商人ギーゴと共に
今日三話目です
まだいけるか?
コロギの街に続く道で馬車に揺られながらユアンとギーゴは暇つぶしのため会話を楽しんでいた。
「坊ちゃん、コロギの町には本来三日で着きますが私は他の村に寄らねばならないので五日はかかると思ってもらえますかね」
「式には間に合うかな?」
「それは問題ないかと」
「ならいいよ」
『旅とは人と出会い、会話し、親睦を深めるのも醍醐味であるからな。もちろんさまざまなものを見て、嗅ぎ、食べ、聞き、触る、これら行為も楽しみの一つであるな』
ユアン以外に人がギーゴのみという事もあってか、いつもより饒舌なマオは村の外に出たことで気分が高揚しているのであろう、いつもより口数が多く話し続ける。
『新たな街に入るときの期待、未踏の地に立つあの高揚。いつになっても感じていたいものだ』
「そうだねぇ」
暖かい日差しの中、二人は風を感じながらゴトゴトと揺れる馬車に身を任せ、眠ることにしたのだった。
◇
マオの話の通り、人との触れ合いは心を暖かくするものであった。
途中、あの村に寄りますとギーゴが言ったため、一緒に向かい村の中に入る。
この村はケルト村より小さく住民も少ない。
農夫達がこちらを見やり、ギーゴだと分かるとこっちに集まりだした。
「おや、ギーゴさん。その坊主はなんでぇ。弟子かね?」
「違いますよ、ちょっと同郷のものでしてコロギまで一緒に行くんです」
「そうかそうか、しかしひょろっこいのぉ。ほれうちで採れた野菜でぇ。もってけもってけ」
ほいっと投げられたそれを受け取り感謝を伝える。
ギーゴの商売を見ているとこの村は貨幣がないようだ。
先ほどの村人も他の住人も野菜や小麦などを対価に塩や香辛料を受け取る。
それをニコニコと交換するギーゴは本当に楽しそうに会話をしている。
彼はきっと人が好きなのだろうと思うユアンだった。
その夜、街道から少し離れた場所に野宿することに決めた二人は準備をし始める。
「ギーゴさん、これで良いですか?」
「ええ、問題ありません。次は火を熾してもらえますか?魔法使えると聞きましたので」
彼の言う通り、引火しないように天幕から少し離れた場所に火を熾す。
枯木に付く火を見ながら初めての野宿に心を躍らせる。
(楽しみだねぇ)
『そうであるな』
ギーゴは天幕から少しはなれたところで何かを地面に刺している。
「それなんですか?」
そう聞けば教えてもらうことが出来た。
獣除けということらしい。
獣の苦手な香りを放ち退けるというもので効果は一日持つのだそうだ。
魔獣には効果が薄いので注意するよう言われる。
「魔法使えるものは皆、結界を張るんですがね。戦士の方はまだ戦えますからこのようなものあまり使わないのですが、私達商人は弱いので野犬ですら脅威なんですよ」
そう言い四方に突き刺し終えると次は料理の時間だ。
「坊ちゃんは料理できますか?旅するなら料理は必須技能ですよ」
「そうなんですか?」
「当然ですよ。短い旅なら干し肉や乾パンで良いでしょうが、長ければ栄養も偏りますし第一おいしくないでしょう、あれ」
私には我慢できませんと首を振る彼は体験したことがあるのか苦々しい表情を浮かべている。
今夜はギーゴが料理をするということだったのでそれのご相伴に預かることにした。
(明日から頑張ろう)
『絶対にやらないだろう』
そんな呆れたマオの声を無視し料理に舌鼓を打つ。
◇
日が暮れ、周囲がどっぷり闇につかり始める。
目の前の火が頼りなく燃え続けるそれに薪をくべながら、虫の鳴き声に耳を傾ける。
静かな空間で言葉を発したのはユアンであった。
昼間のことを思い出し気になっていたことをぶつけてみる。
「・・・ギーゴさん、ケルト村まで来るのは赤字でしょう?コロギまでが普通じゃないんですか?」
そう当然の疑問である。
コロギはここら辺で一番大きな町だ。
その先の東側にはケルト村以外にも村はあるが、大きな村といえばケルト村のみである。
町で止まらず村に来るのは何か意味があるのか。
ただ故郷だからなのか、それ以外に意味はあるのか。
聞いてみたいと思った。
ただ気安く、仲良くなったと思い込んで・・・。
「・・・私はね、村が嫌いだったんだ。ゆっくり流れるあの時間がとても嫌いだった」
酒を呷る彼は酔いもあるのだろう、ぽつぽつと話し始める。
「飛び出したんだよ、誰にも言わず何も持たず着の身着のまま村を出たんだよ。後悔したさ、腹は減るし獣は襲ってくるし痛いし苦しいし。そこで拾ってもらったのが今の商会でね。そこからは飢えることもなくただ安全に過ごし妻と娘が出来た。大事なものを忘れて・・・。そして・・・」
そこで詰まった彼の顔は必死に涙を堪えている。
ユアンは後悔した。
気安く聞いていいものではなかったと。
『聞いたお前が悪い。他人の心に踏み込む勇気なしに聞いたお前が悪い。逃げるな最後まで聞くことが責任である』
逃げ出したくなるその心をマオが抑える。
彼は一呼吸置いた後続ける。
「・・・ケルト村は大きな村だけど村であることには変わりないんだ。周囲を囲む壁なし。そのときは警備なんてものもなかった。・・・・・・私の家族は死んだよ、魔獣に襲われてね。私はきっと忘れないためにこれが贖罪だと信じて村に通うんだ。・・・まぁ、赤字ではないよ。オババの薬は高価に取引されるんだ。もともとオババは――」
ユアンは一切言葉を挟めず、赤字でないという言葉の先を聞き逃していた。
あなたはもう許されているはずだ、家族はそんな事望んじゃいない、幸せになっても良いんじゃないか。
そんな安っぽい言葉は望んでいないだろう。
仲良くなったつもりのただの他人には言えない。
そしてユアンは思うのだ。
自分の家族は大丈夫だろうか、この旅路は正解なのだろうか。
初日にして重いものを聞いてしまったユアンは、夜も眠れぬまま次の朝を迎えたのだった。
短め投稿ですいません
区切りがいいとこできっておりますので
投稿できるときにせねば・・・




