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制度

一話目~





 制度、その言葉を聞いたルークとユアンは食い入るようにビュールを見つめる。

 特にルークは前のめりとなり、彼女を見つめる視線は真剣そのものだ。

 ルークに何がそうさせるのか、ユアンは知らないが彼には負けたくないというユアン自身も気が付いていない対抗心を燃やす。


「ふふっ、真剣ね。ちゃんと話すから姿勢を正しなさい」


 微笑を浮かべ、柔らかに嗜める。


「学園長も言っていたけれど―」


 そう前置きをし、ビュールは話し始めた。


「この制度は学園に在籍する全生徒を対象とした制度よ。一学年から五学年まで。もちろん家柄も関係なく、上がる者は上がるし、落ちてくる者は落ちてくるわ」


 後半の言葉を聞いたルークの顔は何ともいえない表情をしていた。

 ユアンはまだ気が付いていないようだが、貴族ながらルークは落ちた者たちだ。

 ビュールの言葉は落ちる時に言われた言葉を思い出しているのだろう。


「でもね、学園長は全生徒対象っていってたけれど実際、三学年までの中から選ばれることが多いわ。それと三学年から選ぶのが通例ね」

「どういうことですか?」


 後半の意味は分かるだろう。

 優秀なのは新入生より経験を積んだ三学年だ。

 だが前半の三学年までということが分からなかった。

 三学年までということはそれだけ機会が減るという意味に捉えられる。

 その分、ルークの真剣さは増す。

 この質問に答えたのは隣の女生徒―クインであった。


「忘れたの、ルーク?」

「あぁ?」


 はぁ~とため息をつき、クインは出来の悪い兄妹に説明する。


「四学年と五学年になれば基本的に実習ばかりになるはずよ。現地実習ばかりで学園にはほとんど戻らない、だったですよね?」


 ビュールに今の説明が正しいのかを確認する。

 頷き、微笑んだことを確認し説明を続けた。


「現地実習を二年間も続けていると愛着も沸くだろうし、何より生徒を受け入れた現地が手放さないでしょ?」

「正解。実習先の人たちが連れて行かないでくれってよく連絡が来るのよ」


 つまり、どうしても行きたい成績優秀者が四学年や五学年に居れば、学園側はその生徒を選ぶだろうがそのようなことはほとんど無いということだ。

 更に言えば、現地実習はその学園の周囲であり、遠方から来た生徒以外地元なのだ。

 故郷のために働きたいというのは多いだろう。


「でも最近はなぜだか分からないけれど前線希望者が多いみたいね」

「まぁ、俺には関係ないな。一年で王都に行く」

「今のルークなら無理よ」

「てめぇ・・・」

「あはははは」

「ユアンも笑うんじゃねぇ!!」


 賑やかな声が食堂に響くがビュールがパチンと手を叩き注意を引き付ける。


「話を戻しましょう。成績優秀者を三名選ばれるわけだけれど、王都からは成績不振者が六名選ばれるのよ」


 ユアンは国内に学園は三つあるという言葉を思い出した。


「つまり、三人ずつに分けられるということ?」

「はい、正解よ。でもね三人ずつ選ばれても辺境の―この学園に来るのは精々一人ね。皆辞めてしまうのよ・・・」


 ビュール曰く、家族と離れ離れになるのが嫌という生徒や自分は王都に居たという自尊心から故郷に戻り、家業を継ぐ者が多いらしい。


「ルークは希少な生徒なんだね?」

「変わり者みたいに言うなよ」

「いいことだと思うわ。でも諦めなければいい事があるなんて無責任なことはいえないわ。だって―」


 ビュールはルークやクインの事情を知っている。

 この場で分からないのはユアンだけだろう。

 故に、厳しい事を言わなければならないのは教師であるビュールなのだ。


「王都から選出された成績不振者が王都に戻れた過去は一度もないのよ・・・」

「・・・」


 ユアンだけは頭の中にハテナを浮かべるだけであったが、ルークは知っていたのだろう。

 知っていたが関係者からその事実を突きつけられるとより一層、不安が高まる。

 少しばかりの沈黙が食堂を満たす。

 しかしそれを破ったのはユアンであった。


「よくわかんないけど頑張ればいいんだね!!ルーク、クイン、頑張って一緒に王都に行こうよ!!」


 ユアンはルークやクインの事情を知らない為、二人の感情を無視した言葉を放つ。


「てめぇは!―」


 ルークは憤慨する。

 ユアンは王都から落ちてきた者ではない。

 なら選ばれる可能性が高いという事だ。

 怒りでユアンを殴ろうとした時、ユアンが言葉を続けた。


「―だって友達と一緒のほうが楽しいじゃん?ね?」

「・・・」


 ルークは拳を止め、ユアンをじっと見た。


「こいつってやつは・・・」

「ん?」


 何も考えていない本心からの言葉にルークは、呆れとどれだけ自分に余裕が無かったのかと自分を見つめ直す。


「誰が友達だよ・・・」

「ルークとクインだよ?」

「うるせぇ・・・」


 クインはルークの感情が理解できた為に止めはしなかったのだ。

 むすっとしたルークを放って置き、ビュールは話を続ける。


「続けるわね?もし王都に行く事が出来たときのお話ね」

「行けるし」

「行くもん」


 行けた時という仮定の言葉が気に食わなかったのか二人は口を挟む。


「ルークもユアンも話を逸らさない事」


 クインはため息を付きながら二人を嗜めた。

 ビュールはそんな様子を笑いながら説明を続ける。


「仲がいいわね」

「良くない」

「うん」

「二人とも黙りなさい」

「「はい」」


 本当に仲がいいと呟き、今度こそ止まらずに説明を再開した。


「王都に行くと一学年から始まるわけではなくて二学年から始まるのよ。三学年だった生徒も一学年だった生徒もね」

 

 つまるところ、王都は辺境の成績優秀者は二学年程度の実力しかないと傲慢にも告げてきているのである。

 そんな性質を王都組は知っているのか反応を示さず、ユアンは意味に気が付かず流されるのであった。


「王都からの生徒は一学年から始まるのだけれど、まぁこれは要らないわね。以上で制度の話は終わりよ?何か質問あるかしら」


 三人は首を振り、質問が無い事を示す。


「気になることがあればいつでも聞いていいからね?次は学園についての規則を話すわ」


 規則や教育課程について教わった後、三人は部屋に戻り、明日から始まる学園生活の為の準備をするのだった。

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