01話 その少年、アル。つまり主人公。
「では母上、行って参ります。」
「ええ、行ってらっしゃい。貴族の務めをしっかりと果たすのですよ。」
母上のそんな言葉から逃げるように、アルは扉を閉めて足早に歩き出した。
「いつもいつも貴族の務め貴族の務めと、だから何だと言うのだ?毎日毎日剣の修行に読み書き、作法まで…………。母上など大嫌いだ。」
アルの歩みは徐々に速くなっていく。
あるところまで来ると、アルは立ち止まり扉をノックする。
「何でしょうか?」
「アルだ。入っても良いか?」
「全く………そのような言葉使いはやめなさい。貴族としての品格を疑われてしまいますよ?」
あぁ、コイツも貴族貴族うるさいな、アルはそう思うが口には出さない。口に出してしまっては全てが白紙に戻ってしまう。
「なぁ、ライル。一つ提案がある。」
アルは家庭教師に一つの取引を持ちかける。
「提案と言っても、どちらにも益のある話だ。」
「へぇ、それでは聞かせて貰いましょうか?」
「あぁ。まず、私はココに授業を一週間に二日程度出ない日を作らせろ。そして、それについて両親にはそのことを言うな。で、それに対しコチラは私の貰っている金額の半分を渡そう。どうだ?悪くない話だろう?」
「………ちなみに、その間アル様は何を?」
「決まっている。外に出るのだ。」
「そうですか。ならば、認めることは出来ません。」
アルは焦る。
まさか自分の考えた完璧な作戦をあっさりと拒否されるとは思っていなかったからだ。
「な、何故だぁ!?ドコにも断るような点などないだろう?」
「大ありです。私が本来教えている時間であるはずなのに町中で誘拐でもされたらコチラは首が飛びます。」
「な、ならばどうすればいい?」
諦められないアルが聞くと「そうですね………」と家庭教師は考え始めた。
そして考えることしばし。
彼はようやく口を開いた。
「では、貴方が一人で自分の身を守れるようになって下さい。そうすれば、その取引に応じましょう。」
仕方が無いか、とアルは歯軋りしてソレを承知した。
◆◆◆◆◆
「やあぁぁ!!!」
幼い子供の声が広い訓練場に響く。
そして、その子供に指導する初老の男が一人。
「まだまだ全ての動きが甘いですぞ!力が無いのは仕方がありませぬ。しかし、ソレとコレとは話が別。技は膨大な時間と経験によって培われるのです!さぁ、もう一回!」
「ぱちぃん!」という音と共に、少年ーーーアルの手から木剣が弾き落とされる。
アルがまじめに剣の修行に取り組み始めたのはつい最近のこと。つまり、家庭教師と約束したことを果たし、堂々と(?)自由に町を駆け回りたいからだ。
「はぁ、はぁっ…………!もう、一回!」
叩かれて赤くなっていた手の甲を治癒魔法で治療し、再び剣を取り、二人はぶつかり合った。
◆◆◆◆◆
「いいですか?この術式はこうなるのです。」
そんな家庭教師の声が聞こえる。
重い頭で、必死に授業を聞くアル。
しかし、やがて日頃の疲れ故か眠ってしまった。
その様子を家庭教師はため息をつきながら見守る。
アル。アル=ローランド、七歳の時であった
考えているようで考えの足りていない七歳児、アル。




