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少女 シーナ



 



 俺は彼女を愛してしまった。

 後悔など微塵もない。

 逃げるなんてそんなことできるはずもなかった。

 ただ彼女が願ったのだ。

 娘と逃げてほしいと。

 分かっていたことだった、彼女と俺が結ばれるなど甘い現実がないことは。

 ただ、何度過去に戻ろうと、どれだけ娘に業を背負わせることになったとしても何度でも彼女を愛してしまっただろう・・・




 朝、太陽が顔を出し始め窓から差し込む光が少女の顔に当たる。

 その光に目を顰め目を覚ました少女は窓を開け放つ。

 小さな欠伸と共に澄んだ空気を肺に入れるとようやくその半眼が大きくなった。

 欠伸によって潤んだ瞳を擦りながら顔を洗うため部屋の外に出る。


 まだ幼い少女がこんなにも早く起きるのには理由があった。

 少女の家族は父親ただ一人である。

 少女がまだ赤ん坊だった頃、西からこのケルト村に移住してきたらしい。

 らしいというのは少女が物心付く前だったというのと、父がこの事について話を避けるからである。

 それはともかく、その父だが朝に弱いため、たった一人の家族である少女が父を起こさないといけないのだ。


コンコン

 少女の部屋から右斜めの部屋の扉をノックする。

 当然のごとくそのような小さな音では起きないので返事も聞かずに中へと入る。


「お父さん、朝だよ。お仕事だよ!・・・・・・むぅ、起きない」


 毎朝のように起こしているがこれでは目を覚まさないと分かっている為、次の段階に移る。


「えいっ!」


 ばっと布団を取り上げる。

 何時もならこれで目を覚ますのだが


「ぐが・・・・・・・・・・・・・・・ぐぅ」

「起きない・・・」


 全く起きる気配がない。

 そろそろ起きてもらわねば仕事に遅れてしまうと危惧した少女は最終段階へと移った。

 部屋を出てしばらくし部屋に戻ってきた少女の手にはバケツ。

 そして・・・


バシャ


「うお・・・、う、うえっくしょん!!」

「おはよう、お父さん。朝だよ?」

「ああ、おはよう。シーナ」


 水をかけられた父―ガットはびちゃびちゃの髪をかき上げ、申し訳なさそうな表情で娘のシーナに挨拶を返した。

 もう何度もされていることなので怒りというよりは面倒をかけてすまないといったところだろう。


 二人は部屋の水を掃除した後、シーナは水汲みガットは食事の用意をする。

 この村に来て、シーナが五歳のときから二年以上続けている分担はすんなりと終え、食事に移る。


「シーナ、昨日はどうしていたんだ?友達と遊んでいたのか?」


 優しげな表情で娘に質問する。

 その言葉は毎朝行われている報告会のようなもの。


「・・・う、うん。丘の近くで遊んでいたよ」

「そうか、それは良かった。今日はどうするんだ?」


 少し詰まるシーナに気が付かない振りをして、いつもの食事が終わる。

 何時もなら洗い物を済ませ、ガットは仕事に行くだろう。

 だがその日はシーナの目線にあわせるようにしゃがみ声をかけた。


「どうしたの、お父さん?」


 真面目な顔の父にシーナは少し戸惑いを見せた。


「シーナ」


 大切な話だろうとシーナは目を合わせる。


「人と関わりなさい。輪を広げなさい。手を取り笑いなさい。そうすればきっとシーナを愛してくれる人が増えるから・・・」


 ガットはシーナの抱える問題に気が付いている。

 シーナはぐっと本心を押し殺しうなずくだけにした。


「うん、じゃあお父さんは行ってくるから」


 いつもの言ってらっしゃいの言葉が聞けず苦笑しながらその場を後にした、父を見送り部屋に戻ったシーナは、自分の部屋の鏡の前に立った。

 そして自分の姿を見て、幼い少女には似つかわしくない暗い笑みを浮かべた。

 その笑みに自虐的な意味が含まれていたことを知るのは鏡の中に立つ『左目だけが赤く』灰色の髪をしたシーナ本人だけであった。



 どれだけの時間がたっただろうか。

 父が何処からか借りてきてくれる本を部屋でじっと読んでいたシーナはふと先ほど父がいった言葉を思い出す。


 自分の姿が周りの人とは違うことをシーナは知っていた。

 左だけだったとしても魔人特有の赤い瞳、父の様に白く無い灰色の髪。

 どれもこれもシーナは大嫌いだった。


(誰が私を愛してくれるのだろうか・・・)


 もう癖になってしまった自虐的な笑み。

 だが父の言葉に少しだけ希望を感じたことも事実だった。


(もし・・・)


 もし好きに、愛してくれる人がいるのだったら。


 過去に一度だけ外に出ただけの少女は父しか関わる人がいなかった。

 それゆえに情に飢えている。

 人情、友情、そして父以外からの愛情。

 周囲の七歳ほどの少女が当たり前のように享受しているそれをシーナは持っていない。

 欲して何が悪いというのか。


 気づけばシーナは扉に手をかけ本を持ち、外に向かって歩き出した。

 少しの希望と不安を胸に抱え、中央通りへと向かっていく。


 その先には辛く厳しい現実と一人の少年との邂逅が待っていたことを後に知ることとなった。



 メリークリスマス

皆さん如何様にお過ごしでしょうか?

家族でしょうか?友達でしょうか?それとも恋人でしょうか?

いいですねぇ、楽しんでくださいね

ん?私ですか?

パソコンの前に座って動画見てますよ

一人でね・・・

それはともかく、本当はクリスマスSSか何かを書こうと思ったのですが(本編書けよ)主要キャラクター出てきていませんしね、やめました

来年続いていれば書きたいなぁなんて思ってます

では皆さんよいクリスマス、年末年始お過ごしください


ちなみに次の話はユアンが魔王を自覚するお話と魔王の持論を予定しています。

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