疑い
短め
ビュールの取立てで解散し、ようやく抜け出せたユアンはルークとクインの近くに座る。
「置いていくなんてひどいじゃないか・・・」
「巻き込まれたくねぇからな」
「見てて面白かったよ、にひひ」
非難めいた視線を向けたところで彼らには通じず、泣き寝入りするしかないユアンであった。
◇
この学園は午前に座学をし、午後から実技という形をとっている。
座学は一日に三つある。
初日ということもあり、ビュールが担当する歴史から始まるようであった。
「―散発的な攻撃しかしてこなかった魔人族でしたが、おおよそ百年前。先代の魔王が倒れ、次代の魔王が決まったその年に、大規模な攻勢が起こりました。それは―」
『ほう。面白いな』
(何が?)
歴史はマオが死んだ後の話であり、マオが知らない話である。
例えそれが平人側の主張が強く込められた物であっても、大筋は間違っていないはずだとマオは考えている。
そして、時たま自分らしき魔王が紹介されると、ユアンにここは違うなどと楽しげに指摘する始末だ。
「―私は魔人は悪だと思っています。どんなに理由があろう話し合いで解決する必要性を訴えます」
ビュールの言葉が一層強くなる。
何かしら意思の感じる言葉で同級生も聞き入っていた。
(・・・ねぇマオ、ちょっと気持ちが悪いから代わってくれない?)
『後にしろ』
ユアンはマオに違和感を訴え、自分の中に燻る不快感を告げる。
しかし、マオは先ほどの楽しげな様子は消え失せ、冷たく突き放すように言う。
「しかしながら現在、平人と魔人の関係は過去の産物により悪化の一途を辿っています。故に戦況を一時、平人有利にし、そこで交渉の場を設ければ必ず相手は乗ってくるでしょう。そうすればこの大陸に平和をもたらすことが出来ると私は考えます」
熱を持った言葉は生徒の心に響いている様子で、皆の瞳の中には平和をもたらすのだという意思が垣間見える、二人の生徒を除き。
「なぁユアン。なんか気持ち悪くねぇか?」
「う、うん」
「確かにこの学園は元々兵士を育成する学園だったらしいけど、今は衛兵にも宮廷魔導師にも、騎士にもなれる学園だぜ?なんか兵士の教育を受けているみてぇだ」
ルークの疑問は尤もだ。
「何時もなら何かしらクインが気づくはずなんだが・・・。なんかわかんねぇけど先生の言葉に変な所が無かったか?」
『やはりか・・・。ルークとやらも目の付け所が良い』
(どうでもいいけど・・・、本当に気持ち悪くなってきた・・・)
ユアンの顔色がどんどん悪くなっていく。
「お、おい。大丈夫か?」
『とりあえず、我慢しろ。今下手に動くと死ぬぞ?』
それに気が付いたルークが心配するが、マオの指示は耐えろであった。
信頼する友人の真剣な言葉にユアンは我慢することを選ぶ。
「だ、大丈夫・・・。元々僕は身体が弱いんだ・・・」
こんなにも二人が話しているというのにクインも周りの同級生も気を向ける事は無い。
ビュールもまた自分の持論に陶酔しているのか、意識は遠くに行っている。
二人はビュールの授業が終わるまで気持ちの悪い状況を耐えるのであった。
◇
一つ目の座学が終わる鐘が鳴り響く。
話し足りないような表情を浮かべ、ビュールは教室を出て行った。
それを見た二人はようやく、身体から力を抜き机に倒れこむ。
「だらしが無いわね、二人とも」
その様子を見たクインがやれやれと首を振る。
二人にしてみれば、何で今の今までこちらに意識を向けなかったんだ、という思いである。
しかし、それを口に出来る余裕はなく、座学一つ目で体力のほとんどを持っていかれた形であった。
「マジわかんねぇ。何が起きてたんだよ・・・」
「僕も・・・うぷっ」
吐きそうな不快感とビュールや周囲に対する違和感で胸がいっぱいになった二人はしばらくの間、うつ伏せで落ち着くのを待つのであった。
『・・・』
その間、マオはじっとビュールの出た教室の扉を見ていた。
それに気が付いたものはユアンも含め、誰もいなかったのである。
書く事が無いので感謝を
いつも読んで下さる読者の皆様
ブクマ、評価とても感謝しています
ありがとうございます
今後ともよろしくお願いします
ではでは




