幕間 過去一
もっと前に入れるつもりだった幕間です
過去はこれからもちょいちょい入れるつもりです
その空間は城の中で最も緊張感に包まれていた。
ピンと線の張ったような緊張感を絶ったのは謁見の間に座する王であった。
「遠方の地から遥々ご苦労であった」
王は目の前に跪く臣下に言葉を向ける。
謁見の間には左右に兵士が五十ほど待機しており、王の一段下には副官とも呼べる王の側近達が数人立っている。
そのすべてが中央に跪く十名ほどの者達に目を向けていた。
あるものは侮蔑の視線を、あるものは哀れな物を見るように。
「『忠誠の鎖』」
「ヒッ」
王が魔法を発動する。
それは鎖であり、この空間に存在するすべての者の身体へと入り込む。
中央の十名は一様に動揺を隠せず、小さく悲鳴を上げてしまう。
ただそれは兵士や側近の怒りを買ってしまう行為であった。
曰く、なぜ親愛なる王の魔法を受けることを容認できぬのか。
曰く、貴様らの忠誠はその程度であったか、など。
それは次第に大きくなり王の前であるのにも関わらず目の前の者に殺意を向ける者も居た。
「よい」
その声でざわめきは収まり、王の権威を示していた。
「なに、安心するがよい。その魔法はお主らの真意を確かめるための魔法である。心の内をそのまま話せば何ら害はない」
彼らは同時に同じ事を思う。
それは死刑宣告と同じである、と。
兵士らはこの者達がなぜここに呼ばれたかは知らない。
知っているのは王と側近、そして本人でだけである。
「奴等をここへ呼べ」
「はっ!」
兵士が連れてきたのは薄汚れた平人の男であった。
王はそのものにも同じ魔法をかけ、問う。
「我に忠誠を誓うか?」
男は驚き、そして生き残りたいがために膝を屈し臣下の礼を取ろうとした。
「私は王に忠誠を・・・ぐっ!?あがっ!ごふ!ひぎゃああああああああああ!!!!!」
男の身体に変化が現れる。
体表にはボコボコとうねりを上げる鎖の形がくっきりと現れ、それは顔へと上っていき、最後には真っ赤な花を咲かせるように頭が弾け飛ぶ。
その様子を見る王の表情は無である。
「・・・次だ。ディー・ロイツ、カナリア・ツイル、カトレア・ツイル、ボルグ・ディガント、エンビィ・ポートレス。お主らにとって我は何だ」
次は自分の近くに居る側近の番であった。
彼らにも魔法は掛かっている。
「我らが王よ。あなた様に忠誠を尽くし、私の命が尽きるその時まであなた様の剣であり盾であり鎧でありたいと願う所存にございます。死ねと申されるのであれば、いつでもこの命捧げさせて頂ききたいと望むことをお許しください」
ディーという側近が言い始め彼らは忠誠を誓う。
そこに一切の邪念なく、王に向かって跪く彼らは立派な信者そのものに近い。
「さて」
それは中央の者達にとって対象が自分達に移る合図であった。
「貴様らの忠誠を示してもらおうか。なぜ私の指示に従わなかった?」
「・・・」
彼らの額には大量の汗が流れ、ぽたりと落ちたそれは床の絨毯を濡らす。
伏せる彼らは口を噤むその姿を見た周囲の者達は、剣呑な雰囲気を漂わせ王の指示を待つ。
殺せと。
「ふむ、ではこうしよう。私は貴様らが本心を話したとしても、私は手を出さないとをこの王座に誓おう」
「で、では・・・」
王の指示は簡単な物であった。
全ての領地を治めるものに私兵の縮小を命じたのであった。
それに従わなかった者達がここに集められており、目の前で理由を口々に話す。
彼ら曰く、平人との国境で私兵を減らすなどとんでもない。
死ねと仰るのか、と。
彼ら皆、平人との国境に領地を持つ者たちであった。
自己保身満載の理由に静かに眼を閉じ耳を傾ける王の姿に、分かってもらえたかと安心した表情を見せる彼らは忘れていたのだ、側近もその言葉を聞いていることを。
キンと音が聞こえたかと思うと彼らの首がポトリと落ちる。
彼らとの距離は空いていたにも拘らず、目に見えぬ閃光が彼らの首を落としていた。
ディーが臣下の礼をとる。
「申し訳ありません、王よ。親愛なる王のお耳をこれ以上穢したくはのなかったので叩き切らせて頂きました。後で掃除をさせて頂きます」
「よい。シルヴィアにさせろ。私は手を出さないと言った意味にも気づかぬ無能だ。掃いて捨てるほど居るだろう」
手を振り、構わないと示す彼は生まれながらに王として育てられた王の中の王。
彼らの忠誠を見やり、王は思う。
(俺の真意に気づく者は現れるだろうか。盲目的な信仰の彼らには不可能であろうな。臣下はいても夢を語り合う友居らず、か)
彼は後に魔人族に未来永劫語られる王。
賢王として七千年もの平穏を臣民に与えた王であった。
今日は出来れば後一、二話ぐらい投稿したいなぁと思っています、出来ればね・・・




