきものを守っているのか。
されど今のユアンには必要が無い。
確かに顔つなぎは必要であろうが、それは今でなくとも良い。
今後、何度もここには足を運ぶのだから。
「ごめんなさい、これから用事があるんだ」
「何だ、そうなのか。残念だが仕方ねぇ。俺らは毎日ここに居るからまた今度一緒に行こう」
「うん、ありがとう。ところでいつもここに居るのって・・・」
「あぁ、依頼の争奪戦に勝てないんだよ・・・。お前さんも分かるときが来るぜ・・・」
仲間の冒険者らしき人たちも肩を落としている。
そんな彼らに申し訳ないなと思いながらも組合の外に出るユアンであった。
組合の外に出た後、邪魔にならないように道の端に寄り、マオと今からの行動を相談する。
当然、入れ替わり依頼を受けに行くと思っていたユアンだったが。
『まず、交代して依頼を受けてもよいのだが、魔獣に慣れるという意味でも今日は魔獣狩りをする』
とマオがいう。
いきなり、出鼻をくじかれた形だ。
「えぇ~、依頼が見てみたい」
ユアンは軽く不満を漏らす。
『銀色』に来た依頼ということを分かっている為、ユアンは自分がしたいとは言わない。
だが、依頼の内容、受注方法、報酬交渉など興味が尽きないのだろう。
先に依頼を見たいという。
しかし、マオは―
『依頼を受ける場面や報酬の場面は俺が受け持つが、依頼は貴様にやってもらうぞ』
「えっ?」
『助け舟は出すし、守ってやるから頑張ってみろ』
「いいの?」
『構わん、俺は別に依頼などどうでもよいからな』
「やった!!楽しみだなぁ~」
楽しげなユアンを連れ、二人はマオが牛鬼を倒したジギンの森へと向かう。
やはり、ユアンが楽しげだと気の緩みを感じてしまうマオであった。
二話目~
ちょっと時間が空いたけどごめんなさい




