現魔王様に報告 その二
「―最後にコロギという最西端の町に潜入させているユール・フルール氏よりご報告でございます。親愛なる王よりご命令されていた苛烈思考を植えつける策に関しましては、上司より成功とのご報告を頂いております」
卒業生が王都の役員に付いたり、最前線つまり国境警備兵に付き、その後の経過を観察した結果。
魔人に対する嫌悪感や負の感情が内に燻っているのが見て取れたのであろう。
王はその報告に満足げに頷く。
しかし、臣下が続きを読み上げるにつれ、眉間に皺が寄り、目尻が釣り上がるのを臣下は見ていた。
「コロギの町に際しまして、魔人国にとって由々しき事態となる存在の確認をいたしましたことをご報告させて頂きたく思います。その者は神話で語られるであろう魔法を使用。時間や空間に干渉していたことであります。目にしたわけではありませんが、蘇生なども可能であろうかと・・・。これは・・・」
「早く続きを読め」
「は、はい」
エンビィの声に険が含まれることを感じた臣下は詰まらぬ様、気をつけながら読み上げる。
「その者と接触したところ、恐れ多くも親愛なる王に匹敵するほどの死を予感した次第であります。幸いなことに彼は魔人に対して興味があったようでこちらの情報を、少しばかり流したところ此方にも有益な情報を流してくれたとの事です」
「・・・」
此方の情報を流したというところでエンビィがピクリと反応する。
当然だろう、情報の流出は禁忌である。
それも諜報部隊に在籍していながら、情報の価値を分かっていないのかと憤慨するのも当然である。
しかし、報告の途中である為、エンビィは押さえたのであろう。
漏れ出る怒気は臣下に冷や汗を流させたのだが。
「か、彼によると『平人に勇者が現れた』と『先王を凌駕する可能性あり』と。彼女自身、その男が勇者である可能性を示唆しております」
ここでエンビィの我慢の限界が来たようである。
いや、一つの単語が彼の感情の起爆剤となった。
先王を凌駕、その言葉が彼の信仰を汚したのだ。
「ふ、ふざけるなぁああああああああああ!!!!!!」
「ひぃ」
「あの方を凌駕するだと!?親愛なるあの方を、私が崇拝するあの方をっ!?殺してやるっ!!肉片一つ残らず滅してやろうかっ!!地に返った後もその地ごと滅ぼしてやろうかっ!!」
過去の先王を信仰するエンビィにとってそれは禁断の言葉であった。
あの強大であったあの方に敵う者はいない。
彼の中での先王は過去の先王なのだ。
嗜める事のできる者は周囲に居らず、自分が治めなければならないのだと臣下は思う。
しかし、臣下にできることなど限られていた。
すなわち、報告の続きを読み、早く退出することである。
怒気に晒され、声を震わせ、涙ながらに読み上げた。
新人の彼には非常に酷な事であったであろう。
「そ、その、男が・・・王に伝、伝えたい言葉が、あるとの事で・・・あ、あります・・・。『次に我が魔人国に入った時、内戦がまだ続いていたのであれば、貴様と反乱者の胸に先代と同様、銀光を送ろう』と」
「・・・なんだと?」
「ひぃ」
先ほどまで怒りに震えていたエンビィがその言葉でふと止まる。
今の今まで平人の国を単独で滅ぼしに行こうとしていた彼が止まるような言葉であったのだろうか。
臣下は自分の読み上げた内容すら分からないほど混乱していた。
「あの場にいたのは・・・私とあの方と冒険者だけであったはず・・・。私以外の存在は死している・・・」
エンビィは頭の中であのときの光景を探り出す。
―見ていたものがいたのか?
―もしかすると記録師がいたのであろうか?
さまざまな憶測が浮かんだが、それが一番有力であった。
記録師とは勇者が英雄になる瞬間を修める為に平人国が国から派遣する役職のことであった。
戦闘には参加せず、唯、英雄の偉業を記録し、王や民衆に広め、後世に名を残させるための役職。
その役職にエンビィは思い当たる。
しかし、それ以外の疑問が浮かび上がってくるのだ。
あの先王がそのように強大な力を持った存在を見逃すだろうか?
そもそも記録師に力のある者を選ぶであろうか?
「その者とユール・フルールは連絡を取れる間柄なのだろうな?」
「・・・わ、わかりません」
「その者の動向を監視しておけ。必ず尻尾を掴んでみせる」
「そ、そのように」
エンビィは臣下にそれを命じると、汚された過去の記憶を浄化する様に、またその中に身を沈めるのであった。
かくして、エンビィはマオやユアンの存在を現状、見守る事を選ぶ。
内戦に関してのマオの言葉を無視したツケは、今後重く圧し掛かることをこの時点のエンビィに気が付くことは出来ないのであった。
なんかこの作品、不憫な子多すぎないかな?
ユールしかり、臣下君しかり、ちょっとネタばれになるかもだけどシーナちゃんも不憫ヒロインな予定なんだよねぇ・・・
本当は一つにまとめようと思ったけど長くなったので二分割した報告会でした
臣下「・・・いたた、胃薬あったかな?」
マオ「ほい」
臣下「ありがとう・・・ん?今誰から貰ったんだ?幻覚でも見るほど疲れてるのかな・・・?」
ではでは~




