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落とされた理由

二話目~


ちょっと長くなりそうだったので切りました





 部屋に戻ったルークとユアンは明日の準備を始める。

 とはいっても初めの授業なので学園がほとんどを用意してくれるため、着替えや心構えだけなのだが。

 部屋の中は寝台が二つあり、机も二つ、灯りは一つで、各自荷物を入れる道具袋が寝台の横に吊り下げられている。

 部屋には鍵があるが、袋には鍵は無い。

 盗れるといえば盗れるのだがそこは信頼をどう深めていくか、生活するものの努力次第だろう。

 そういう意味ではユアンとルークはいい関係であるのだろう。

 言いたい事を言える関係は得難い財産だ。


(マオ?ずいぶん静かだったね)

『いやなに、自分の記憶を探っていたのと、ちょっとした実験をしていったのだが、収穫はあった。たいした事はないということが分かっただけでもいい結果だろう』

(よくわかんないけどマオが満足してるならいいや)


 マオの意識が浮上したのを感じ取りユアンは話しかける。

 なぜ探っていたのか、実験とは何か、聞きたいことはあったが自分もビュールの話を整理する必要があった為、詳しくは聞かないことにしたのだった。

 

 第三者から見れば静かな部屋である。


「なぁ・・・」


 その沈黙を破ったのはルークであった。


「・・・ん?」


 思考に耽っていたユアンは話しかけられた事に遅れて反応する。

 ルークは顔を歪ませ、何か言いたげな表情をしていた。

 自分が何かしたかなとユアンは考えるが何かをした記憶はない。


「どうしたのさ?」


 埒が明かないと見たユアンはいっその事自分から聞いてみることにした。


「・・・お前は俺が王都から落ちてきた理由が知りたいか?」


 ルークが聞きたいのは落ちてきた理由を知りたいかということであった。

 王都から落ちてきた者の話、いうなれば体験談である。

 王都を目指す物にとっては為になる話のはずだ。

 しかし、ルークが思う以上にユアンはズレていた。


「王都から落ちてきたの!?知らなかった・・・」

「そこからかよ!!」

「いやぁ、確かにものすごく強いなぁって思ってたんだけど・・・ほへぇ~」

「ほへぇ~って何だよ・・・ったく」


 気が付いていなかったユアンの鈍感さに呆れながらルークはユアンを見る。

 ユアンの目に侮蔑の意思が込められていない事に気が付いたルークは安堵した。


(・・・安堵?俺が?こいつに?)


 会って初日だというのに自分でも気が付かないほどルークはユアンに心を許していたことに驚く。

 恥ずかしさもあり、その感情を悟られぬようルークは隠すのだった。


「じゃあルークが落ちるほどって事は王都の生徒って皆、すんごく強いんだね?」


 感情を隠しているルークに機微に疎いユアンは気が付くはずもなく、話を続ける。


「・・・いや、俺は自分で言うのもあれだが戦闘関連の授業はそこそこいい点数取っていたぜ?座学はまぁ、クインに教えてもらいながらやってたからギリギリ大丈夫だったはずだ」

「じゃあ、何で選ばれたんだろう?」


 ルークは悩むユアンに話すことを躊躇する。

 それは自分の言わば劣等感(コンプレックス)だからである。

 自分をさらけ出すのは誰しもが二の足を踏むであろう。

 しかし、ルークはユアンに知って貰いたいと思ったのだ。

 友達と言ってくれたこの少年に。

 

 ルークはある体質と兄の実績によって周囲から距離をとられていた。

 もちろん友人や近づいてくる者も居たが、この学園に来て初めて友と言ってくれたユアンに内心感謝と安堵を感じていたのだ。

 ルークはまだうんうんと悩むユアンに苦笑しながら答えを言うことにする。


「俺はある体質で落とされたんだよ」

「ある体質?」

『ふむ』


 マオも興味が出たのか話に混じる。

 成績も悪くない者を体質で落とすという、それは余程のことなのだろうとマオは感じ取る。


「俺がお前との戦いでどんな魔法を使ってたか覚えてるか?」

「全部じゃないけど大体は・・・」

「俺はな・・・」


 やはり言葉に詰まり、口に出しづらいのだろう。

 少しばかり沈黙があった後、ようやくルークは口を開いた。


「俺はな・・・風以外の精霊に魔法を手伝ってもらえないんだ・・・」

「・・・え?」

『・・・ほう』


 つまり、風以外の魔法が使えないということだ。

 確かにユアンとの戦いでルークは風魔法しか使っていなかった。

 しかし、それは自分程度に他の魔法は要らないのだとユアンは思っていたのだが、それが他の魔法が使えないということとは考えもしていなかった。

 実際のところ、マオもそのように考えていた。


「戦場において、単属性魔法しか使えない兵士や騎士はすぐに死ぬ。使えない駒なんて要らないと王都の教師に言われたよ」

「・・・それは」


 事実、風しか使えないと知られれば幾らでも対処法が浮かんでしまう。

 今後の授業でも習うのだが風は土に弱い。

 大きな壁に阻まれた風の魔法がその壁を突破するには想像力の向上と精霊が魔法に使用する外魔力の量を増やすしか方法は無い。


「俺の家系は元々戦場で武勲を立てた平民が貴族に上がった成り上がりの家系だ。風を得意にしていた先祖って聞いてる。家族全員が風を良く好んで使うけれど俺みたいに風のみという奴はいねぇんだよ・・・」

 

 実際、クインは風以外にも得意な魔法があると自己紹介のとき話していた。


「お前は、大丈夫だろ?俺は不安なんだよ・・・」


 ルークの言葉にユアンは何とかしてあげたいと思う。

 しかし、自分にはどうすることも出来ない。


(マオ、どうにかしてあげられないかな?)

『ふむ・・・』


 やはり、マオに頼るしか出来ない。

 そんな自分を歯痒く思うが、マオならと希望に縋る。


『そのような体質に心当たりはある』

「本当!!?」

『あぁ』


 突然、大声を上げたユアンにルークは驚きの表情を浮かべる。

 ごめんと謝り、ユアンはマオの言葉に耳を傾けるのだった。


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