魔王様、金策方法は?
太陽が空の中央に来た時、宿を抜け出したマオの姿は外壁の更に上。
衛兵などが緊急時に鳴らす鐘がある屋根の上にいた。
見晴らしが良く町の外は先ほどまで並んでいた列の姿が見え、中では人が大通りを行き来する姿が良く観察できる。
そしてマオはここまで上ってきた目的を達する為、魔法を発動する。
「ふむ。やはり冒険者組合らしき建物には見所の有りそうな者が数人はいるな」
目的は二つ。
一つは町の把握である。
それはマオの癖で趣味みたいな物だった。
人の手で造られた町の構造はなかなかに興味深く、今でも魔人領の主要都市の構造を覚えている。
コロギの町の構造は単純であった。
西門から東門に掛けて大きな通りが一つそのほかに八本、道が平行に並んでいる。
北と南に四本ずつあり、それらを細い道がつなぐ形だ。
魔法を使い市井の話に耳を傾ければ、西から東に掛けての中央の通りを一番通りといい、そこから北二番南二番と続くようである。
一番通りは人が多く集まる為、店を構えるものが多い。
そこから二番通りは店と住居が混在し、三番通りになれば住居ばかりに変わり子供達が遊んでいる。
南四番通りはユアンが通う学園があり、学生を対象とした飲食店や雑貨店があるようで大変賑っていた。
北四番には丁度マオが気にした建物、冒険者組合がある。
その周囲には鍛冶、薬品、本など冒険者の為の店が密集していたが、今の時間帯には皆、依頼を受けている為か若干落ち着いた雰囲気となっていた。
「やはりいるな。・・・学園か」
もう一つは『同郷』の存在である。
「このような最果ての町にご苦労なことだ。まぁ、俺にとっては都合がいいから感謝すべきか」
どちらにしろ明日はユアンと町を周り、学園にまで行く必要があるので『同郷』の存在は頭の隅に置いておく事にする。
目的を達成し満足したマオは改めて金策の方法を考える。
(金銭は持ち運べる程度なら幾らあっても困らないだろう)
そう思い可能な限り稼げる方法を絞っていく。
容姿を生かした接客・・・却下。
―人に見られれば見られるほど魔法の幻の維持が難しく、バレてしまう可能性が高いだろう
職人に混じり生産・・・却下。
―技能習得ばかりに時間が取られ、結局稼げる金額も少ないだろう。
そう考えていくと選択肢が一つになってしまった。
魔獣狩り。
魔獣は狩れば狩るほど儲けが出る。
マオが調節しさえすれば、遊ぶ金額ぐらいすぐであろう事ぐらいはすぐに分かるが、マオは眉間に皺を寄せる。
(町を出れば入るときどうすればいいのだろうか?それと素材の換金場所は何処だ?)
魔獣を買い取ってくれる商人には心当たりが無く、ギーゴは日用品や食品を扱う為売り込めない。
頼めば紹介してくれるかもしれないが午前に体調不良だったユアンが魔獣狩りに行くなどと言えば、止められる事は簡単に予想がつく。
そのためマオはため息をつき、その建物に向かうのであった。
(ユアンの楽しみを一つ奪ってしまうな・・・。)
そんな思いを抱きながら向かう先は『冒険者組合』。
ユアンの夢の第一歩を先に経験してしまうマオであった。
◇
ギギギと音を立て冒険者組合の中に入ってきたのは、水滴が煌いている様に見える銀髪に紫水晶を嵌め込んだかに見間違えるほど美しい眼を持った青年であった。
旅装束を着たその男性はコツコツと音を立てながら職員のいる場所に向かう。
その姿は気品に溢れ只者ではないことを周囲の人間に知らしめる。
「すまない、お嬢さん。聞きたいことがあるのだが」
「・・・えっ?・・・あ、はい」
そう声を掛けられた若い女性職員は見惚れてしまい返事が遅れてしまっていた。
視線を周囲に流せば、女性職員だけでなく冒険者然とした女性達も頬を赤らめている。
(ふむ、少しやりすぎたか?)
もちろん彼はマオである。
冒険者組合に入る時、ユアンの姿のままだと幼さが残り侮られた可能性があった為、幻影を自分に貼り付けて入ったのだ。
それがあまりにも女性受けがよかったのか、少し目立つようになってしまった。
あくまでも幻影なのでばれてしまう可能性があったが、この様子だと案外安全かもしれないと内心マオは考える。
マオの心配は実際杞憂である。
マオほどの魔人の幻影を見破れる者がいたとすれば、それはもう魔王になっていてもおかしくない。
それに気が付かぬまま職員に話を聞き続ける。
「冒険者になりたいんだけど手続きしてくれるかな?」
幻影を選んだ理由はもう一つある。
それは使い捨てができるのでは無いかと考えた為だ。
登録し、用が済めば魔法を解き失踪したことにすれば後々楽であろうと選んだのだった。
「は、はい!!ここに必要事項の記入と組合の規則が書かれているのでお読みください!だ、代筆は必要ですか?何なら私が書きますが!」
矢継ぎ早に言葉を放つ職員を丁重にお断りを告げ、規則の部分に目を向ける。
ざっと読み簡略化すると―
組合はあくまで仲介人に過ぎないということであった。
依頼を斡旋し、素材の売買の仲介。
他にも書いてあるがこの姿でここに来るのは後一回だろうと考え、ユアンと来たときに改めて見る事にする。
「こ、これが登録書です。無くさないでくださいね?」
「ああ」
そう生返事を返し組合から出て、東門へと向かう。
ごった返す人々の間をするりと抜け、門の外へと出る。
並ぶ人たちを尻目に魔獣の居そうな森に足早に歩みを進めるのであった。
くっ、戦闘シーンまで行かなかった。
次だ次
あ、SSは最後に書く予定?




