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会話しましょう その一

前話であれだけルビ振りしていたらユール=ビュールてっことは分かったと思うので

今回は一回だけで


遅くなってごめんなさい!!






 月明かり。

 まだまだ夜が明ける気配はなく、ただ静寂と闇が街を支配する時間。

 人々は夢の中に沈み、思い思いの幸せな時間を過ごしているだろう。

 それはコロギにいる住人も学園に通う生徒、教職員も同じであった。

 ・・・唯二人を除いて。

 

「まぁ、怯える必要はない。私の質問に答えるのであれば何もしないし、そちらにとってもいい話をしようじゃないか」

「・・・」


 当然それは、今までのことは何もなかったかのように言うマオと虚ろな表情で何か大切なものを諦めたユール(ビュール)である。

 

「長くなるのだから座ったらどうだ?」


 魔法で地面を隆起させ作り出した机と椅子。

 長話となることを考えたのか同じく魔法で作り出したであろう杯には、どこから生み出したのか、澄んだ水がなみなみと注がれている。


 ユールは迷わず座り、水が注がれた杯と手に取り、一気に呷る。

 どうせどこにいたとしても捕まるのだし、彼からすれば自分のような矮小な存在を毒を使って殺す、という迂遠な方法をとらずともすぐに殺せるのだと、ある意味開き直りが故の行動であった。

 しかし、マオはその行動に満足したのか、にやりと笑い頷く。


「まず初めに聞きたいことはな・・・」

「その前にいくつか教えて欲しいのだけどいいかしら?」

「うむ、構わないが?」


 ユールは許可を貰い、指を一つ立て質問する。


「一つ目はどこで私が魔人族だと気が付いたの?二つ目はなぜあの少年を庇ったの?」


 あの少年とはユアンのことだろうとマオは考える。

 指を三つ立て、ユールは質問を続ける。


「三つ目は転移魔法とは違うって言ってたけれど、どういうことかしら?場所を移動するのは過去の勇者が使っていた転移魔法でしょう?後、最後に・・・あなたは何者?同郷の者って言ってたけれど、それじゃあ、あの子を守った理由が説明付かないし・・・。平人の見た目に魔人以上の強さ・・・」


 本当に聞きたいのは最後なのだろう。

 質問が多いななどと感じながら、マオも聞きたいことが多いので対価と考え、答えることにする。


「どこでといわれればこの街に入った瞬間であるな。個人を特定したわけではないが学園に存在していることは確認していた」


 勿論、真実を全て話すわけではない。

 嘘と真実を織り交ぜ、隠したいことは隠す。

 それは諜報部隊であるユールも理解しているだろう。

 しかし、そこから情報を精査し、吟味するのも彼女の役目だろうと考え、自分の思うように答える。


「近づけばそいつが魔人であるか否かぐらいの判断は付く」

「近づかれた記憶がないのだけれど・・・」


 当然、マオはユアンの中に殆どいたわけで、気が付くはずもないのだが・・・。


「貴様の発言や授業内容などから部隊の予想を立て、記憶を探り、ユールという名前が浮かんだわけだ」

「発言や授業内容でばれたって事は私の任務も知られてしまっているということね・・・。本来なら自害しなければならないのだけど・・・」

「させるわけがなかろう?」

「でしょうね・・・」


 ユールの任務はマオの予想が当たっていた。

 彼女の発言の中に平和主義らしき発言の後、苛烈思考の解決策を持ち出す。

 そんな矛盾した内容に何の疑問を抱かない生徒。

 魔法で誘導して徐々に苛烈な思考に意識を向けようとしていたのだろう。

 ユアンやルークが訴えた不快感の正体はこの魔法であったと考えられる。

 勇者に関係する二人だからこそ、魔人の魔法に抵抗できたわけであって、クインは優秀であっても勇者に関係していないのだから魔法に掛かってしまったのである。


 実技の授業にしてもおかしな点があった。

 魔法というのは想像に大きく依存する。

 ユールの授業ではその想像を抑圧する節があった。

 例えば、『火球』の魔法。

 彼女が出したのはただの赤い球だった。

 想像とは不便なもので、一度『火球』はこれですといわれれば、次からもそれを頭の中に浮かべてしまうのだ。

 新たな想像を生み出すこと抑制してしまうのだ。


「実技の方は次代を担う生徒の実力を低くし、平人全体の戦力の低下を見込んだものだろう。しかし、発言のほうの目的がいまひとつ自分の中でしっくり来ないのだ」

「苛烈思考を植えつけてどうするのかって事かしら?」


 植えつけることで何か先のことを見据えているのかと考えたのだが、なかなかにうまくいかなかった。


「苛烈思考を植え付け、戦争を助長することぐらいしか思いつかん」

「それで正解よ」

「ん?」


 ユールの話に由れば、今現在魔人と平人は大規模な戦闘は行っていないらしい。

 平人族の今代の王は戦争に否定的であり、過去の戦争の消耗を回復するべく、経済を回す事に専念しているとの事であった。


「つまり、生徒が卒業後、重役に付く事で苛烈な思考から戦争を起こす事を望んでいるのか?」

「そうよ」


 それは何とも気が長い話である。

 確かに魔人の寿命は平人の何十倍もある。

 だがこんな迂遠な方法をとらずとも良いはずだ。


「今代の王を殺し、魔人が殺したと触れ回ればよかろう?」

「勿論それもしているし、他にもいくつか策は実行しているの。今のところ王を殺せたという連絡は来ていないから私の任務は続行中なのよ」


 ユールは魔王直轄だ。

 つまり、保険というべきか何重にも罠を張り巡らしているのは今の魔王ということになる。

 マオの頭の中には一人の魔人の顔が脳裏を過る。

 しかし、それを振り払い、誰しもが疑問に思うそれを頭の中に浮かべ、聞いてみる。


「何より自分達から攻めればよかろう?別に戦争がしたいのであれば待つ必要はないのではないのか?」

「そう簡単にいかないのが今の魔人国の現状よ」

「ふむ」


 平人の国からマオはいまだ出ることが叶っていない。

 故に、国の情勢など分かるはずもないのだ。


「魔人国は今、二つに割れているの」

「ほう」


 面白そうだとマオは思う。

 だが、ユールのような立場の人間が赤の他人に任務や国の事情を話してよいのか疑問である。

 それを本人に聞けば―


「魔人の殆どが知っている内容だし、黙っていてあなたの機嫌を悪くするより話してこちらにも有益な話をしてくれるって言う言葉を信じたほうが合理的だと思ったのよ」


 ―との事だった。



「話を戻すけど、現国王派と前国王派に分かれているの」

「なるほど、ということは前魔王は今代の魔王に殺されたわけか」


 魔王になる条件の内、非常に面倒な方を選んだものだなとマオは思う。

 なぜなら当時の魔王が善政をしていたのならそれに従う者も多かったはずである。

 安定を捨て、改革を望むのは少数に限られると考えられるのだ。

 英雄を殺し、魔王になればそれは讃えられるが、魔王を殺し、魔王になれば同族殺しの魔王となってしまう。 

 過去の自分と同じ前魔王と今代の魔王(・・・・・・・・・)に若干の親近感を抱く。


「今、国は二分され内戦間近(・・・・)なのよ・・・」

「なに?」


 内戦と聞いたマオの空気がぶわりと変わる。

 ユールを脅すために出していた圧力とは比べ物にならないほど、濃密で深く重い圧。

 それは周囲の景色さえも歪むほどの大きな力。

 何が地雷だったのかユールには分からない。

 しかし、今度は逃げる余裕すらなく、椅子に座っている自分の体が地面に沈んでいく錯覚を覚える。


「ひっ」


 ユールが目の前で涙を流し、怯えているにも関わらず、マオは気に掛けず思案している。

 その間も圧力が消えることなくユールを襲う。

 

「・・・今代の馬鹿野郎の名前は何だ?」


 馬鹿野郎とは王のことを言っているのだろう。

 マオの言葉は先ほどまでのユールを気遣うような表情は鳴りを潜め、険しい表情で静かに呟く。

 早く言わなければ殺されると感じたユールは怯えながらその名前を口にした。


「エ、エンビィ、エンビィ・ポートレス様・・・です・・・」

 

 と。


 それは過去、マオの胸元に銀光の刃を突き刺した元副官の名前であった。




今日帰ってきたの朝五時でしたの・・・

二日酔いで遅くなったの(言い訳)


許してください


ではでは・・・

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