初陣
まだ戦うよ~
中央により、礼をしたところでようやく相手の顔を見た。
眉間に皺を寄せ、ユアンを睨む様はまるで親の敵を見るような目である。
そんな表情を向けられる覚えが無いユアンは怯えながらも、今までマオと訓練してきたことを信じ、目に力を入れ睨み返す。
それが気に入らなかったのか相手の少年は眉をヒクヒクさせながら、手に持つ槍の穂先をユアンに向け威嚇している。
『先ほど槍を振って見せていたが重心がしっかりしている。少なくとも今までの素人とは違うだろう。心してかかれ』
(うん)
『今回、俺は手助けしないつもりだ。教えたことをしっかりすれば何の問題も無い。自信を持て』
(うん)
マオの激励に短く答え、教職員の合図を待つ。
槍を選ぶ時点で他の生徒とは違う。
魔法の可能性も視野に入れ戦う必要がある。
そんなことを思いながら相手の目を見る。
強い意志を感じる目だ、一筋縄にはいかないだろうとマオは思うのだった。
「始め!!」
先に仕掛けたのは相手の少年だった。
初撃で仕留めるつもりだったのだろう、両手に持ったそれを大きく振り被り、腹に向かって突き出す。
しかしそんな大振りな一撃を貰うユアンでは無かった。
右足を半歩後ろに引き、身を捻りながらそれを避ける。
驚いた表情が近くに見え、ユアンはにやりと笑う。
挑発と受け取った少年は軸足に力を込め、無理矢理払い技に移行する。
無理な体勢からの攻撃だった為、ユアンは後ろに軽く跳び避けた。
「やるじゃねぇか」
「ありがとう」
律儀に返し、今度はユアンの番。
近距離戦闘武器と中距離戦闘武器との戦いだ。
当然ながらユアンは相手の攻撃を避け、懐に忍び込まなければならない。
踏み込み相手に肉薄しようとするも少年の突きが鋭く、なかなか近づくことが出来ない。
「はっ!」
小さく息を吐き、右手の手甲で突きを流す。
それと同時に左手で拳を作り、脇腹を狙う。
少年は突き出していた槍の柄を上手く引き、それを防いでみせる。
「マジかよ、プルプル野郎の癖に」
「プルプル?」
少年の言葉に疑問を持ちながらも戦闘は続く。
ただここで一つ忘れてはいけない事があった。
ユアンは病気持ちである。
体力が無く、短期決戦が望ましいということ。
それ故にマオはユアンを訓練するとき、より体力を温存するため武器なしの手法をとった。
武器を振るたびに体力を消耗していてはすぐに負けてしまう。
体を使い、躱し、避け、弾き、急所を狙う。
これを徹底して教え込んだ結果、何とか持ち堪えているというのが現実である。
もう一つこの手法を選んだ理由がある。
マオがこの戦闘方法をしていたということが何よりもユアンの興味を引いたためだ。
体術と魔法の混合戦闘術。
体力が残り少ないがユアンの真価はこれからである。
「ちょっと体力が無くなってきたから本気出すね」
「あ?」
魔法は便利だが危険だと知っているユアンは出来るだけ少年に怪我をさせないよう、魔法を使わない方針でいた。
しかし、少年があまりにも粘るのと、初戦闘ということもあって疲れるのが早く、使うことにする。
「『風纏う衣』」
相手の怪我を少なくする為に唯の身体強化を選ぶ。
移動速度や攻撃速度が上がるだけの魔法。
「行くね。はぁ!!」
相手との距離を一気に詰め、少年の顔が近くに見える。
驚きと焦りの混ぜた表情に勝利を確信する。
右手に力を込め、突き出す。
捻り込んだ拳が少年の腹に当たるかと思ったその瞬間。
「『拒絶の断風』」
少年の口から言葉が紡がれる。
それは形を成し、ユアンの拳を防いで見せた。
『避けろ!!』
「えっ?」
少年が魔法を使えるとは思わなかったユアンは一瞬硬直してしまう。
相手がそんな隙を見逃すはず無く、力一杯の払い技を腹部に直撃させた。
マオの介入も空しく一撃を受けたユアンは吹き飛ばされ地面に転がる。
「うぐっ!!」
穂先を丸めてあるとはいえ、太刀打や柄、石突は本物と同じ作りだ。
ユアンは腹にくる痛みを我慢し、立ち上がる。
「ふん、まさか魔法を使えるとは思わなかった。魔法は使わねぇつもりだったがお前が使うなら仕方がねぇ。『風纏う衣』、『重き風の一撃』」
ユアンと同じ身体強化と槍を包む風の魔法。
少年は一撃も受けておらず、体力もまだまだありそうだ。
それに比べユアンは一撃で疲労し、魔法の維持も忘れ、痛みに顔を歪めている。
しかし、目に宿る闘志は消えておらず、さらに燃え上がる一方だ。
マオは危険なとき以外の介入を避けるべく、傍観に徹するのだった。
初陣の第二幕が幕を開ける。
二話目になってるはず・・・
予約だからわかんない




