ユアン、冒険者に その三
「書けました」
「・・・はい、大丈夫です」
ユアンは職員のお墨付きを貰い、安堵する。
「組合についての説明は必要ですか?」
「はい、お願いします」
職員は頷き、手元から一枚の紙を出し、紙に書かれた文章を一文一文なぞりながら説明をする。
「まず初めに言わなければならない事があります。組合はあくまで仲介人でしかありません。仲裁は行わないのでご理解くださいね」
その文章は一番上に大きく書かれていた。
その文が成す意味とはつまり、組合は冒険者に依頼を提示するが、依頼者と冒険者の間で起こった問題は感知しないということだろう。
依頼者に直接依頼されることも冒険者間ではよくあることだ。
それも全て対処している時間も労力もないのだろう。
更に何を仲裁しないと明記されていないということは冒険者同士の揉め事も組合は触れないのだろうか。
気になったマオはユアンを通し、聞いてみた。
答えは案の定―
「はい、感知いたしません」
だった。
「ほかにご質問がなければ次に行かせて頂きますね」
次の項目は冒険者と探求者と書いてある。
「私たちは冒険者組合と銘打っていますが、探求者にも依頼を振り分けています」
探求者とはその名の通り、探求する者である。
冒険者は未知なる物を求めて、冒険するのに対し、探求者は冒険者が進んだ場所の調査や究明を主にする。
つまり、その場所の植生や生物の生態系を精査し、組合に伝える。
そうすれば、依頼者がその場所で取れる物を冒険者に依頼する。
こんな形が取られているのだ。
組合の利益はこういう依頼者に情報を渡すような所から生まれているのだろう。
勿論、これ限りではなさそうだが。
「僕は冒険者になる予定だから関係ないね」
『ま、そうだな。【七つの異観】など冒険の代名詞といえるだろうしな』
「そうでしたか。冒険者は探求者に比べて危険が多いので気をつけてくださいね」
こういう職業は全て危険なのだが、冒険者のほうが確実に危ない。
未知に挑むのだから当然であろう。
また、探求者は基本的に研究馬鹿なので戦いに不慣れなものが多いのも、冒険者が危険だというしわ寄せが来ているのだ。
「もう一つ特別な職業がありますよ?あなたぐらいの人達はこれを選ぶことが多いんですが」
そういって提示されたのは討伐者という職だ。
「これは?」
討伐者といってもしっくりこない。
魔獣を狩るのは冒険者が多いため、討伐者という職をわざわざ作る必要はないはずだ。
「これは討伐者、つまり魔王を討伐してもらう職です」
「魔王を・・・」
『・・・討伐?』
なるほど、平人側からすれば魔人は敵国だ。
その先導者を叩くのは道理である。
しかし、勇者ではないものを送り込んだ所で無駄死にということは、組合も想像できているはずではないのか。
そんなことがマオの脳裏を過る。
ユアンも一般人に魔王が倒せるのか疑問だったのか。
マオと同じような反応を示した。
「まぁ、殆どは後で現実を知って冒険者もしくは探求者になるんですけど」
『だろうな』
元魔王からすればそんなに容易く殺されては魔王としての格が下がると考えている。
職員の言葉に若干の安堵を感じたマオであった。
「ですがたまにいるんですよね。続ける人」
「その人達は・・・?」
「大抵が遺体となってご家族の元に送られます。むしろ遺体すら残ることが稀です」
そういう平人は魔人領で死に逝くのだろう。
魔人がわざわざ平人の遺体を送るなんてことも、埋葬することすらしない。
風化し、地に返るだけだ。
「まぁ、冒険者志望のユアン様には関係がないのでしょう。では次に行きますね」
確かに魔王と友達であるユアンには全く無関係な職ではあった。
職員の指にもう一度視線を戻す。
「依頼の解約についてなのですが、解約金さえ払って頂ければご自由に可能です」
『ふむ』
「そして、依頼の受注から期限が過ぎた場合、多少の猶予はありますが冒険者死亡、もしくは失踪の疑いありということで勝手に解約させて頂きます」
死人なんぞ幾らでも出る職だ。
それに構っていられるほど、組合も暇ではないのだろう。
依頼が解約されれば他の冒険者に回すことも出来る。
需要に対し供給が間に合っていない状態。
つまり簡単に言えば、替わりなんぞ幾らでも居るから別に構わないということだ。
しかし、この事にユアンもマオも疑問を抱く。
「でも重要な依頼とかはどうするのさ?」
ユアンの言うことは最もである。
重要な依頼もそのように解約を何度もされては堪ったものではないだろう。
「あぁ、それには他の説明を先にする必要がありますね」
そういって職員が取り出したのは別の紙だ。
「組合は冒険者を格付けなどしません」
それはそういう誓約書みたいなものであった。
組合の理念というべきか。
一、冒険者、探求者、討伐者には平等に接すること
二、職務を全うし、いかなる偽り、捏造を拒むこと
三、それら―
とずらずら書かれている。
組合の人間は全員覚えているそうだ。
大変である。
「この一番上の平等という言葉通り、区別も差別もいたしません」
断言する彼の目はためらいの無い瞳をしていた。
「でも他の人が言ってたみたいに二つ名・・・だっけ?受付の女の人も使っていたよ?」
受付嬢も『銀色』様と言っている人が居たのをユアンは覚えていた。
平等と言うなら二つ名などで言わず、名前で呼ぶであろう。
そう思ったからこその質問であった。
「そうですね・・・何から説明いたしましょうか・・・」
彼の話によれば、上級冒険者や二つ名などは冒険者間で使われる言葉であって、組合内で決めたわけではないそうだ。
冒険者の中で有名になれば上級や二つ名などが付くらしい。
自称するものも居るそうだが、殆どは自分がそう呼ばれていること知らないのだとか。
「先ほどの話に戻るのですが、彼らが言う上級冒険者と呼ばれる人達に重要な依頼は優先的に回し、受諾して頂く形を取っています」
確かにそれなら安心だが、別の問題が浮かぶ。
「それって平等・・・?」
優先的に、と言う言葉は確実に平等ではない。
平等を掲げる組合がそれでいいのだろうか。
平等と言いながら優先するという矛盾が生じている。
しかし、職員はそれに対する答えを持っていたようだ。
「冒険者からの希望です」
「?」
「まぁ・・・、単純にその方がやる気が出るらしくて・・・」
『・・・なるほど』
マオが呆れたような言葉を漏らす。
単なる筋肉馬鹿の集まりと言うわけだ・・・。
深く物事を考えず、やる気が出るからと言う理由でそれを組合にしてもらう。
それも、組合が実行している所から彼らの陳情(?)が多かったのだろう。
「それと職員が皆『銀色』様と言っていたのは彼が偽名を使っていたからですよ」
「偽名・・・?」
偽名など自己申告でもしなければ分からないはずなのだが、何を持って偽名と判断したのだろうか。
その疑問を彼にぶつけてみると、答えはすぐに分かった。
そして『銀色』が誰なのかもユアンは気が付くのであった。
「だって、名前の欄に『マオウ』って書いてあったんですよ?魔王がこんな所に居るわけないじゃないですか。誰だって偽名だって分かりますよ。その人はね、銀色の綺麗な髪の毛をしていまして。それで皆『銀色』といっているんですよ。それ以降来ないので名前も分からずじまいなんですよ」
職員はクスリと笑う。
「・・・」
『・・・』
「・・・マオ?」
『・・・』
「・・・」
『・・・』
マオは沈黙を貫き、ユアンは男性職員の笑いに合わせ、苦笑いを顔に浮かべる。
(後で話し聞かせてよ?)
後でマオと話すことを決心するのだった。
ちょっと接待で酔っ払ってます、ごめんね(予約投稿なんで土曜日の話)
一話目です
本日(日曜日)買い物があるので次の投稿は16時かな?
ごめんなさい




