情報源 その三
手抜きサブタイまだ続く
「・・・え?」
現状に対しての理解が追いつかなかった。
街の壁を越え、街道を駆け抜け、森に潜み、体を休めようと目を閉じれば街の中に戻ってきている。
ユールは自分の思考が正常なのか疑う。
いや、正常ではないのだろう。
何せ、消耗していたはずの|内魔力が回復しているのだから《・・・・・・・・・・・・・・》。
「ふむ、実験は成功か」
実験。
目の前の化け物はニヤニヤと笑い、そんな言葉を言い放つ。
「やはり、この体は魔法に関してすばらしい効果を発揮する。試作段階だったのだが一発で成功とは・・・、いやはや驚きだな」
「ひ、人を実験に使ったの・・・?」
人体実験は忌避されるべき物である。
常識を持つ者なら例え、敵であろうと手を出さない実験。
それをなんでもないように笑う化け物は狂っているとユールは思った。
「なに、勝算はあった。少しばかり歴代の勇者の魔法に興味があってな。この町に来た初日にそういう本を買い求めたのだ」
そう、ユアンが倒れている間に稼いだ金銭で歴代勇者の使用した魔法という本を買ったのだ。
そこにはさまざまな魔法が書かれていた。
「勿論、詳しく魔法陣なんざ書かれていなかったが、それでも何とか再現が出来たのだ。そこから発展させるのを苦労したがね」
「そんな・・・、おかしいわ!!」
恐怖心から病的なまでの興奮をユールはマオにぶつける。
自分の予想が外れることを祈って。
「勇者の魔法は現実ではありえない魔法の数々があったのよ!!代表格の転移魔法や空間魔法なんて神話の域・・・それを再現?笑わせないで!!それこそ先代の魔王様を凌駕する偉業よ!!」
先代の魔王とはそんなにもすごかったのかと、内心ずれた事をマオは考える。
しかし、ユールは忘れているのだろうか。
それとも気が付かない振りをしているのか。
後者だろう。
なぜなら―
「しかし、今まさに体験しただろう?」
「―!?」
遠い森から学園に戻された事実を告げられ、絶句している。
「転移・・・魔法・・・?」
「ふむ、そう見えてしまったか?しかし違うのだよ」
「そんな・・・そんなことって・・・」
「聞こえていないのか?」
絶望。
この言葉が今のユールの心境に相応しい言葉だろう。
マオへの恐怖と死を予感させるこの状況にユールの心にヒビが入る。
「む!?まずいな」
マオはユールが狂いかけていることに気が付く。
マオとしても貴重な情報源が壊れるのは不本意であるし、何よりも同郷の者が人として生きていられなくなるのは非常に目覚めが悪い。
魔力を解放したのは少しばかり脅し、口を軽くするつもりの行動であった。
それが裏目に出てしまった結果である。
「う”あ”ぁぁぁあああああああああああああ――」
内魔力の塊がユールの内側からどろりと溢れ出てくる。
このままでは致死量に達してしまうほど濃密な魔力。
八次席とは言え、さすが魔王直轄といえるだろう。
魔力の奔流は魔法に形を変えるでもなく、砲弾のように凝縮され、鈍い煌きを放っている。
そしてそれは準備を終えたようにその場に固定され、マオに向かって放たれた。
一直線に飛んでくる魔力をマオはその場から動かずにじっと見やる。
マオは自分の魔法に絶対の自信はある。
発動さえしてしまえばユールのあの状態も何とかなるだろうと考え、目を閉じる。
しかし、今日初めて行使した魔法ということもあり、若干の緊張を抱きながら、その魔力の砲弾を我が身で受け止めるのであった。
◇
地響きがコロギの町に広がる。
だというのに誰も起きる気配がない。
そのことに気が付く余裕はユールにはなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
魔力を限界まで使用した疲労感によって肩で息をする。
体力も魔力も平人に勝っている魔人がここまで疲労の色を見せるのは珍しい。
しかし、それも仕方がないことだ。
彼女の前にはかつて学園があったとされる更地が広がっているのだから。
ユールの魔法のせいだというのは説明の必要がないだろう。
「やったの・・・?」
全力の一撃にはさすがのあの化け物も耐えられなかったのだろうか。
周囲にあれの濃密な存在感は綺麗さっぱり感じなくなっている。
「はぁ~・・・」
魔力消費の疲労倦怠感と化け物が放っていた圧力から解放された安堵感でユールはその場にへたり込んだ。
―もう大丈夫だろう。
―もう怯える必要はない。
「ただ、どうしようかしら・・・。これ、ばれたら上に怒られるわよね・・・」
ある意味任務には成功し、別の意味では失敗したこの現状を見て、ユールはため息を付く。
「仕方ないわよね・・・はぁ~」
上司よりも恐ろしい存在を目の前にし、生き延びた彼女に今更説教など怖くはない。
唯、面倒だと感じ、目を閉じた瞬間。
あの声で耳元に囁かれた。
「―お前は学習能力がないのか?」
と。
ユールは目を見開き、恐怖に身を震わせる。
そして今度は何が起こっているのか目にする事が出来た。
更地になったその場所で時間が巻き戻るように石畳や木々、建物が形を作り出す。
抉れていた地面は浮き上がり、建物の破片は収束し、元の形に戻る。
そして最後にはあの恐怖の権化、非常識の塊が姿を現した。
魔力の砲弾を受けるその前の状態に戻ってだ。
「魔法を発動しなくても死ななかったであろうが、我が身での実験結果も得られたことだ。感謝しよう」
「もう・・・むりぃ~・・・」
ユールは考えることを放棄する。
どう足掻いたところで目の前のこれから逃げられないと悟ったのだ。
情けない声と表情を晒し、本来自害すべき身であることも忘れ、項垂れる。
「何とか心が壊れるのは阻止できたか?」
なんとも的外れな言葉は彼女の耳に届くはずもなく、闇夜に響き渡るのであった。
さン話め~
連投稿するなら一つにまとめろよというお言葉は聞きませぇ~ん。(耳を塞ぎながら)
短いほうが読みやすいでしょう?




