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情報源 その一








 ――は後悔する。

 何がこの化け物(・・・)の琴線に触れたのか。

 ――の行動はそれには何ら関係のない行動であったはずなのだ。

 理由すら分からぬまま、恐怖で体が竦み、悪寒が全身を舐める。

 体中に本能で逃げろと警鐘が響いているのにも関わらず、動くことをそれは許可しない。

 呼吸は自然と浅くなり、もう見つかっているにも拘らず、目の前にいる化け物の視線から逃れようと身を縮めるしか――には出来る事がなかった。

 それが何か言葉を放っているが、――には聞こえない。

 人の皮を被った化け物が人の言葉で――に話しかけるのだ。

 ――は思う。

 こんな者が存在していいはずがない――。

 これでは我らが王よりも――。

 と。

 本来、不敬な言葉を異常をきたしていた思考が思い浮かべてしまう。

 ――は余程、余裕がないのだろう。

 

「―確か、魔王直轄諜報工作部隊第八次席ユール・フルールと言った方が良かったか?私は記憶力が良いほうなのだ。同郷の者の名前は昔に全て覚えたのだよ。しかし、歳のせいか思い出すのに時間が掛かってしまっていかんな」


 ――は自分の名前を呼ばれたその瞬間、ビクリと肩を震わせてしまう。

 所属部隊からは考えられない反応だ。

 素知らぬ振りをしていれば、良かったのだろうか。

 今、正常な思考が出来ぬ――にはその判断すら覚束無い。


 ガチガチと歯が音を立て震える。

 その音が――を現実へと呼び覚ます。

 

 ――は自分の役目を放棄する行動と分かりながら人目も憚らず内魔法(・・・)を使い空へと駆けた。

 それは長い夜の始まりの合図であった。





「もう!!何で僕が怒られないといけないのさ!!」

『面倒だろう?』


 教員に呼び出されたマオはすぐに中に引っ込み、ユアンを生け贄とした。

 説教を受けるのが面倒という理由で。

 当然、いきなり表に出されたユアンは驚き、抗議しようとしたが、マオのことを他人に言えるはずもなく、不満顔で説教を受けたのだ。

 小さく呟いた、僕、関係ないのに・・・という言葉が聞こえたのかどうかは分からないが。

 太陽が地平線に差し掛かる時間帯まで教員に拘束されたのだった。

 ほとんどの学生は実技後、すぐに寮へと帰って、思い思いの時間を過ごしていたはずだ。

 それが外に出てみればこの時間。

 今日予定していた冒険者組合に行くことと、衛兵に街で滞在する許可を貰いに行くことが出来なくなってしまった。

 ユアンの心境は複雑であろう。

 自分の事を思って行動してくれると信じた結果がこれなのだから。

 因みに、罰として中庭の修理(魔法を使えることが分かっている為)、そして修理が終わるまで座学の授業準備の手伝いを言い渡された。

 もちろん、マオがやるはずがないのでユアンが受け持つ。


『修理は俺がやるじゃないか』

「それ以外もやってよ!!」

『拒否権という魔法を発動しよう』

「ひどい!!」


 そんなマオ攻勢のやり取りをしながら寮に向かう。

 罰のことを考えるのは明日にしようと、勉強が嫌いな学生が宿題を先送りにするような事を考えるユアンであった。



 自室に戻るとルークはいなかった。

 自前の槍が無い事を見るに、訓練にでも行っているのだろうとユアンは予想する。

 

「今日はちょっと疲れたよ・・・」


 そういうユアンの目はとろんとしている。

 体がゆらゆらと揺れ始め、寝台へと座った瞬間、体を横に倒す。


『飯がまだだが?』

「マオが食べといて・・・」


 寝るときは一緒でないと体の疲労が抜けないが、こういう風に食べることに関する場合、兼用で助かるのだ。


「おやすみぃ・・・」

『あぁ』

 

 そしてユアンは中に入り夢の中に旅立つ。

 そして表にはマオが出てきた。


「寝たか・・・」


 マオはユアンが寝たことを確認すると寝台に横になっていた身体を起こす。


「ここから先はユアンにはあまり関係のないことだからな」


 そう、ユアンが不自然に眠気を訴えたのはマオの仕業であった。

 寮に帰る途中に中から三つほど魔法を発動した。

 一つはユアンを夢へと誘う魔法であり、そしてその他は―。


「後は餌に引っかかるのを待つだけだな」


 マオはにやりと笑い、夜が更けるのを待つ。

 聞きたいことが聞けるだろうという期待感と高揚感。


「夜が楽しみだ」


 太陽が沈もうとしていた。



 

 夜が更ける頃、一つの影が学園の敷地に姿を現した。

 それは闇に溶け込むように、音もなくその場にいる。

 疾走―その言葉が正しいだろうか。

 その影は普通なら草木に触れれば音が鳴るところを、その隙間を縫うように走り出した。

 目的地は学園の校舎ではなく、隣接された寮。

 影はするりと楽に侵入を果たす。


 迷いがない足取りは左の階段へ―男子が寝ている方だ。

 皆寝ているのか、静かな空間が廊下を支配する。

 その影にとっては何度も何度も(・・・)してきた任務だ。

 失敗する理由が見つからない。

 階段を上り、三階まで来ると二番目の部屋に迷いなく体を滑り込ませる。

 鍵など影にとって意味のない代物だ。


 膨れ上がった布団を見たとき、影は任務の成功を確信した。

 冒険者や兵士ならば気配があった時点で目を覚ますことがある。

 しかし、寝ている学生のなんと無防備なことか。

 それも仕方がないのだろう。

 寝ている時に気配を察するなど経験で覚える技量だ。

 前線や街道などであればいざ知らず、安全な学園で培えなどと無理な話だ。


 無駄な思考を振り払い、影は懐からそれを取り出した。

 月光が窓から差し込むと、それは銀光を反射させる。

 短剣だ。


 それを逆手に持ち、油断なく忍び足で布団に近づく。

 暗い室内で白い布団に紅い華が咲く様子を思い浮かべながら影は大きく振りかぶり、それを突き刺すのであった。

 それが罠だとも知らずに・・・。


 

 

いちわめ~


連投稿できるのかは作者の眠気次第。


もしかしたら今日はこれで終わるかも・・・?

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